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第51話 モブ、最後まで見届ける

「天ノ鳴神」


その瞬間、シャーロットの体が雷に包まれた。

流石に体が雷に変化したわけではないようだがそれでも明らかに異質。

原作の『マジロマ』において雷を纏うなんて技は()()()()()

つまりどういう理屈かは知らないがシャーロットは既に()()()()()()()()()()を部分的かもしれないが超えているということ。


(自ら技を編み出したのか……!?しかもこの魔力……どう考えても尋常じゃない……!)


ビリビリと空気が震え、味方である俺でさえも本能が恐怖を訴えている。

今目の前にいるシャーロットは昨日までのシャーロットとはまるで別人だ。


『あ、ありえない……人間なのにあんな力どう考えてもおかしいよ……』


(ラナ……俺はこの場に残る。この状態のシャーロットを1人にはできない)


『っ!?そんなの危なすぎるよ!今のシャーロットちゃんの攻撃範囲なんて想像できないよ!離れたほうがいいって!』


俺だってそんなことはわかってるんだけどな……

でも離れちゃいけない気がするんだよ……

まるでギリギリまで張り詰めた糸みたいに切れてしまったら一生修復できないような危うさを感じる何かが……


『ま、まさか……この早さで至ったというコトですか……!?ワタクシの予想よりも何倍も──』


「ごちゃごちゃ五月蝿いのよ。ふふっ、消えなさい」


その瞬間、シャーロットの姿が消える。

そしてゲルナの右腕が消し飛んだ。

ゲルナの背中側に現れたシャーロットの手にはギルバートが握られている。


『ガッ……!?』


(まさか斬ったのか……!?速すぎる……!)


俺の目ですら姿が全く見えなかった。

まさか本当に雷の如き速さで動けるというのか……!?

しかし当の本人は小さく首を傾げている。


「おかしいわね。今ので首を切り飛ばす予定だったのに外れちゃったわ。コントロールが難しいのね」


シャーロットは剣をくるくる回しながら振り返りゲルナと向き合う。

シャーロットは顔は笑っているが目がまるで笑っていない。

必ず次は仕留めると言わんばかりの殺気をゲルナに向かって放っている。


『こ、これほどとは……フ、フフフ……流石のワタクシもこの展開は予想できませんでしたよぉ……』


ゲルナは気味の悪い笑みを浮かべながらボタボタとドス黒い血が流れる右腕を抑えている。

致命傷に至ったわけではないだろうが間違いなく今までで一番のダメージだ。


「その五月蝿い口を一刻も早く閉じてくれる?アンタみたいな奴の声なんて聞きたくもないの」


『手厳しいですなぁ……だが諦めるのはやはり惜しい。貴女の心の変化故にワタクシたちも狙いを変えたのですが失敗でしたかなぁ……』


シャーロットの心の変化で狙いを変えた……!?

それってもしかしなくてもシャーロットの変態《愛猫》化が原因なのではなかろうか。

家族と帰る場所を失い王国に強い恨みを抱いたシャーロットに目をつけた魔王の手先たちがシャーロットを魔王陣営に引き込む、というのが本来のストーリー。

だがシャーロットが変化しただけでストーリーにここまで大きな変化が出るのか!?

そもそもシャーロットの本質が変わったとは言え、対外的には普段と変わらない傲慢無類の悪役令嬢で通しているのだ。

普通に考えてそこまでストーリーに左右するはずがない。


(でもゲルナは確かにシャーロットに対して『貴女』という言葉を使った……ということは本当にあいつらが唐突に動き出したことの原因にシャーロットが……?)


疑問が次々と湧いて出てきて尽きることが無いが、今は戦闘中でありぼんやりと考え事をしている場合ではない。

俺が直接戦ってるわけではないとはいえ、今のシャーロットの力は強大でありゲルナの力もまた半端ではない。

気を抜けばいつ巻き込まれてもおかしくなかった。


「集中……行くわよ、ギルバート」


その瞬間、今までシャーロットが扱っていた雷とは比較するのも烏滸がましいほど高密度の黒雷が剣に纏い始める。

ちょっとでも掠ったら感電死しそうだ。


「アンタはここで終わり。無謀にもこのシャーロット=マクスウェルに勝負を挑んだことを脳裏に焼き付け後悔しながら死ぬといいわ。……『雷虎らいこ』」


その瞬間、シャーロットの剣の黒雷が一気に膨張し虎のような形へと姿を変える。

どう考えてもあれは()()()

そんな予感がひしひしと伝わってくる。


『すぅばらしぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!それが開花した貴女の力ですかぁ!』


シャーロットの攻撃に呼応してかゲルナの魔力も一瞬で膨れ上がる。

そして闇と雷がぶつかり合う。

お互いの全力の魔力はどちらも全く押されることなく均衡する。

ということはなかった──


「ふん、大したことないわね」


シャーロットの雷虎が一気に巨大になる。

虎はいとも簡単に闇を噛み砕きゲルナに爪を振り下ろす。


『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?』


ゲルナの悲鳴が響き渡る。

一瞬で吹き飛ばされ、雷虎はゆっくりと消えていく。

ゲルナのほうを見ると満身創痍としか言いようがない相貌へと変化していた。


『ふ、フフ……まさかこのワタクシがこれほどの手傷を負わされるとはぁ……まさに真の化け物……フフフ……』


「私はただの人間よ。そんな見た目して私に負けるなんて惨めね」


『負けのことなんてどうでもよろしいぃ……生きてさえいればねぇ!』


そう言ってゲルナは一瞬で闇の中に姿を消す。

現れたときと同じような空間系の闇魔法。

その速さも凄まじいがシャーロットは遅れてきていたためその魔法を一度も見ていなかったのが痛かったな。


「……逃がしたわね」


「……ええ。ですが撃退しただけでもお手柄かと」


「私が求めてるのはそんな言葉じゃないわ。私が常に求めるものは結果よ」


シャーロットはいつもの澄まし顔に若干の悔しさを滲ませながらポツリと呟く。

あのゲルナを撃退して結果が残らないって言い切る時点で怪物だと思うけどな。


「ともかく一度戻りましょう」


「はぁ……仕方ないわね──うっ!?」


シャーロットは自分の胸を押さえて苦しそうな声を上げる。

俺は慌ててシャーロットに駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」


「はぁ……はぁ……うっ……」


(くそ……やはり代償がデカかったか……!あの力はまだ人間には早いということか……!?)


俺はすぐにシャーロットの容体を確認しようとする。

ここでシャーロットを死なせるわけには絶対にいかない。


(くそ……!戦闘のせいで周りに誰もいない!俺一人でも運べなくはないけど揺らすのはあまり体に良くないんじゃ……)


先程までいたアレックとジェシカの姿は消えていた。

俺は医者ではないし回復魔法も使えないから背負って運んでしまっていいものかわからない。


(……このまま放置が一番危ない。ここは意を決して運ぶしか……!)


放置しても何も解決しない。

だったら一か八かすぐにでもシャーロットを医務室へと運ぶべきだ。

俺はそう判断し、シャーロットの細くて白い手に触れる。


「少しだけ我慢してください」


「はぁ……はぁ……無理ね」


「え……?」


その瞬間、俺はなぜか空を見上げていた。

俺の上にはシャーロットが乗っている。


(え……?今何が起こったんだ……?)


速すぎて何が起こったのか頭の理解が追いつかない。

シャーロットはぺろりと舌を出して俺を見つめる。


「はぁ……はぁ……もう我慢できない……♡」


シャーロットの俺を見つめる表情は……発情雌猫(いつものシャーロット)と変わらないトロンとした表情をしていたのだった──

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