第43話 モブ、持ちかける
「はぁ……はぁ……どうかしら?」
「うぅ……わん……」
俺は目の前の光景に言葉を失う。
目の前にはシャーロットとリサが猫耳と犬耳をそれぞれ付けるだけでなく尻尾がついた服に加えその服にかなり問題があった。
(は……!?なんでこんな露出度高いんだ……!?未婚の貴族令嬢がこんな格好したら露出魔だと思われるんじゃ……!?)
猫と犬のコスをしてワンワンニャンニャン言ってる時点ですでに変態という評価は避けられない気がするが、この格好は更にアウトな方向に突き進んでいる。
ビキニとはまた違う気がするが、体を覆う面積で言えばビキニといい勝負。
更にお尻のほうに付いている尻尾がアブノーマルさを加速させいやらしい雰囲気を醸し出している。
(大体なんでこんな準備万端な上にリサまでコスプレしてんだよ!俺の計画だとリサがこの部屋にいるまでは想定内だったけど最初から二人共コスプレしてるのは想定外すぎるんだが!?)
ちなみに言うと俺は今日が退院であることをシャーロットに伝えていない。
ただ退院したらそのまま真っ直ぐ来いと言われたから来ただけだ。
だというのにこの格好をしているということはまさか……
「ふふ……うふふ……ちょうど良いところに来てくれたわね」
「し、シャーロットお嬢様ぁ……や、やっぱり私………この格好は……」
リサは耳まで顔を真っ赤にしてミニスカくらいの長さしか無い下半身を守る布──もはやスカートと呼んで良いのかわからない──を引っ張って隠そうとするが全然効果がない。
というかそういう反応をされるとこちらもどうしていいのかわからなくなるんだが?
『それでマスター、計画とやらは上手くいきそう?』
(本当に目の前のこの惨状を見て言ってるのか?ラナから見てできると思うのか?)
『絶対無理だと思う。多分惜しいとすらならないんじゃないかな。マスターだけスタート地点が違うっていうか……』
(いや普通に考えて無理だろ!?)
誰が最初からトップスピードのフルスロットルで変態道を突き進んでいるなんて考えるのだ。
というかシャーロットがド変態なことはわかっていたが流石に加速しすぎだろう。
もはや誰もそのスピード感についていけていない。
「あ、あのぅ……まずなんでそんな格好をしているのですか?」
俺は他の誰かに見られたらまずロクなことにならないので玄関の扉を閉め、シャーロットに問いかける。
俺は最初に頭に浮かんできた仮定を頭の隅に追いやる。
流石のシャーロットでも俺の退院期間を見抜いて楽しみにしてたからコスプレして待機してたなんてこと……無いに決まってる!
「あら、そんなのは簡単よ。アンタが全然回復してこないから仕方なく三日前くらいからリサといっしょに遊んでたの」
「………」
流石は天才シャーロット。
最悪だと思っていた仮定を更に想像を越えて最悪を越えた最悪の現実を突きつけてくるなんて……
俺が浅はかだったということか……
「というわけで……命令しなさいよ♡♡」
シャーロットは蕩けながら目にハートを浮かべる。
もちろん実際に浮かんでいるわけではないのだがそんな姿が幻視される。
「……リサ様もまさか」
「わ、私は違いますっ!た、ただシャーロットお嬢様に命令されてこんな格好をしているだけで……」
「へぇ……でも恥ずかしがるリサも可愛いわよ。いじめがいがあるもの……♡♡」
「なっ!?し、シャーロットお嬢様……!?……〜〜っ!!」
リサの表情は羞恥に更に赤らむ。
おいおい、満更そうな顔をするな。
そしてシャーロットはドMなのかドSなのかはっきりしろよ。
ちなみにドSのほうが解釈一致なので嬉しくはあるが俺に対するシャーロットの反応を見るとどうしても『うーん……』と言わざるを得ない。
そもそもさっきだって『命令しろ』とか言ってきた前科持ちだしな。
「じゃあ早速……♡♡」
「あ、待ってください。その前にお話ししたいことがあります」
「……今じゃなきゃダメなわけ?」
シャーロットはめちゃくちゃ不機嫌そうな顔をする。
ジェシカが乱入してきたときよりはマシだがマシなだけで普通にヤバい。
シャーロットは怒ると怖いが別に短気じゃないってわかってるのにジェシカという前例を見てしまうとつい身構えてしまう。
(仕方ないか……)
少なくとも今日中にシャーロットにこの話はしておきたい。
シャーロットの性癖矯正と天秤にかければこちらのほうが重いくらいには重要な話だ。
俺は小さくため息をつき、シャーロットとリサの二人に向き合う。
「座れ。話はそれからだ」
「〜〜っ!!はぁ……はぁ……」
シャーロットの体がゾクリと震え息が荒くなる。
もう完全に調教されちゃってますね。
だめだこりゃ。
性癖矯正は無理!
