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第55話 モブ、気分が落ちる

マクスウェル公爵から送られてきたという手紙を俺は少し震える手でつかみ見つめる。

だが何回見ようとも俺の目には『シャーロットと共に我のもとに来い』という内容の文面にしか見えない。


「どうしたのですか、エドワードさん。もしかして私が運んでいる間に何か不備が……」


「い、いえ!そんなことはないです!ただ内容に少し驚いてしまって……」


アリシアが不安そうに見つめられて俺は慌てて首を横に振る。

アリシアに何も非はないのだから。


「そんなに驚くような内容がマクスウェル様から送られてきたのですか?」


「は、はは……まあ……」


封筒には差出人は書いてなかったからアリシアはこれがシャーロットからの手紙だと思っているのだろう。

実は送り主はそのお父君で内容が呼び出しとかいう超おっかないものだなんて1ミリも考えてないだろうな。


「私に何か協力できることはありますか?私にできることなら力をお貸ししますが……」


「いえ、それはやめておいたほうがいいと思います。俺とマクスウェル様との話なのでおそらく下手に巻き込まれると面倒なことになるかな、と」


「……ふふっ」


俺が再び首を横に振るとアリシアは思わずといった様子で笑みをこぼす。

今までの会話で笑えるような部分なんてあったか?

俺のそんな疑問が表情に出ていたのかアリシアは微笑みを浮かべながら口を開く。


「ごめんなさい。その様子なら恋文、というわけでもないのでしょう?マクスウェル様から手紙が届いて『面倒』の一言で片付けられるのは流石エドワードさんだな、と思いまして」


「流石なんてことはありませんよ。マクスウェル様の方が俺よりも何倍も強いですし、楽観的なことを言って自分を奮い立たせているだけですから」


「ふふ、そういうことにしておいてあげます」


別に謙遜してるわけじゃないんだけどなぁ……

まあ自分から評価を落としにいく必要もないし別にいいか。

本当にジェシカと違ってアリシアはゲームのままの姿のようだ。

そこに何の違いがあるのかはわからないが、貴族らしからぬ平民に対してフランクな姿勢だからか、いつも自分の素でいられる気がする。

まあ俺は敬語のままだし普通こんなことを言うのは貴族側だと思うけども。


「いつでも頼ってくださいね。私でよければいつでも力になりますから」


「ありがとうございます。俺もハミルトン様が窮地に陥ったときは必ず助けにいきます」


もしかしたら社交辞令だったのかも知れないが俺は本気でそう思って返事をした。

アリシアにはたくさん助けられたし、気にかけてもらったんだからこれくらいは普通のこと。

だがアリシアにとっては意外な返事だったらしく少しキョトンとした表情をしていた。

しかし、次の瞬間には花が咲くような笑顔を見せる。


「ありがとうございます。もしその時が来たら……頼りにさせていただきますね」


「はい、任せてください」


俺たちは同時に笑みをこぼすのだった──


◇◆◇


「それで本当に大丈夫だったのか?」


アリシアにお礼を言って別れたあと、俺は久しぶりに校内にあるカフェに来ていた。

目の前に置かれた人気メニューであるサンドイッチにかじりつくと目の前にいる人物が頬杖をつきながら俺に聞いてくる。


「まあな、特にケガはないしその後は少し面倒だったけどハミルトン様が助けてくれたから」


「そうか。まあお前が良いって言うならいいんだけどよ〜……」


目の前に座る人物はハンク。

同じ部屋に住んでいるものの、ここ数日は尋問官が用意した部屋で寝泊まりしてたし、その前はジェシカとの戦い云々で少しゴタゴタしていてこうしてハンクとゆっくり話をするのは随分久しぶりな気がする。


「なんかマクスウェル様がすごかったんだってな。めちゃくちゃ強い敵を倒しちまったとか。お前がマクスウェル様に手柄を譲ったとかではないんだろう?」


そう聞かれて俺はあの日のことを思い出す。

シャーロットの勝利は俺が時間を稼いだのは事実だがそれで貢献したと主張するには功績としてあまりにもショボい。

それくらいシャーロットの力はすごかった。


「もちろんだ。少なくともあのときのマクスウェル様に俺は勝てない」


もちろん対処法がないわけではない。

魔力を溜める時間を3分間というのは日常生活ではあっという間だが戦闘中においてその3分間はめちゃくちゃ大きい。

目を閉じて集中しないといけないようだしひたすら攻め続けて溜める時間を与えないというのがその対処法の一つだ。

溜めた状態で奇襲されたらもうどうしようもない。


「へぇ……お前がそこまで言うのか」


「お前は俺をなんだと思ってるんだ?ただの平民だぞ?期待が大きすぎる」


「だけどマクスウェル様に2回も勝った人間はお前だけだろ?期待値が高くなるのも当然のことだ」


そんなこと言われてもなぁ……

レベルシステムがない才能無しだしギリギリの綱渡りを続けてきただけだ。

期待を力に変えられるのは天才か神に選ばれし主人公軍団だけであり、今回は天才であるシャーロットが想定外の成長を見せゲルナを撃退したのだ。


「はは、悪い悪い。別にお前に戦ってほしいって意味で言ったわけじゃないんだ」


「そうか?」


「ああ。それよりようやく自由の身になったんだろ?何かしたいことでもあるのか?」


ハンクは楽しい話をしようとでも言いたげに笑顔を浮かべながら聞いてくる。

だが今の俺にその言葉は完全に地雷だった。


「……呼び出しを食らってるからな。あまり楽しい未来は想像できないな……」


「い、言わなくていいからな!?変な事件とか貴族同士の争いに巻き込まれたらたまったものじゃないぞ!?」


薄情な奴だな。

俺と一緒に巻き込まれてくれればいいのに。

俺と同じ心労を味わってほしいからハンクもついてきてほしかったが、呼ばれてない人を相手の許可も取らず連れて行くのは貴族とか平民とかを抜きにしても普通にマナー違反だ。

俺ができることはない。


「はぁ……憂鬱だな」


「は、はは……頑張れよ。俺で良かったら話くらいはいつでも聞くぜ」


「ありがとう。助かる」


やはりなんだかんだハンクはいい奴なのだ。

俺はそのことを再認識しテーブルに突っ伏す。

この状況がとにかく憂鬱でため息が止まらなかった。


だがこのときの俺はまだ知らなかった。

憂鬱《面会》は気づかぬうちにすぐそこまで迫っていたことに──

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