第46話 モブ、修羅の道と変態道の分かれ道に気づく
「ええ、それでいいわ。じゃあ次は私に失礼なことを言った罰をしなくちゃね」
「え……」
シャーロットが無慈悲に放った一言でリサはサッと青ざめる。
どうやらシャーロットはまだリサに言われたことを根に持っているらしい。
ドMのド変態だったはずなのにドSが出てきちゃってますよ〜……
「あ、あの……シャーロットお嬢様……罰って一体……?」
「もちろんすごく恥ずかしいお仕置きよ。恥ずかしいのが楽しくなって気持ちよくなってくるくらいまでやらないとね……♡」
容赦ないな。
変態は自分かそれに合意する人で完結するタイプならまだしも俺の目の前にいる変態は自分も堕ちて他人も堕としにいくスタイルらしい。
迷惑なことこの上ないな。
『マスター……リサちゃんって子、私の目には嫌がってるようにも見えるんだけど助けなくていいの?』
(逆にシャーロット相手に俺が助けられると思うか?)
『ご主人様とか呼ばれてるくせに情けないね』
(ほっとけ。それにリサはシャーロットを深く敬愛してるんだからどんなことでも嬉しいだろう?そうに決まってる)
『それ自分に言い聞かせてるの?見ないふりをするのは普通に最低なんだけど』
ラナの真っ直ぐ過ぎる一言がグサッと心に突き刺さる。
でも俺じゃあ助けられないんだよ……
目の前のこの猫変態すぎて俺の手に負えないんだもん……
「ねえご主人様……リサをどうやって調きょ……じゃなくてお仕置きしようかしら……?徹底的に犬としての幸せを教え込んであげないといけないわね」
今、調教って言いかけたな?
確信犯だな?
それにワンちゃんとしての幸せ、という言葉はまず間違いなく人間に対して使う言葉ではないのだが。
明らかに字面がヤバすぎてコメントに困ってしまう。
「えっと……別にそう無理に罰を与える必要は無いんじゃないか?リサだってシャーロットのことが憎くて言ったわけでもあるまいし」
「別に理由なんてどうでもいいのよ?でもリサにはこっち側に来てもらわないといけないもの……♡」
こ、こいつ……!
変態テロだ……!
理由どうでもいいから堕とすってそれはもうテロだぞ!?
巻き込まれたリサと(主に)俺が可哀想だと思わないのか!?
「あ、あの……シャーロットお嬢様……本当に申し訳ありません!先程の非礼はお詫びいたします!ですから……!」
「うーん……どう思う?ご主人様?」
「許してやればいいと思う」
「そう。ならお仕置き決定ね」
今俺に聞いた意味あったか?
質問する意味もなかったくらいに食い気味にリサのお仕置きコースが決定したんだが?
「でも安心して、リサ」
「シャーロットお嬢様……?」
絶望しているリサにシャーロットは優しく肩に手を置く。
その笑顔は慈愛に溢れていた。
やはりなんだかんだシャーロットもリサを巻き込むつもりはなかっ──
「私もリサと一緒にお仕置きを受けるわ。一緒に頑張りましょうね」
その言葉を聞いて俺は思わず椅子から転げ落ちそうになった。
今の言葉を拾ってきた耳とそう認識した自分の脳を疑う。
お仕置きを一緒に受けるわ?お前が自分でお仕置き決めたのに?
(お前ぇぇぇぇぇ!!!!!お仕置き決めて自分もサラッとそっち側に行くんじゃねぇぇぇぇ!!!!蹴落としからの自分も飛び降りってどんな技だよ!?しかも二人共がお仕置きを受ける側に回るということは……)
「じゃあお仕置きは任せるわね。ご主人様」
(だよなぁぁぁぁ!?!?!?!?!?)
この場に3人。
お仕置きを受けるのは二人。
そして残った俺。
誰がお仕置きをする側なんて小学生でもわかる簡単過ぎる国語の問題だ。
この題材を小学生に出していいかは甚だ疑問ではあるが。
「ふふ……美しい年頃の女性が二人……ふふっ、一体どんなことをされちゃうのかしらね……?」
「し、シャーロットお嬢様ぁ……」
シャーロットはリサの両肩にそっと手を置き耳元で囁く。
百合っぽくて見ている分には眼福なのだが、俺はそこから百合の間に挟まる男にならなくてはならないのである。
しかも避けられないド変態プレイがオプションとして勝手に付いてくる仕様つき。
(ラナ……俺はどうするのが正解なんだ……?)
『そんなこと私に聞かないでよ。マスターがこんなにド変態なことを許容してあげてるんだからそういう方面で私がこれ以上協力するのは無理だって』
(ド変態と呼ぶべきは目の前のこいつらであって俺ではないだろうが……)
でも確かにラナから羞恥プレイのアドバイスとか来たら目を剥く自信がある。
バトルジャンキーではあるものの、ラナは別に変態ってわけじゃないしな。
どちらかというと変精霊だ。
(でもどうするかなぁ……正直俺のネタは猫ちゃんプレイで出し尽くしたし……)
俺は断じて変態ではない。
故に変態が喜ぶプレイのバリエーションが無い。
無い頭を必死に振り絞ってたどり着いたのが平民どころかペットとして扱われる猫ちゃんプレイだったのだ。
(前世はこういう縛りプレイでも頭を使って工夫しながら切り抜けてきたんだ……!だから今回も……ん?待てよ?縛りプレイ……?)
ゲーマーが縛りプレイと聞くと多くの制約を受けながらゲームの様々な要素を活かしてクリアを目指す修羅の道。
しかしこれを変態が聞けばどうだろうか。
一気に卑猥な言語と化し、縄で縛られるというさらなる屈辱的な思いをすることになるまさに変態の中の変態道。
「……少し買い物に行ってきてもいいだろうか。今ここにあるものだけでは足りないんだ」
「……ふふ、そう。行きたいなら行けばいいわ」
「許してくれるのか?」
「逃げるなら許さないわ。でも今のアンタはとってもいい顔してるもの」
「いい顔……?」
(それって俺も変態ってこと……?いやいや、まさかそんな……)
イケメンってことにしておこう。
周りに王子やら攻略対象やらがいるのにtheモブ顔である俺に対してイケメンだなんて思うか?というツッコミは隅に追いやった。
精神衛生上仕方のないことなのである。
「では行ってくる。少し待っててくれ」
俺は財布を持って部屋を出るのだった──
◇◆◇
1時間後。
俺が買ったものを持ち帰り部屋に戻るとシャーロットがリサを追い詰めていた。
二人共コスプレをしたままなのでその様子はさながら野良猫に怯える仔犬である。
「今戻った」
「あら、戻ったのね。残念。もう少しリサと遊んでいたかったところなのだけど」
リサ”で”なのでは?という疑問は口にはしない。
触らないほうが良いこともこの世の中にはたくさんあるのだ。
「今日はこれを使うぞ」
俺はツッコミを我慢し袋から買ってきたものを取り出す。
そしてそれらを机の上に並べた。
「これって……」
「好きだろう?こういうの」
机の上に並べられていたのはめちゃくちゃ長い縄やら手錠など日常生活ではまずお目にかからないような代物ばかり。
しかしシャーロットは少女のように目をキラキラと輝かせていた。
その内容は残念ながら純粋無垢な少女ではなくド変態を極めた痴女だけども。
「ふふっ……面白くなってきたじゃない……」
そう言ってシャーロットはリサに視線を向ける。
リサは少し目に涙を浮かべてぷるぷると小さく首を横に振るのだった──




