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第56話 モブ、誘拐される

アリシアを介してシャーロットから手紙を貰った2日後。

それは授業が始まる前の朝のことだった。


ハンクと共に教科書をバックに詰めたり、制服を着たりと学校に行く準備をしているとき。

突然インターホンの役割を担う魔道具が部屋に鳴る。

こんな時間から?とハンクを見るがハンクにも心当たりが無いようだ。


「俺がいってくるよ」


「ありがとう、助かる」 


ハンクは立ち上がり玄関の方へと歩いていった。

俺は再び視線を下に落とし、教科書をカバンにいれる作業を再開する。

すると急に玄関の方からハンクの驚いたような声が聞こえてくる。

悲鳴のような類ではなかったので緊急性は無いんだろうけど叫び声が聞こえたからには何かがあったんだろうと俺はすぐに腰を上げる。


(一体何があったんだ……?ハンクがあんな声を上げるなんて珍しいな)


俺はゆっくりと玄関へと歩いていく。

一応いつでもラナが霊剣化させて戦闘に入ってもいいように警戒だけ怠らずに進むとハンクが座り込んでいた。

その表情は恐怖というよりも驚愕と言ったほうが合っている気がする。


「どうした?ハン……ク……」


俺の視界へ飛び込んできたのはなんといつものようにメイド服を着たリサだった。

リサの格好自体は普段と何ら変わらない。

だがこんな授業が始まる前から公爵令嬢専属の侍女が平民の男2人の部屋を訪れるなんて普通はありえない。


「……おはようございます」


そんなありえない状況に自身も納得していないかのようにリサは少し不機嫌さの滲んだ表情で俺たちに挨拶してくる。

ハンクは若干シャーロットに苦手意識があるようでシャーロットに一番近しい人物と言ってもいいリサの来訪に驚いたのだろう。


「……なぜこんな朝早くリサ様がここに?まさか遊びに来た、なんてことを言うつもりはないのでしょう?」


「当たり前でしょう。なぜ私が遊び相手に貴方たちを誘わないといけないのですか。これはあくまで《《仕事》》です」


仕事?

ということは何かしらシャーロットの命令を受けてここにやってきたということか?

嫌な予感を感じ、背中に冷や汗が流れる。


「ハンクが目的……というわけではないでしょう?ならば俺に何の用で?」


「シャーロット様からは一言だけ言伝を預かっております。『今から出発するから早く来なさい』と」


「え?出発?」


リサの言葉はあまりにも予想外すぎてポカンと口を開ける。

一番最初に頭に浮かんできたのは『一緒に登校したいな……』という美少女からの登校のお誘いという男子垂涎もののお誘い。

だがシャーロットはそんな性格ではないしそもそも俺相手には自分の欲求を満たすための人材であり恋愛対象的な感情は抱いていないと思う。

ありえないのに一瞬でもそんなことを考えてしまう当たり俺も男なんだな、と思った。


「……少し話が見えないのですが……?どこへ向かおうというのです?」


「それはシャーロットお嬢様から直接聞いて下さい」


「いやいやいや!?俺は目的地も目的も知らされずにどこかへ連れて行かれるんですか!?」


「格好は学園の制服で問題ありません。それよりもあまり時間をかけすぎるとシャーロットお嬢様の怒りを買うことになりますよ?」


そう言われて容易に想像できる待たされて不機嫌そうなシャーロット。

うん、確かに待たせるのは怖いな。


「……わかりました。どこに行くかは知りませんが貴女方を信じてついていくことにします」


信じて、というか信じたいのほうが合っているような気もするが今はそんな細かいことはどうでもいい。

目的地に連れて行かれた後、そのまま学校に直行できるように急いで部屋の中に戻るとまだ入れてなかった教科書類をカバンに突っ込みすぐに玄関へと戻って来る。


「大丈夫か?エドワード?」


「まあ取って食われることはないと思うけどな。とりあえず行ってくるよ」


「……ああ、気をつけろよ」


俺はリサと並んで少し早歩きで歩き始める。

本当は走りたかったがシャーロットの従者をやっているとはいえ貴族籍を持っているリサを走らせるのはマナー違反なので我慢だ。


「それでは、どうぞ」


「え?ありがとうございま──!?」


男子寮の玄関の扉をリサが開けてくれて反射的にお礼を言おうとしたその瞬間、目の前に広がる信じられない光景に俺は言葉を失った。

黒塗りの全身装甲を身に纏った兵士たちが一糸乱れず整列している。

その立ち姿には一人ひとり強者の風格がありどれだけ訓練されているかがミリタリー系に詳しくない俺でも一目見ればわかった。

しかも馬車や鎧に刻まれたあの紋章は──


(マクスウェル公爵直轄兵じゃないか!?なんでこんなところに!?)


直轄兵は普通のマクスウェル軍の上澄みも上澄み。

実力と家柄を兼ね備えた真のエリートのみがなれる最強の私兵隊であり、ゲームでも一般的なマクスウェル軍と直轄兵では強さがまるで違った。

その分直轄兵は人数が少ないというのになぜこんなところに集まっているのか。


「遅い」


俺の動揺を断ち切るかのように一人の少女の声が響く。

見るとシャーロットが頬杖をついて馬車から俺を見下ろしていた。


「この私を待たせるなんて何様のつもり?さっさと向かうわよ」


「む、向かうと言われましてもどこへ向かうのですか……!?何も聞かされていないのですが……!?」


「この前アリシアに手紙を持たせたでしょうが。今から行くわよ」


今から行く?

アリシアから貰った手紙の内容は『シャーロットと共にマクスウェル領に来い』というもの。

え、今から向かうの?

もしかしてアリシアに渡した手紙を間違えちゃったとか?


「と、いいますと今からマクスウェル領に……?」


「当たり前じゃない。すぐに出発するわよ」


な、なんですとぉぉぉぉぉぉ!?!?!?

なんでそんなことになっちゃうんだよ!

行くことが分かってたら有り金はたいて手土産なりなんなりを買っていこうと思ってたのにそれすらも許されないのか!?

というかあの手紙に日程書かなかったくせに当日の朝になっていきなり行くぞ、なんて横暴にも程がある!

平民モブの命をいかがお考えで!?


「あ、あの……明日にすることは……」


「却下。これ以上この私を待たせないでくれる?」


「……はい」

 

一切取り繕う隙もないシャーロットの無慈悲な一言に俺は頷くことしかできない。

俺は黒塗りの公爵直轄兵に囲まれ気分はこれから死刑宣告をされる囚人のような絶望感を抱きながら用意された馬車に乗り込むのだった──

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