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第32話 モブ、お呼ばれする

(お、おい……!?どうしてこんな状況になってるんだよ……!なんとかしてくれ……!)


隣に座るハンクがヒソヒソと俺に助けを求めてくる。

俺達の前にあるのはティーカップと色とりどりに美しい茶菓子。

そして俺と円テーブルに向かい合うようにして座っているのはシャーロットとアリシアだった。


一体どうしてこんなことになったのかというと時は30分ほど前に遡る──


◇◆◇


「なあ、Aクラスってどんな感じなんだ?」


「どうしたんだよ、そんな藪から棒に」


俺とハンクが並んで歩いていると突然そんな質問をしてくる。

クラスが変わったため一緒にいる時間はもちろん減ったがそれでもやはり同室なので一緒にいる時間は長い。

特に関係もギクシャクしたりせずハンクとは良好な友情関係を築けていた。


「いやぁ、だって気になるじゃん?平民でAクラスって滅多になれるものじゃないって聞くしな」


「あー……そうだな」


ジェシカもいるぞ?と言おうと思ったがあいつのことは思い出したくないし話題に出したくもないので一瞬悩みつつもハンクの言葉に相槌を打つ。

まあこいつも惚れてたみたいだけどその後は全く気にしてなかったみたいだし、友達があの悪女に騙されなくて良かったと思う。

恋は盲目って言うし俺がどれだけアイツが性悪で性格終わってるぞと言っても聞き入れてくれなかった可能性もあるわけだしな。


「まあいいところじゃないぞ?お貴族様たちはいつも利権やら家のメンツやらを気にしていつもピリピリしてる」


「うわ……想像しただけで嫌だな……」


「全然代わってほしい」


「いらねえよ。俺はDクラスで十分だ」


ハンクはブンブンと首を横に振る。

そんな嫌がらなくたっていいのに。


「親父さんに言われて人脈作りに来たんだろ?Aクラスに入れたら色々と便利じゃないのか?」


「嫌だ、怖い。確かにAクラスに入れたらキャリア的にもいいかもしれんが、Dクラスでも目的は達成できるしな」


最初本音が漏れ出てたぞ。

まあ平民からすればBクラスくらいが理想なのかもなぁ……

大商人の家のハンクですら気後れするくらいなのに両親に俺が今Aクラスにいると伝えたら冗談だと思われて聞き流されるか卒倒するかもしれない。


「まあ意外となんとかなりそうだ……ぞ……」


俺はある一点を見て固まる。

そこにいたのは花が咲き乱れた庭の真ん中に用意されたテーブルに上品に座る美少女二人と後ろに静かに立つ侍女一人。


(な、なんでこんなところに……!?普通こんな場所でお貴族様がお茶会なんてしないだろうが……!)


そしてそこにいる人物全員に見覚えしかなかったからこそ俺は今すぐに離れたくなった。

貴族というのは必要な時以外は絶対に関わるべきでないということは俺は嫌と言うほどこの短期間で学んだ。

そしてハンクがこの場にいる以上、俺は何も仕掛けることができないのでただただ振り回される最悪の可能性はあれど俺にメリットが無い悲しき未来が既に見える。

ハンクはまだ気づいていないらしく笑いを浮かべながら何かを話しているが内容が全然頭に入ってこない。


「おい、どうしたんだ?エドワード?」


「い、いや……なんでもない……そ、それよりちょっと図書室に向かわないか?」


「え?今から?来た道をまた戻ることになるぞ?」


「い、いいから行くぞ……」


俺がグイグイと引っ張ってハンクを連れ出そうとする。

しかし一歩遅かった。


「あら、誰かと思ったらアンタじゃない」


「うっ……!?」


気づかれた……!?

やましいことは何も無いけど今この時は穏便に平和に時を過ごしたいだけだったのに……!


「し、シャーロット様……」


「は?誰、アンタ?平民のくせに私のことをファーストネームで呼ばないでくれる?」


咄嗟に出てしまったのだろう、ハンクがファーストネームで呼んだことについてシャーロットは目を細め表情を険しくする。

相変わらず厳しいな、と思いつつハンクの背中を軽くポンポンと叩いた。


「マクスウェル様、お邪魔して申し訳ありません。俺たちはすぐに退散しますから」


「……いや、ちょうどいいからアンタもお茶会に参加しなさい」


「……え!?」


「別にいいわよね?」


そう言ってシャーロットは振り返り問いかける。

そして問いかけられた相手──アリシア=ハミルトンは苦笑を浮かべる。


「構いませんよ。内密にしなければならないお話はありませんしね」


元々アリシアのハミルトン家はマクスウェル家の派閥に属していたからシャーロットとアリシアが一緒にお茶をするというのは不思議なことではない。

まあ結果的にはマクスウェル家から離反して王家側についてジェシカの味方ができるよう王家につくように父を説得する……みたいな友情ストーリーもあった。


「というわけよ」


「いや……それは流石に申し訳ないと言いますか……」


「2度同じことを言わせないでくれる?」


「ぜひご一緒させていただきます」


俺は用意された席に一瞬で座る。

普通にシャーロット怖え……


『マスター……なんか格好悪い……』


(バカ言うな、上司には逆らわず波風立てず、だぞ。これが社畜の常識だ)


『シャチク?っていうのが何かは知らないけどそんな常識は知りたくなかった……』


逆にこんな何にもないタイミングでお貴族様に噛み付いて何になるんだって話だ。

しかもシャーロットとはこれから協力関係、せめて停戦関係くらいまで持っていかなくちゃいかんのに2回も戦ってもしょうがないだろうが。


「そ、それじゃあ俺はこの辺で失礼させていただきます……!」


(なっ!?は、ハンク!?まさかお前逃げるつもりか!?)


俺を売ってそそくさと逃げるつもりか!

そうは絶対にさせんぞ!


「ま、マクスウェル様。もしよろしければハンクも同席させていただけませんか?流石に帰属令嬢の方々2人と俺1人では気後れすると言いますか……」


「……!?」


「平民も同席させろと?」


「そんなことを言ったら俺も平民ですよ」


俺はアリシアにアイコンタクトを送る。

原作通りの彼女ならば意図に気づいて応えてくれるはず。

そして彼女は何かに気づいたようにニッコリ笑った。


「マクスウェル様、彼のお友達ならばいいんじゃないでしょうか」


(よっし!)


アリシアは過度な身分制度を良しとしないって初対面のときに自分で言っていた。

だからこそ俺が少し頼めばこちらに援護してくれると思っていた。


「……そう、じゃあコイツの後ろに立っていなさい」


同じ場にいることを許しても同じ席につくことは許さない。

本当に彼女はブレないなぁ。

まあ原作を考えれば同じ場にいることを許すだけでもえっ!?って反応になるけどな。


(お、おい……!恨むぞエドワード……!)


(悪いな。死なばもろともだ)


ハンクの恨みの詰まった言葉を聞き流し、俺はシャーロットたちに向かい合う。

正直こんなところを見られたら彼女たちの醜聞になりかねない気がするのだがシャーロットは他人からの評価は自分の力でねじ伏せるタイプだしアリシアは平民と云々の話は身分制度を気にしない彼女からすれば問題ないものなんだろう。

それより密室で会って痛くない腹を探られるほうが嫌だと言った感じかな。


「それで……俺はなぜここにお呼ばれしたのですか?」


「質問があるからよ。アンタ……あのピンク頭と何かあったでしょ?」


あまりにも単刀直入で的確すぎる質問に俺は言葉を失うのだった──

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