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第42話 モブ、快気する

基本的には病室でゆっくりしながらたまにお見舞いに来てくれるアリシアとハンクと話しながら過ぎていくこと約4日。

俺は上半身裸になり白衣を来た養護教諭の前で椅子に座っていた。

先生は薄っすらと残った俺の傷跡を軽く触ったり、魔力で確かめたりしている。

そして数分ほど診察した後、先生は一つ小さく頷いた。


「うん、だいぶ良くなってますね。もう剣を振っても問題ないと思いますが、まだ激しい運動は控えてください。あと2日だけ回復魔法を受けに保健室に来てください。そうしたら完治すると思いますよ」


「そうですか……」


「……?あまり治るのが嬉しくないんですか?もしかして勉強があまり楽しくないとか?」


「あ、あはは……そんなところです……」


まさかこれから公爵令嬢に呼び出されて性癖を満たすために使われるんです、とは口が裂けても言えない。

もう不真面目な生徒とも思われて良いからもはや誤解を解く気にもならなかった。


「勉強は大切なのでサボったらダメですよ。きっと未来の貴方の助けとなってくれるはずです」


「ハハハ……デスヨネー……」


「がんばってくださいね。きっと貴方の未来は輝かしいものになるはずですから」


そう言って先生はにこやかに笑う。

俺は若干肩を落としながら先生に頭を下げ、自分の荷物が置いてある個室へと向かうのだった──


◇◆◇


(はぁ……ついに治っちゃったよ……)


俺は長らく時を過ごした個室から自分の荷物を持って寮の部屋へと向かっていた。

その足取りは重く、それ以上に心が重い。


『永遠に治らないよりは治る方がいいじゃん。人間の身体って随分繊細だし腕一本失くなっただけでバランスが取りづらくなるんでしょ?』


(間違いなく腕一本無くなっただけ、を軽く見る人間はいないだろうな)


精霊は基本的に腕とか無くなってもまた生えてくる。

もちろん回復できる限度はあるし、契約者の生命力が弱くなると連動して弱くなるみたいなことがあるらしいけどそれでも人間よりタフなのは確かだ。


『なんでそんな暗いのさ。快気祝いなんだからもっと喜びなよ』


(これからシャーロットのところにいかなくちゃいけないのにか?)


『あんなに悩みながら頑張ってシャーロットちゃんを元に戻す計画練ってたじゃん。それに『完璧だから絶対いける!』って』


(世の中絶対という言葉ほど信用出来ないものは無いんだぞ)


『絶対って言った張本人がそれを言うの……?』


というか計画にどれだけ自信を持っていようと来てほしくないものは来てほしくない。

俺の療養期間が永遠であったならとどれだけ願ったことだろうか。


『そんなに嫌なら今日は退院したてだから明日行くってシャーロットちゃんに連絡すれば?』


(いいか?明日やろうは馬鹿野郎だぞ。それに俺はこんな気が重い状態で今日の夜を過ごしたくない)


どっちかと言えば後者がほとんどの理由だった。

俺はそんな宿題とか早々に片付けるタイプじゃないし生真面目で殊勝な考えを持っているわけでもない。

だが今日の案件は夏休みの宿題とかと比べるととてつもなく気が重いものであり、とてもじゃないけど愛猫シャーロット案件を抱えたままくつろげる気がしなかった。


『明日やろうは馬鹿野郎って……良い言葉なんだか悪い言葉なんだか……』


(とにかく、俺は今日行くしか選択肢が無いんだ。だから行く)


『うん、頑張って』


(でも行きたくないんだよぉぉぉぉぉ!!!)


