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第41話 モブ、警戒リストから外す

「あ、そういえばマクスウェル様がエドワードさんに怪我が治り次第部屋に来るようにって言ってましたよ」


危うく手に持っているりんごが刺さった爪楊枝を落としそうになる。

シャーロットの呼び出しの件、正直なんとなく用件はわかっている。

というかあれしかない。


あのド変態(肉食獣)が狙った獲物を逃すはずがなかったのだ。

おそらく不満(欲求)を溜め込んでいることだろう。

そのはけ口に俺が指名されるのは正直怖すぎるので断りたくてしょうがないがもし断ればどんな災厄が訪れるかわからない。


「そ、それってハミルトン様も一緒に来ることってできたりしませんかね……?」


「……すみません。その日は用事がありまして」


「……怪我が治ったら招集とのことですから別に日程は決まってませんよね?」


「…………ここ一ヶ月の放課後は熱を出す予定でして」


み、見捨てられた!

もしアリシアも同室してくれたらシャーロットも自制してくれると思ったのに!


『……それって逆に欲求不満を溜め込みすぎて後で爆発……とかアリシアちゃんがいたほうが興奮する、とかそういう結論に至ったりしない?』


(……ありそうな最悪な未来を言わないでくれ……頭が痛くなってくる……)


『いや、最悪な未来を想定して動かないと詰むんじゃなかったの!?私は人間の身分階級なんてよくわからないから何とも言えないけど貴族っていう人達には逆らえないんじゃなかったの!?』


(時に正論というものは人を追い詰めるものなのだよ、ラナくん)


少しくらい現実逃避させてくれよ。

確かにシャーロットに気にいられるまでは良かったけどもはやここまで来ると執着の域まで達している気がする。

もはや俺と一緒に戦わずあえて敵となり三つ巴にしたのは自分の性癖を満たすためだったんじゃないかと疑ってしまうくらいもうすでにシャーロットはドMを極め始めている。


(一旦シャーロットを常人に戻すというのはどうだろうか)


『それって今のシャーロットちゃんは常人じゃないってこと?』


(罵られてあの表情してる人を常人と呼べと?)


『精霊目線ならギリギリ……常人の範囲内……かも?』


(そんなことを言うなら最後疑問形にするな)


精霊が普段人間をどういうふうに見てるのかは知らないがどうやらシャーロットは常人と常人外の狭間にいるらしい。

人間《俺たち》からすれば完全にアウトなんだけどな。


(というか話がそれた。シャーロットを戻そうっていう提案だ)


『できるなら良いけどマスターにそんなことできるの?私には失敗する未来しか想像できないんだけど?』


(シャーロットを変貌させたのが俺だというのならばまた逆も然り。シャーロットを元に戻せるのは俺しかいないということ……!)


『あー……うん……そだねー……』


(シャーロットにはあの誇り高きプライドを取り戻してもらわないといけない!ちょっと懲らしめてやりたかっただけで悪役令嬢としてあの姿は不健全だしな!)


『マスターの言葉を借りるなら普通の人間としても不健全だと思うんだけど?』


もう一々ラナのツッコミに反応している場合じゃない。

そうと決まればシャーロットを元に戻す計画を練り始めなければ……!

幸い学校にもいけなくて暇な時間が有り余ってるからな!


「そういえばもう一つ伝え忘れていることがありました」


「……!?な、なんでしょうか……?」


早速脳内で計画を練り始める俺をアリシアはたった一言で現実へと引き戻す。

次はどんな爆弾発言が来るのかと気が気じゃない。

もしこれで次もヤバい発言が来たら泣く。

しかしアリシアの対応は俺の予想外のものだった。


「その……すみませんでした」


「え……?」


アリシアが目の前で俺に向かって頭を下げている。

普通なら絶対にありえないこの光景に俺は一瞬呆気にとられて言葉を失ってしまった。

そして慌ててベッドから降りてアリシアに近づいた。


「ちょっ!ハミルトン様、顔を上げてください!そもそもなんでこんなことを!?」


「……頭は……上げられません。私の友達が貴方に迷惑をかけてしまったので」


その言葉で俺はアリシアがなぜ頭を下げているのかを悟った。

アリシア以外なら絶対にやらないだろうけどゲーム中のアリシア=ハミルトンという人間ならばそういう行動をしてもおかしくない。

アリシアは頭を下げたまま続けた。


「私の友達が……ジェシカが本当に貴方にご迷惑をおかけしてしまいました。いきなり模擬戦闘をエドワードさんに仕掛けるだけでなくまさか当日も王子たちを仲間に引き入れて戦おうとするなんて……」


そう、彼女はこういう人なのだ。

友達想いだからこそ友達の非に躊躇なく頭を下げられる。

心優しいからこそ俺みたいな平民が相手だろうとちゃんと向き合える。

もちろんゲームではそういう人間としての良い面は主人公であるジェシカに焦点を当てられることが多かったが、同じようにアリシアもゲーム中のジェシカと同じかそれ以上に心優しい少女だった。


「……別に気にしていませんよ。結果的に勝てましたしね」


もちろんジェシカの言う俺が負けたら退学させる云々の発言はアリシアに伝えていない。

それにアリシアには何の非も無いのだ。


「ですが……エドワードさんは肩に怪我を……」


「あはは、これはマクスウェル様にやられたものですよ。ハミルトン様が気にすることでは無いです」


俺は苦笑しながら伝えるとアリシアはゆっくり顔を上げた。

その表情は少しの不安と心配が混じっていた。

まあ肩をざっくりやられたけど魔法ですぐ治るし本当に気にすることじゃない。


「ハミルトン様が謝ることなんて何も無いんですよ」


「ですが……」


「なら、許す条件を出しましょう」


このままいくと埒が明かないと思ったので俺は人差し指を立てて、アリシアに見せた。

アリシアは俺の指先を見つめた。


「これ以降この件を気にせずいつも通り笑っていてください。きっと貴女の笑顔で救われている誰かがいるはずですから」


「エドワードさん……ふふっ、そう言われたら仕方ありませんね。それならこの件は気にしないことにします」


「はい、そうしてください」


「ふふふ……エドワードさんも私の笑顔が好きでいてくれてるんですかね?」


「さて、どうでしょうね」


「あっ!ひどいです。教えてくれてもいいのに」


そう言ってアリシアは頬を膨らませてむくれる。

そして俺達は同時に笑いあった。


この少女が本性を隠しているかどうかは俺にはわからない。

だが、もし本性を隠しているとしてもその片鱗を見せるまでは警戒しなくてもいいだろう。

少なくともこの少女は今のところマジロマの世界で輝いていた姿そのものだ。


(ま、たまにはこういうのも悪くないかもな……)


俺は変態猫に呼び出された件を頭の片隅に追いやり笑うのだった──

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