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第30話 モブ、主人公と話す

「ほら、答えてくださいよ。ねぇ?」


聞く人が聞けば煽っているとも取りかねないジェシカの口調。

しかしその顔は誰もが見とれてしまうほどの美しい笑顔を浮かべたまま。

この表情と言っていることのギャップに頭が混乱しそうだった。


(性格が悪そうだなとは思っていたがまさか向こうから改めて接触してくるとはな……また王子たちが待機してて俺を貶めようってわけじゃなさそうだが……)


周りに人の気配は無く廊下で誰かが聞き耳を立てている様子もない。

完全に俺とジェシカの二人きり。

絶世の美少女と放課後教室で二人きりなんて垂涎もののシチュエーションだがいつ王子たちが来るかもわからないし今、このタイミングでジェシカが接触してきた理由も掴めていない。


俺は警戒心を解かずに少し距離を取る。


「邪魔だなんて。人聞きが悪いですよ。俺は誰も貶めようとなんてしてないし意図的に誰かを邪魔しようなんて思いませんよ。そもそも俺はなんの後ろ盾も力もないただの平民ですから」


『嘘ばっかり。なんでそんなに嘘がスラスラと出てくるかな。やっぱり普段から私にも嘘付いてるとか……』


(今は黙ってろ。真剣な話をしている最中だ)


『はーい、しょうがないなぁ』


今ばかりはラナの軽口にゆっくり付き合ってる暇はない。

もしこれで目の前のジェシカが俺の計画や狙いに気づいているとしたら相当俺は後手に回ることになる。

この早さで気づいてくるのは転生もしくは、俺も予想できていない第三者の入れ知恵を疑いたくなるがこの際どうやってここまで近づいてきたかはどうでもいい。

常に最悪を想定して動くべきだ。


「本当に言ってるのかな〜?あなたが何も持たない平民だって?」


「それはそうでしょう?実際俺はどこかの貴族家に推薦をいただいたわけでもありませんし、元々はDクラスでしたから」


「ふーん、でもシャーロット様に勝てるのに力が無いだなんて本当に言えるのかな?」


ジェシカは俺に対する疑念の視線を止めない。

ニコニコ笑顔で目は全く笑っていない状態のままだ。

正直面倒だし逃げ出したいくらいだがクラスメイトになってしまったわけだし、普通の平民だったらハミルトン家の後ろ盾を持ったジェシカ相手にそんなことはしない。

普通の無害な平民を演じるためにも俺はここで逃げるわけにはいかなかった。


「たまたまですよ。勝負は最後まで何があるかわからないって言いますしたまたま運の女神が俺に微笑んでくれたおかげですよ。それもこれも俺の日頃の行いが良いからですかね?」


『女の子をニャンニャンさせて歪めるのが日頃の行い、ねぇ……』


(シャラップ。茶化すな。お前にも猫耳つけるぞ)


『変態。そんなことしたら憲兵隊呼ぶからね』


(何で人間みたいな対応してるんだよ……)


精霊が契約者に猫耳着けさせられてニャンニャン言わせられます、なんて憲兵隊に言いに言ったら多分俺がヤバい目で見られて社会的に死ぬor俺もラナも変態として見られて二人共社会的に死ぬかのどちらかだ。

