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第45話 モブ、冷や汗を流す

「ねぇ早く……早くしましょうよ……はぁ、はぁ……」


そう言ってシャーロットは席から立ち上がり、俺に近づいてくる。

その目はトロンと潤み、頬が上気し息が荒くなるというもはや最近見慣れてきたシャーロットの発情デフォルト状態である。


(話し終わったからって速攻来るか普通!?いや、いつ来るかも言ってなかったのに猫の格好で出待ちしてた時点で今更か……)


『自分でシャーロットちゃんの条件を飲んだんだからちゃんと責任を持って相手してあげなよ?』


(シャーロットって約束破ったら殺しに来そうだしなぁ……いや、監禁されて一生猫ちゃんプレイに付き合わされるとかか?どちらにしても避けたいところだな……)


まず間違いなくロクなことにならないのは確かだ。

約束してしまったわけだしここは素直に応じるしかないか……


「わかりました……いいですよ」


「違うでしょう?言葉遣いが」


「……はぁ、相手してやるからさっさとこっちに来い」


「〜〜っ!」


俺はシャーロットの恍惚とした表情を見ないふりをしてリビングルームの方に向かう。

そしてソファーに腰をかけると後ろからシャーロットもついてきて俺から50センチくらい離れたところに腰を下ろした。


「おい、躾けがなってないぞ。人間と同じところに座るな」


「ご、ごめんなさい……はぁ、はぁ……」


俺がすぐさま注意をするとシャーロットは余計に息を荒げて地べたにぺたんと女の子座りをした。

猫耳も相まって可憐で可愛い画になるがその恍惚とした表情が全てを台無しにしている気がする。

いや、一部の層には刺さるのかもしれないが。

俺は猫ちゃんが好きなので人間と同じ高さに座るな、どころかぜひとも隣に座ってほしいくらいウェルカムなのだが多分シャーロットはこっちのほうが喜ぶかなと思っていたら案の定だった。


「ほら、リサもこっちに来なさいよ」


「ふぇっ!?わ、私もですか!?」


「当たり前じゃない。二人一緒のほうが楽しいもの……♡」


みんな仲良し変態理論はやめい。

これ以上増えたら俺の手に負えなくなるぞ……今俺の手に負えてるかはちょっと微妙なところだけども。


「逆になんでリサは嫌なの?」


「そ、それは……その……普通に恥ずかしいですし……」


「わかってるなら話が早いわ。恥ずかしくないとこんなことやってる意味がないもの」


「え……?」


「恥ずかしいのを楽しみためにこういうことをするんでしょ?」


聞いたことないぞ、恥ずかしいことを楽しむためにコスプレって。

そもそもコスプレって一般的に恥ずかしいことじゃないし、そういう系のコスプレは人に見せるのではなく自分で来て満足して終了するか精々がネットに上げて終了なんじゃ……

少なくとも付き合ってもいない男に見せて発情するのは違う気がする。

……そうだよな?


「その……シャーロットお嬢様。私、恥ずかしいのは……」


「はぁ……主人命令よ。こっちに来なさい」


「ひぅっ……わ、わかりました……」


……今、ひどすぎるパワハラを見た気がするのだが放置しても良いのだろうか?

労基とかに訴えたほうがいいんじゃ……

リサは命令通り犬耳と尻尾を揺らしながら歩いてくるが一瞬こちらにアイコンタクトを送ってくる。

以心伝心コンビでもなんでもないが今このときばかりは『助けろ』と言っているのがありありと伺えた。


(助け舟を出すか……?でも俺がご主人様役をやってるとはいえ『主人命令』を出してる時点でそれは公爵令嬢としての命令なんだよなぁ……)


今はプライベートだからこういう言葉遣いも許されているものの本来は公爵令嬢と平民なんて言葉を交わすことすらありえない身分の差だ。

とはいえ困っているのに見逃すというのも……


「あの……シャーロット様……」


「言葉遣い」


「……いや、やっぱりなんでもない」


シャーロットの一言に出鼻をくじかれ俺は説得を諦める。

リサがすごい恨みがましい視線を向けてきている気がするが気のせいだろう。

きっと敬愛する主人のお誘いを受けて喜んでいるに決まってるさ、ははは。


(リサにはまあまあ迷惑かけられたし、俺が助けを求めた時に容赦なく見捨てやがったからな。因果応報ってやつだな、これも人生経験だ。)


俺は心の中で言い訳がましいことを呟きリサに向かって合掌する。

可哀想ではあるがこれも従者としての使命だと思って頑張ってほしい。


「ほら、リサ。貴女もそこに座りなさい」


「は、はい……こうですか……?」


リサはシャーロットに促されシャーロットの隣に座り込む。

膝を曲げてお尻のほうに足を持っていくいわゆるお姉さん座りというやつだ。

貴族が地べたに座るって相当なレアケースだからこういう光景を見るのはなんだか新鮮だな。

あんまり感じたくない類の新鮮さではあるけども。


「ほら、これもちゃんと用意してきたから着けて」


「こ、これを付けるんですか!?」


シャーロットが取り出したのはなんと首輪だった。

それもチョーカーとかで誤魔化せる域をとっくに通り越したthe首輪って感じの首輪を。

ちなみにどうでも良いがシャーロットが着けているものの色違いである。


「い、いや……これを付けるのは流石に……人として大切な何かを失うと言いますか……」


「へぇ……それじゃあ私はもう人として大切な何かを失ってるってこと……?」


「それはそ……んなことはありませんよ?」


いや、なんだよその間は。

目も泳ぎまくってるし全然隠せてないぞ?


「ふぅん……リサは私のことをそんなふうに思ってたのね」


「ち、違います!私は断じてそんなこと……」


「じゃあ着けてくれるわよね?」


「そ、それは……わかりました……」


嫌そうにしていたもののリサは渋々と言った様子で頷いた。

っていうか犬耳尻尾付きビキニ──正確にはビキニじゃないが──は大丈夫なのに首輪は駄目なのか。

その基準がよくわからんな。


首輪を受け取ろうと手を伸ばすリサだったがシャーロットは取られないようにあっさりと首輪を遠ざける。

困惑した表情を浮かべるリサを尻目にシャーロットは俺のほうへと視線を向けた。


「これはアンタがリサに着けて。最初から頷かなかった罰よ」


「……!?」


シャーロットの言葉にリサは驚愕する。

正直俺は薄々見当がついていたので驚きはしなかったものの容赦ないな、と思ってしまう。

これでドSじゃなくてドMなんで属性過多すぎないか?


俺はシャーロットから首輪を受け取ってリサに近づく。

リサは命令もあってか拒絶はしないもののキッと涙目で俺を睨んでいた。


(髪とか肌とかに触れたら潰しますからね……)


(どこをとは身の安全のために聞かないでおこうか……)


小さく呟かれたリサの言葉に背筋にヒュッと冷たいものを感じながらも俺はリサの細くて白い首にそっと首輪をつけた。

リサは顔を真っ赤にして俯いている。


「し、シャーロット様。着けました……」


「ええ、それでいいわ。じゃあ次は私に失礼なことを言った罰をしなくちゃね」


「え──」


羞恥に震えていたリサの表情が絶望へと変わる。

俺はあまりの容赦の無さに当人じゃないはずなのに冷や汗を流すのだった──

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