俺は心の中で絶叫する。

ラナの『うるさ……めんどくさ……』という声が聞こえたような気がしなくもないが無視だ無視。

俺は面倒くさい男ではないし、うるさかったのは今回が特例過ぎるだけだ。


ラナといろんなことを愚痴りながら歩いていくといつの間にか部屋の前についていた。

あまり長い期間離れていたわけではないのになんだか随分懐かしいような気もする。


(なんかようやく戻ってきたような気がするな……)


俺はドアノブに手を伸ばし中へと入る。

するとすぐにハンクが出迎えてくれた。


「おー!ようやく帰ってきたのか!」


「おう。先生に許可もらったからな」


「言ってくれたら俺も荷物運ぶの手伝ったのに……大丈夫か?」


「ああ、荷物もそこまで多くないし怪我もほとんど治ってるからな。だからそんなに気にしないでくれ」


ハンクは相変わらず優しいな。

このあとあの案件がなければ心の底から喜べたのに……

俺が自分の部屋に荷物を運び入れているとハルバートがお茶をお盆に乗せて持ってくる。

ハルバートを見るのは本当に久しぶりだ。

中々普段はハンクの中から出てこないからな。


「エドワード殿。怪我が治って本当に良かったよ。ご主人もかなり心配していた」


「当たり前だろ。エドワードは俺の友達なんだから」


「はは、ありがとう」


俺はハルバートからお茶を受け取りベッドに腰をかけてお茶をすする。

ハルバートは火の精霊なだけあって火加減、というか熱加減が上手いのかお茶がめちゃくちゃ美味しい。


(火の精霊って便利だな〜。料理とかも上手なのか?)


『精霊は道具じゃないんですけど?それに私が氷属性なことに当てつけで言ってる?』


(まさか。でもラナって料理作れるのか?)


『……かき氷くらいなら』


多分それは氷の精霊じゃなくてもできるな。

氷削ってお好みでシロップ入れるだけだし。


(まあラナにしかできないこともあるだろ。熱い夏とかすぐに冷やして貰えるもんな)


『私を保冷剤代わりに使おうとするなぁぁ!!!!』


怒られた。

それが氷の精霊の存在意義アイデンティティじゃないのか?

普通に前世の地球より夏は涼しいみたいだけど普通に気温は高くなるし需要はあると思うけどな。

いっそそれをウリにしたビジネスでも初めて一山当てるか?


『聞こえてますよ、マスター。私は絶対にやらないからね』


(ケチだな)


『ケチじゃないもん』


まあ現状金には困ってないから問題ない。

槍の転売で数年は困らないくらいの金は稼いだからある程度は自由に大胆に使える。

もちろん無駄遣いはするつもりはないけども。


「あ、そうだ。俺はそろそろ行くよ」


「行く?行くってどこへだ?回復したばかりだしまだ無理しない方がいいんじゃないのか」


「残念ながらマクスウェル様の呼び出しなんでね。一緒に来る?」


「悪い。なんか用事を思い出したような気がするな〜……」


「……友達なんじゃなかったか?」


「頑張れよ!友達だから応援してる!」


清々しいほど開き直ったな。

まあ一緒に行ったらシャーロットがお怒りになるかもしれないから元々連れて行くつもりはなかったけど。

俺は特に荷物を持つこと無く、玄関へと移動した。

そして心配そうに送り出すハンクに思わず苦笑して早速シャーロットの部屋へと向かった。


(はぁ……ここだな……)


何回かは来たことがあるから間違えるはずがない。

他の人の部屋と大して変わらないはずなのにドアからして威圧感がすごい。

というよりそれ以前に女子棟に俺がぽつんと一人でいることのほうが肩身が狭いんだけどね。

俺は計画をもう一度サラリとおさらいして意を決してドアをノックする。


するとガチャリと鍵が開き、中から『入っていいわよ』とシャーロットの声が聞こえてきた。

俺は恐る恐る扉を開けると中の光景を見て絶句した。


「はぁ……はぁ……どうかしら?」


「うぅ……わん……」


そこにいたのはすでに超準備万端で俺を待ち構えていた猫ちゃんとワンちゃんの姿だった──

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