結局俺が社会的に死ぬことには変わりないので勘弁してほしい。


「シャーロット様に勝てたのが運、ねぇ……」


「何か問題でも?そもそも俺達が戦ったところを直接見ていないんでしょう?」


ジェシカのようなピンク髪の美人が来ていれば視覚的にも目立つし、人だかりもできるだろうからすぐに気付ける。

ハンクにも確認をとってジェシカ含め攻略対象たちが決闘場にいなかったのは確認済みだ。


「まあそれはそうね〜」


「なら難癖をつけるのは止めていただきたい。風評被害もいいところですよ?」


「ふふっ、運で勝ったと言うあなたが風評被害ね〜。中々面白いことを言うのね」


「それは何より。では俺はこの辺で失礼しますよ」


「待ちなさい、まだ話は終わっていないわ」


なんでだよ。

貴女は俺の戦いを直接見ていない→つまり俺の強さについて言う権利はない→QED

もうこれ以上に話すことなんて無いだろうが。


「あなた……氷の霊剣を使ってシャーロット様のギルバートに勝ったそうね。しかもあの黒雷も使ったと聞いたわ」


「解説を頼むならば観客か審判をしていた先生に聞けばいいでしょう?」


「イヤよ。なんで本人が目の前にいるのにわざわざ私がそんな面倒なことをしなくちゃいけないわけ?」


「それは貴女が俺に聞かせてくださいと教えを乞う側であり教える側である俺とは明らかにパワーバランスが存在するからです。俺が嫌だと言えば貴女はそれまでだ」


ついイラッとしてそのまま言い返す。

そもそもこいつは後の光の巫女だし、ハミルトン家の後ろ盾を持っているが今は1生徒でありしかも身分は平民。

こちらも後ろ盾ではないもののマクスウェル家というハミルトン家より格上の家から推薦を受けこの場所にいるんだからこいつの命令を聞く筋合いなど無い。


「へえ、あなたのほうが私より上だって?」


「少なくとも今この場では、ですがね。そして俺は貴女にシャーロット様との決闘に関して言うことは何もないのでこれで会話は終了です」


俺はため息をついて教室のドアに向かって歩き出す。

しかしその瞬間、後ろから魔力が溢れ出す。

シャーロットほどではないけど未来の光の巫女らしく中々大きい魔力が漏れ出している。


(なるほど……これが光の魔力か。味方には温かく優しい魔力としか言われてなかったがこうして敵意を向けられていると気味が悪いほど居心地が悪いな。主人公しか持つことの叶わない特別な才能《力》っていうのはこれだから困る)


俺に特別な力は何一つない。

あるのはこの世界の知識、ドーピング漬けになったステータス高めの体のみ。

目の前に立っているのはラナの力もどれほど通用するかわからない将来の可能性の塊だ。

本能が俺の脳に警鐘を鳴らし始める。


「はぁ……なんですか?そんなに物騒にも魔力を垂れ流しにして」


「あれ、気づくんだ。てっきり鈍い君は気づかないかもって思ってたのに」


「そんなにも敵意を向ければ嫌ってほどわかりますよ。変な魔力を持ってるんですね」


ジェシカが光の魔力を持っていることは貴族では周知の事実だが平民には知らされていない。

だが魔力に敏感な人じゃなくても光の魔力の持ち主に敵意を抱かれその魔力に当てられたら嫌でも気づくその違い。

むしろこちらから切り出さないほうが不自然というものだ。


「ふふっ、あなたに魔力それを教える必要なんてないわ。でもわかったでしょう?これでも私はそこそこ強いの」


「そうかもしれませんね。別に俺より強いってことでいいですよ」


「それじゃあ何の意味もないじゃない。そうでしょう?」


そもそもこの会話にすら意味がないと思うけどな。

少なくともその顔とその声でこれ以上醜悪な姿をさらしてほしくない。

一刻も早く視界から消えてほしい。


拭いきれない嫌悪感で心が締め付けられる。

すぐにでも殴り飛ばしてやりたい衝動を理性で押さえつけている状態だった。


「ねえ、私と戦いましょうよ」


なんとなく予想はついていた。

自分は強いと言いだしたそのときから。

受けるメリットなんて無い。

また王子や攻略対象たちに下手に目をつけられるだけだ。


「お断りします」


一切の迷いも躊躇もない。

こんな誘いは断って当然だ。


「へぇ……そんなこと言っちゃうんだ。じゃあアレック王子殿下にこのことを相談するしかないのかな?名前も知らない男の子?」


「……!」


原作通りのジェシカならまず間違いなくしない醜悪な笑み。

俺はその瞬間、この主人公はこのまま放置していてはならないと悟るのだった──

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