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第37話 モブ、ピンク髪と戦う

「アンタには期待してたのだけれどね……もしかして期待外れだったかしら?」


まだ戦いが始まって少ししか経っていない。

王子たちの現状の強さがわからないから何とも言えないが少なくとも素人ではない3人を相手に一人がこの速度で倒してくるというのは現実的な話ではない。

強いのはゲームでも知っていたし、実際に死力を尽くして戦った仲だから理解しているつもりだったがやはりシャーロットには穴がない。

対多数戦闘でもここまでの強さを見せてくるとはまさに完全無欠の悪役令嬢だな。


(今まで魔物との戦闘も一対一で戦える状況でしか戦ってこなかったからな……その分のツケが回ってきたか……)


俺がいたハラルア周辺の魔物は中盤なだけあってステータスが低い俺にとっては一撃が致命傷になりかねない。

だからこそ絶対に死なないようにするために一対一でしか戦ってこなかったし、途中で魔物が乱入して来ても『臆病者の装衣』の力で逃げ続けてきた。

レベルがない俺にとって経験値は無意味だったし、フリージア学園の入試で一対多数戦闘の技能テストは無いから一対多数の経験がほとんどないのだ。


「はぁ……さっきのはウォーミングアップにもならなかったし私も混ぜてもらおうかしら」


そう言ってシャーロットは冷たい目つきで倒れている王子たちに視線を向ける。

おそらく本当にその言葉通りウォーミングアップにすらなっていないんだろう。

シャーロットは霊剣ギルバートをくるくると器用に回し、地面に突き刺す。


「じぇ、ジェシカ!シャーロットが入ってくる前に勝負を決めるぞ!早くその男を!」


ケネスはジェシカに向かって叫ぶと俺に向かって全力の魔法を放ってくる。

俺は水の刃を剣で弾き、ケネスに向かって走り出す。

すると横からジェシカの鋭い剣が襲いかかってくる。

俺は咄嗟に防ぐと転がりながらジェシカと距離を取った。


「ケネス殿下はやらせないわよ……」


「話している余裕があるんですか?あの方が来たらこの戦いは終了ですよ」


「……っ!そんなことはわかってる!」


ジェシカは苦々しい表情で叫ぶ。

彼女の計画に敗北するという仮定はなかったのだろう。

シャーロットの登場に場が引っ掻き回され盤面が動き回ったのは間違いない。


(とは言いつつ俺もこのタイミングでシャーロットに乱入されたくはないな……)


『どうする?マスター。全力でやったら目の前のピンク髪の子も簡単に倒せるだろうけど……』


(シャーロットとギルバートとの戦いを前に力をあまり使いたくない)


『だよね』


これはただの模擬戦であり命や尊厳をかけて戦う決闘と違って俺が失うものはない。

だがシャーロットは弱い男に興味はないと常日頃から公言している。

是が非でもシャーロットと手を組みたい俺からすると今回負けるのはあまりよろしいことではない。


(ラナ、お前の力は全て攻撃に回せ)


『え?いいの?攻撃いろんなところから飛んできちゃうよ?』


(このままダラダラと戦い続けても良いことはなにもない。俺がなんとかするからお前は攻撃に集中しろ)


『なんとかって根拠何もないじゃん……』


(あいにく俺は直感も大切にするタイプなんでな)


『あははっ!戦いに一般常識を持ち込むのはナンセンス。今のは私が悪かったよ。だから……全力で相手を壊しに行くね?』


(ほどほどにな)


ラナは霊剣化しているので表情は見えないが、その弾んだ声から笑顔を浮かべ獰猛な顔をしていることは想像に難しくない。

ラナは普段は常識人ぶって俺の行動にぷりぷり怒ることが多いがいざ戦いが始まると戦闘大好き戦闘狂バーサーカーへと変貌する。

精霊は契約者の心を映す鏡って言うけど俺自身はそんなに戦いは好きではない。

もしかしたら人間として、精霊として、どこかが壊れて欠けているというところが俺達を引き合わせたのかもしれないな。


(よし……行くか)


『うん!』


俺は地を蹴り、ジェシカとの間合いを詰める。

最初にケネスを倒すのは諦めた。

隙があればケネスに攻撃する姿勢を見せ、ジェシカの体勢を崩すなどは狙うがもうジェシカに背は見せない。

ひたすら攻撃あるのみだ。


「くっ……!はや……!?」


「舐めるなよ……!2対1だろうが貴女なんかに負けるはずがない……!」


仲間を連れてくるのは彼我戦力の差をちゃんと理解しているということで百歩譲ってよしとしよう。

だがそれで虎の威を借りて威張り散らすような言動はあまりにも小者すぎる。

それは小者主人公は絶対にダメ、なんて俺は言うつもりはないがマジロマというゲームにおいてそれは許されない。


俺が正す。これは正義の執行であり、作者()の意志。

あのディレクターさんだって自分が作り上げた世界がこんなことになっていると知れば憤慨ものだろう。

だから俺があの人の代わりに刃を振り下ろすんだ。


俺は剣を地面に突き刺すとジェシカの周りに無数の氷柱つららが現れる。

その切っ先は全て一気にジェシカの方へと向き、ジェシカに襲いかかる。


「氷がこんなに……!?」


「本当に俺には興味がないんだな。せめて相手のことを調べていたらもっといい勝負になっただろうに」


「これくらいのこと……!防げるに決まってる!」


ジェシカは自身の周りに光の壁を展開する。

しかし俺の氷柱を全て防ぐことはできず、致命傷こそ負わせられなかったものの何本も体をかすめ制服が一部破け血が流れていた。


「うっ……」


「ジェシカ!貴様よくも!」


ケネスはお返しと言わんばかりに大量の水の刃を放ってくるがジェシカがいなければただの弱い魔法使いでしかない。

俺は剣を横薙ぎに一閃すると水の刃は全て凍りつき地面に落ちた。


「これで終わりだな」


俺はケネスに対し、氷の魔法を放つ。

ケネスの手足を拘束し、戦いは終了を迎えた。

いや──前哨戦と言ったほうが正しいか。


「ふふっ、ダメかと思ったけどやっぱりアンタは素晴らしいわ」


シャーロットは立ち上がりコツコツと美しい所作で歩いてくる。

その笑みは強者の笑みで右手に持ったギルバートからはバチバチと音を立てながら黒雷がほとばしっていた。


「別に今すぐ降参して俺の負けということでもいいですよ」


「あら、興ざめなことを言うのね。まあ降参なんて絶対に許さないけど」


「マクスウェル様の機嫌を損ねるのは俺としても勘弁してほしいところですね」


「ふふふ、ならば剣をとって戦いなさい。全力のぶつかり合いの先に最高の快楽はあるのだから」


この人こんなにバーサーカーキャラだったっけ?

ゲーム中ではどっちかというと面倒だから戦いたくないというほうがしっくり来る気もするんだが……


まあ考えている余裕は無いか。

今回は全然意識されていなかった最初の戦いと違って、お互いある程度手の内をしった状態で戦うことになる。

前よりも更に厳しい戦いになることは間違いない。

だが……


(俺は絶対に負けられない……飼い主として誰に飼われているのかをもう一度躾け直してやらないとな)


『シャーロットちゃんがまだ被虐の心を持ってるといいけどねー』


ラナは俺の大切な決意と意気込みに適当に返すのだった──

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