「で、でも……」
「2度言わせるな。焦らしプレイだとでも思え」
「は、はいぃ……」
そう言ってシャーロットはヘナヘナと力が抜けてその場に女の子座りでへたり込む。
悪役令嬢の女の子座りなんて原作ファンからすれば垂涎もののレアショットだが今のシャーロットの格好が世界観やらキャラ設定やらの全てをぶち壊しにしていた。
これではただの美人な痴女である。
慌ててリサが支えようとするが自分のスカート?が短すぎて絶対領域が見えかける。
俺と同じタイミングでリサもそれに気づいたらしく慌てて手で隠して顔を真っ赤にした。
うん、カオス過ぎるね。
◇◆◇
場を仕切り直した俺達はリサが淹れてくれた紅茶を飲みながら席につく。
リサは侍女だからと着席を拒否してシャーロットの少し後ろに立っていた。
「そ、それで話って何かしら?」
「ええ。これはすごく大事な話なんですが……」
本当はすぐにでも本題に入りたい。
だがシャーロットとリサは着替えること無くペットスタイルのままなので気が散ってとてもじゃないが真面目な話をする雰囲気じゃない。
だがそれに一々文句を言っていても話が進まないので俺はその言葉をグッと飲み込んで口を開いた。
「単刀直入に言います。マクスウェル様、私の仲間になっていただけませんか?」
「仲間?」
俺の言葉にシャーロットは小さく首をかしげる。
その仕草が猫耳と絶妙にマッチしていて少しグッと来たのは内緒だ。
「そうです。もっと詳しく言うのなら……クリミナル王国転覆の、ですかね」
「……っ!アンタ……正気?」
さっきまで少しだらしない顔をしていたシャーロットの顔が引きしまる。
鋭い眼光は俺をひしひしと威圧してくるがここで引くわけにはいかなかった。
「冗談でこんな命知らずなことは言えませんよ。俺は本気です」
「へぇ……」
「マクスウェル様もあるでしょう?現状に不満が」
「それは全ての人間が大小問わずみな抱えているものでしょう。それが無くなることは永遠に来ないわ」
「だけどそれを限りなく減らすことはできます。つまらないんでしょう?この世の全てが」
シャーロットは周りの期待に押しつぶされたりするような器ではない。
むしろ他人の想像をいとも簡単に越え結果を残せてしまうほどの才能と努力する執念を持っている。
だからこそ彼女は思うのだ。
『つまらない』と。
だから本気で戦えるときには年相応の少女のように目を輝かせるし、初めてしった変態コスに興奮する。
シャーロットは普段の生活では絶対に得られない刺激的な体験に快楽を見出す人間なのだ。
そして俺は原作でなによりもそのことを知っている。
「絶対に楽しいですよ。王国のありとあらゆる強者を敵に回して自分の名前を歴史に刻む。ゾクゾクしませんか?」
俺がそう問いかけるが返事が一向にこない。
しかし俺は十分に満足だった。
俺の問いかけへの答えはシャーロットの表情が全てを物語っていたのだから──