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第36話 モブ、開戦する

「そ、それでは。ジェシカチーム対エドワード対シャーロットの模擬戦闘を開始する!始めっ!」


俺は初手からいきなりシャーロットが襲いかかってくることを警戒して剣を握るがそれは杞憂に終わる。

シャーロットは開始の合図がなった瞬間、俺には目もくれずジェシカたちの元へ歩いていった。


(最初にジェシカチームから潰すつもりか……まあ人数が一番多いし妥当なところか)


『思ったより堅実なんだね。シャーロットちゃんなら最初から戦場を引っ掻き回すかなって思ってたんだけど』


(気まぐれな猫だからな)


『はいはい。私達も早くいかないと。──マスターを馬鹿にしたあの女をぶっ殺さないとね』


(その見た目でそんな物騒なこと言うなよ……)


俺は心の中でツッコミつつ、シャーロットに続いてジェシカチームの元へ走っていく。

シャーロットと王子はお互い剣を持ってにらみ合いすぐにでも交戦しそうな雰囲気だった。


「くっ……どうしてあの女が参戦してくるのよ……」


「別にいいでしょう。誰がなんと言おうとアレック王子殿下が許可したならば止められないでしょうに」


「……!アンタ……!」


シャーロットを苦い顔で睨むジェシカに近づいていく。

流石にシャーロットの参戦はこの女にとって予想外だっただろうな。

俺にとっても予想外だけども。


「これもあなたの作戦ってわけ……?」


「そんなはずないでしょう?俺ごときであの方を縛れるはずがない」


「……白々しい。まあいいわ。どのみち私に確かめる方法なんて無いもの」


へぇ、思ったより冷静なんだな。

もっと取り乱すなり動揺なりすると思ったけど目の前のジェシカは苦々しい表情は浮かべているものの、大きな油断や隙は見受けられない。


「あら、アンタもこっちに来たの?」


俺がジェシカと少しの間睨み合っているとシャーロットがこちらに気づいたように話しかけてくる。

だって相手はシャーロットとジェシカチームしかいないんだからシャーロットがジェシカチームと戦い始めたら俺もこっち来るしかないじゃん。

まさか俺だけ蚊帳の外で観戦してろとでもこの人は言うんだろうか。


「何人ほしい?」


「え?」


「何人ほしいかって聞いてるのよ。私の質問には一回で答えなさい」


「質問の意図がよくわからなかったもので……何人でもいいですよ」


何回聞いてもよくわからんから取り敢えずシャーロットに任せてみる。

するとシャーロットは楽しそうに笑った。


「ふふっ、そう。じゃあ私は貰えるだけもらっちゃおうかしらね」


「……?どうぞ?」


「じゃあ早速……王子殿下、少々よろしいですか?」


シャーロットの言葉に剣を構えていたアレック王子の眉が一瞬だけピクリと動く。

このタイミングで話しかけられると思ってなかったのだろう。

俺もびっくりだ。


「王子殿下と一対一でやっても私の圧勝でつまらないのでハンデを上げます。好きなだけ護衛は着けていいですよ」


「なんだと……!」


シャーロットのわかり易すぎる単純な挑発に王子は顔を怒りに染める。

こんな単細胞が王族でこの国は大丈夫なんだろうか。


「俺は一人でも戦える……!護衛など必要ない!」


「王族が護衛すらも使いこなせないとは……剣よりも先に学ぶべきことがあったのではないですか?」


シャーロット……たまにはいいこと言うじゃん。

王子には道徳の授業を受けたほうがいいと思う。

人の気持ちがわからない人間に人の上に立つ資格はないだろうしな。


「必要ない。俺は強いからな」


「興味ありません。護衛たちもそんなに後ろに隠れて王子殿下を理由に私と戦うのが怖いだけじゃないの?」


「それはちょっと聞き捨てならないかな」


「ぶち殺されてぇようだなぁ……シャーロット=マクスウェルぅ……!」


王子だけでなくロリーとロブの表情も怒りに染まった。

この馬鹿主従トリオは同じ反応しかできないのか?

