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第5話 モブ、初めての装備を買う

「ほらよ、じゃあこれは坊主にやる。お代は本来3000Gなんだが今回は特別に2700Gにしてやるよ」


「いいの?」


「ああ、今まで出会ったことがねえ面白いお客だったからな」


 そう言っておじさんはニカッっと笑う。

 その割引は本当にありがたい。

 これもまたゲームには無い恩恵だろうな。

 ゲームじゃ淡々と事務処理をするみたいに買い物をするだけだからな。

 俺は満足して頷きお金をおじさんに渡す。


「毎度あり。実はこれ初めて売れたんだよ。仕入れミスったかなぁ……」


「あ、あはは……僕はカッコいいと思うよ、これ」


 どうやらこの装備はこの世界でも人気がないらしく涙を禁じ得ない。

 まあ俺もゲーム中にこの装備を買ったことはないから同情する権利もないかも知れないが。


 俺はとりあえずおじさんにお礼を言ってその場を離れる。

 そして人がいないところでグッと拳を握りしめ、叫ぶのを堪えた。


(よしっ……!第一関門は突破だ!)


 俺は抱きかかえているボロボロの服を見つめる。

 この装備の名は【臆病者の装衣そうい

 もはや買った者にストレートに喧嘩を売る名前をしているこの装備は性能が超弱いのも相まってそもそも誰も買わないという悲しき装備である。


 見た目がダサい、性能弱い、コストもまあまあ高い、名前もムカつく。

 これだけ売れない要素が揃ってしまえば誰も買わないのも無理ないだろう。

 だが今の俺にはとても必要なものだった。


臆病者の装衣の効果は防御力は超クソゴミ耐久であるかわりに《《確実に戦闘における逃走が成功する》》というもの。

 ぱっと見めちゃくちゃ強いようにも見える臆病者の装衣だがなぜかこの逃走効果が発動するのに相当厳しい制限がかかっている。


発動条件は主に2つ。

臆病者らしく会敵エンカウントする度に逃げ回りパーティーのレベルの合計値が150以下であること、もしくは誰も攻略対象を誘えないで臆病だと言いたいのか主人公1人しかいないこと。

これのどこが難しいかと言うと1人しかいないのは言わずもがな相当きつい縛りプレイであり、レベルの合計値に関しては本来ハラルアの街は中盤の最初もしくは序盤の最後といった立ち位置の街でありハラルアに来る直前にまあまあ強い中ボスがいる。

そいつに勝つためにレベリングをしていたら8人パーティーであることも災いして合計値が簡単に150など超えていく。

つまりこの臆病者の装衣の効果が使えるだけでもまあまあのガチ勢な証なのである。


この確定逃走という追加効果がなければ紙耐久のゴミ装備。

しかも一番防御力と耐性を期待したい鎧装備なので、結果買うやつはほとんどいないというわけなのである。

だが今の俺は中ボスを倒す必要もなければ悲しきことに仲間も誰もいないボッチである。

レベルに関しては俺にレベルがないので発動するか微妙だが1人という条件を満たしているのでどれだけ会敵エンカウントしようが絶対に逃げられる。


(ゲームでお世話になることは一度も無かったが今はこれが生命線だ……よろしく頼むぜ)


俺が臆病者の装衣を着ると俺の子供の小さな身体にフィットするかのように臆病者の装衣が縮んでいく。

ゲーム内で身長やら体格やらが全然違うキャラたちも問題なく使い回しができてたしな。

ここらへんは設定に忠実だ。


(よし……あともう一つ準備しないといけないものがあるが……そろそろ時間切れだな)


空を見上げると既に日が落ちかけ空が赤らみ始めている。

もう一つの準備は外に出ないといけないので流石に今から外に出るのは難しい。

というか昼食も取っていないからめちゃくちゃお腹が空いた。

ちょっと集中しすぎていたみたいだ。


「帰ろう……家に」


空腹感もすごいし、歩き回ったせいで足も棒のようになっている。

だが計画の滑り出しは順調でありその手応えのほうが大きく俺の足取りは軽かった──


◇◆◇


「ただいま」


「あら、おかえりなさい」


俺は先に外にある井戸で手を洗ってから家の中に入ると母さんが出迎えてくれる。

中からいい匂いがするので夕食を作っている途中だったらしい。


「結構長い時間遊んでいたみたいだったけど大丈夫だった?」


「うん!街をぐるぐる回ってたの」


「そう、危ないから裏通りとかには入っちゃダメだからね。まあエドは賢い子だし大丈夫だと思うけど」


チンピラが出てくる裏通りに行くつもりはないけど魔物が出てくる街の外には出ようとしてます。

まあ約束は破ってないしセーフセーフ。

ちなみに臆病者の装衣は現在服の下に着込んでいる。

これからはずっとそうする予定だ。


「もうすぐご飯できるから待っててね。お父さんもいるから」


「うん!わかった!」


俺はダイニングのテーブルに用意されている自分の席に座る。

まあまあ高さがあって登るのはしんどいが親の助けを借りるのはなんだか情けないので頑張って自分で乗っている。


「おう、エド。さっきまで遊んできてたのか?」


「うん、おとうさん。街を歩いてたんだ」


「はっはっは!それでいい。子供のときは自由でなくっちゃな。お金のことは気にしなくていいから今はたくさん食ってたくさん遊んでたくさん寝るんだな」


この世界では子供が働いて家計の助けになることも多くはないが珍しくもない。

流石に生活費を稼ぎながらフリージア学園の入学金を用意するのは難しいのでその点は本当に助かった。

というかこの放任主義と言うか自由主義と言うか4歳の俺にここまで自由に行動させてくれるのもどうかとは思うがありがたい。

俺は普通の子供じゃないしね。


「明日もまた遊びに行くのか?」


「うん!明日も行くっ!」


「がはは!これは本は必要なかったかな?父ちゃんが貰ってもいいか?母さんに教えてもらいながら読んでみようかな」


「えっ!?だ、ダメだよ!あれは僕のだよ!」


「はっは!冗談だ。本を読むのも大切だし外で遊ぶのも大切だ。自分の気持ちに従って好きなようにやればいい」


はぁ……よかった……

あれがまだ必要になるときが来るかもしれないし持っていかれるわけには行かない。

というか本一つで母とイチャイチャしようとすんなよ。

俺なんて前世は年齢=歴だったのに……

あんなに美人な奥さんがいて羨ましいぞ!


「ふふっ、二人共何を話してるの?楽しそうな声がこっちまで聞こえてきてたわよ」


「エドの将来が楽しみだなって話をしてたんだ」


「あなたったらいつもそればかりじゃない。いつの間にこんな親バカになっちゃったのかしら」


「それを言うなら君だってそうじゃないか」


「ふふ、母親ってそういうものだもの」


母と父は楽しそうに笑う。

その話題が俺なのは少し気恥ずかしい気もするが同時に嬉しい。


明日街の外に出るのを取りやめるわけにはいかないができるだけ万全の準備を整えてから行くとしよう。

二人を悲しませることだけは絶対に嫌だからな。


俺は地球の人間であったが今はこの世界に生を受けたエドワードなのだから──

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