第31話 モブ、髪も脳内もピンク色女と話す
「こんなことは言いたくないけど……アレック王子殿下にご相談するしかないのかなぁ……?」
ジェシカは意地悪く笑う。
これは天然でもなんでもなく俺と王子たちが一度衝突したとわかって言ってやがるな。
初めから俺が断れないと踏んでこの提案を持ちかけてきたのか。
「なるほど、それは随分と卑怯な提案ですね」
「用意周到って言ってくれると嬉しいな?」
何が用意周到だよ。
王子たちと仲を深めていたという点ではそうかもしれないがただチクるぞって脅してるだけじゃねえか。
それで用意周到だなんてどの面下げて言うんだよ。
「こんなか弱く善良な男子を捕まえて決闘って何がしたいんですか?」
『か弱く善良?どこが?精霊遣いの荒い変態じゃなくて?』
(馬鹿言え、この学園に俺以上の化け物が何人いると思ってるんだ。この学園にいる化け物はシャーロットだけじゃない。目の前にいるコイツだって化け物予備軍筆頭だ)
『変態についてはもう反論すらしないんだね……』
ストーリーが進み主要キャラたちのレベルが上がり始めたらいくらステータスを頑張ってあげようと覚える特技と霊剣、そして頭数の差で勝てない。
攻略対象たちも個性派揃いと言えど、ジェシカが先導するなら1本化して連携してくる可能性は十分にありえる。
そう考えれば俺の実力なんて、か弱いカテゴリーに入れてもいいだろう。
「違う違う。決闘なんかじゃないよ」
「……違うんですか?」
「うん、私は君と決闘しようだなんて思ってないよ」
決闘じゃない……?
なら一体どういうことだ……?
「ふふっ、どういうことだって顔してるね」
「まあそれは。俺はなんにも悪いことしてないのにいきなり戦おうって言ってくる方にも問題があると思いますけどね」
「連れないなぁ。もしかして照れちゃってるのかな?」
そう言ってジェシカは俺にパチリとウインクを飛ばしてくる。
可愛いのは間違いないがそれ以上に嫌悪感が大きすぎて何も心に響かない。
本当にその顔と姿でそんな勘違いも甚だしいセリフを言わないでほしい。
むしろもっと関係性も浅くブサイクで性格も終わってる女性にそういう勘違いのセリフを言われる方がまだマシだ。
「別に照れてなんかいませんよ。貴女のその勘違いも甚だしい発言をするのは控えていただきたい」
「へぇ、こんなに可愛い女の子が目の前にいてもそういうこと言っちゃうんだ」
「どうでもいいと言っているでしょう。そんなことより決闘じゃないってどういうことですか?こちらは一刻も早く貴女との会話を切り上げたいのでさっさと要件だけ伝えてください」
「本当に生意気ね。その顔……歪ませたくなっちゃう……」
ジェシカはぺろりと蠱惑的に唇を舐める。
お前もSの人間だったのか。
まあそんなことはどうでもいいけど。
「跪いてほしいなら今すぐにでも跪いてあげますよ。そもそも俺は貴女と何かしらの関係を持ちたいだなんて1ミリも考えていませんので。むしろ断ちたい気持ちでいっぱいですよ」
「そういう問題じゃないんだよね〜。とにかく身の程を知ってほしいというか?うわべだけの謝罪なんていらないの。とにかく今後一切二度と私の邪魔ができないようにしないとね」
本当に厄介だな。
どうして原作と違い、こんな性悪で顔しか取り柄のないしつこい女になってしまったのかは知らないが迷惑なことこの上ない。
せっかくシャーロットとの決闘にも勝ったんだから、今はすぐにでも協力関係を結べるようにしたかったんだけどな。
世の中上手くいかないことだらけだ。
「さっきも言いましたが俺に貴女を邪魔しようだなんて意志はありませんよ」
「意志があろうがなかろうが関係ないよ。私の邪魔になるなら排除する。それが全てだから」
「はた迷惑な人がいたもんですね」
「ふふ、そうかも知れないね。でも私は私の目的を果たすためならなんだってする。そのためには最近目立ち始めた貴方の存在が邪魔で仕方ないの」
言っていることがあまりにも滅茶苦茶すぎる。
国家間とかで使ってそうな言い分だ。
少なくとも共に学び共に青春を分かち合うクラスメイトに対する言い分ではない。
まあこの学園で常識的な青春を望むほうが間違っているのかもしれないが。
「無茶なことを言わないでください。そんなものは後出しジャンケンのようなものですよ」
「言って回るわけにもいかないしね。貴方にも申し訳なく思ってるよ。羽虫程度には気にかけていたから」
それは……気にかけてるって言うのか?
羽虫が周りを飛んでたら目障りだし割と気にかけてたってことになるのか?
ぶっちゃけそこら辺はわからないがひとまず良い感情を持たれていないのは間違いない。
「それはどうも」
「それで君が決闘って言ってた件についてなんだけどね。私は決闘じゃなくて模擬戦闘で決着をつけたいな」
模擬戦闘。
決闘のように何も無い場所で一対一で戦うのではなく本当の戦争や魔物との戦闘のように何人でも参加できるし、場所も森や丘陵など自然の地形を活かして戦える場所が多い。
「……なぜ模擬戦闘を?」
「だって別に決闘で君に言うことを聞かせたいわけじゃないからね。心を折らないと意味ないじゃん」
なるほど、言ってることは俺と同じだな。
ただ用いる手段が精神攻撃から暴力という手段に変わっただけだ。
まあ結果的に見ればシャーロットにとって精神攻撃ではなく性癖を満たすことになってしまったのだが。
「あ、断るのは駄目だよ?いらない相談をしなくちゃいけなくなるからね」
「……はぁ。わかった」
「ふふっ、いい子ね。それじゃあ模擬戦闘は1週間後。先生への申請もこっちでやっておくよ」
「それは断る。アンタのことだから勝手にどんな条件を付け加えるかわかったものじゃない。提出する時は俺も一緒だ」
「俺も一緒だ、だなんて……もしかして口説いてる?」
この脳内ピンク女が……!
って実際に髪はピンクだったわ。
なんでこう発言の一つ一つが癪に障るようなことしか言わないのだろうか。
脳みそ詰まってんのか?
「変な勘違いをしないでいただきたい」
「あははっ、それじゃあ私はここらへんでバイバイしようかな」
そう言ってジェシカは一つウインクを飛ばしてくる。
そして自分の鞄を持って教室からでていくのであった。
『うわぁ……とんだ悪女って感じだね』
(全くなんでこんなことになったんだか……あいつと関わりなんて持ちたくなかったのに)
『ふふ、ふふふ……だったら当日叩き潰すだけでしょ?私、舐められたまま終わるのはちょっと許容できないかなぁ?』
(ああ……負けたら待っているのは破滅か死にたくなるほど面倒な未来だけだ。ひとまずこの勝負……勝たなくちゃいけない……)
シャーロットとの決闘という大きな山を越えたばかりなのに次は主人公との戦いという大きすぎる山を迎えなくてはならないことにため息を禁じ得なかった──