特にロリーは宰相の息子なんだから舌戦でこんな簡単に翻弄されちゃあダメでしょうが。


「あはは、じゃあ俺はこっちに参戦しようかな」


そう言って軽薄そうな笑みを浮かべてジェシカの隣に並び立ったのは留学中の隣国の王子ケネス=ウォーレン。

ニコニコというよりニヤニヤと表現したほうがよい笑みを貼り付けたウォーレンは元の顔がめちゃくちゃイケメンだからかそんな姿も画になる。

ゲームでは典型的なチャラ男だがジェシカに惚れてからはジェシカに対して一途に接するという設定もありそのギャップにやられた女性も多かったことだろう。


「ウォーレン様……」


「ふっ、いつも言ってるだろう?俺のことはケネスでいいさ。それに俺はいつだって君の味方さ」


何感動のワンシーンみたいにしてるんだよ。

ヒロインと王子が手を取り合って共に討伐を目指すさながら俺は悪役ヒールってか?

俺は悪を自称するのはいいけど人からそんな扱いを受けるのは絶対に許せないんだが。


「ふふっ、どれだけもつかしらね。せめてウォーミングアップくらいにはなってくれると嬉しいわ。ちゃんとアンタも時間かけずにさっさと終わらせるのよ」


「善処しますよ」


シャーロットの脅しめいた言葉に若干引きつつ剣を構える。

すると隣にいるシャーロットがもつ愛剣ギルバートから黒雷が出現した。


「さぁ、始めましょうか」


その瞬間、俺の目の前から水で作られた刃と光の球が飛んでくる。

俺はそれを跳躍して躱すと、俺は間合いに入り込むべく接近する。


ケネスは完全な魔法使い型だ。

ならば相手に前衛はいないじゃないかと言いたくなるがこのゲームの主人公は一筋縄ではいかない。

オールラウンダーとしての完成度が非常に高く、物理面も魔法面もどこをとっても優秀なキャラだった。

だからこの戦いの展開はジェシカと切り合いながら隙を見てケネスに攻撃を入れていく、というのが基本になるだろう。


(技が来る前の動きは大体わかる……!なんとか懐に潜り込むぞ……!)


『了解!横は私が対応するからマスターは正面だけを!』


(助かる。感謝するぞ)


様々な方向から相手の魔法が飛んでくるが、ラナの力によって生み出された氷の壁が相手の攻撃を防いでくれる。

的確に防いでくれるのに俺の進路は邪魔しないというラナの器用さに俺は内心感心してしまう。


「……っ!めんどくさいわね」


「仮面が取れかかってますよ。もっとちゃんと意識しないと捨てられちゃいますよ?」


俺はジェシカのすぐ近くまで接近し、つば迫り合いを始める。

ここまで近づいたら絶対に引かせない。

また下がられてこっちの攻撃が届かない場所から一方的に攻撃され続けるのも癪だしな。


「くっ……!どれだけ馬鹿力なの……!」


「こちとら生粋の平民なんでね。力がなければ生きていけないんですよ」


本当は種から得た力だけども種は自分の力で手に入れてたのだから良しとしよう。

ジェシカも平民とはいえ、早い段階で光の巫女だということが判明して貴族の後ろ盾を得ていたから平民と言っていいか怪しいところだし、平民トークはこいつに通じない。


「ジェシカはやらせない!」


「チッ!面倒だな」


ケネスの水の刃が飛んでくる。

ジェシカとの切り合いの最中で飛んでくるので単純に手数が増えたも同然だ。

見にくい分、こちらのほうが厄介かもしれない。


(ジェシカを巻き込むかもしれないのに魔法を撃ってくるとは……馬鹿なのかよほど自分に自信があるのか……)


だが流石に全力の一撃ではない。

先ほどと比べれば水の刃の威力はかなり落ちていた。

このまま押し切る──


「へぇ……ピンク髪も中々やるのね」


その瞬間、戦場は恐ろしいほどの静けさと共に、時が止まったかのように戦闘も止まった。

今このタイミングでするはずのない声。

しかし聞き間違えるはずもない声だった。


「苦戦してるのね。私に勝った男ならばもっと圧倒的に倒してほしかったものだけどね」


そこにいたのは倒れた3人の攻略対象たちを背につまらなさそうな顔をする最強無類の悪役令嬢だった──

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