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第17話 モブ、命をかけた激戦をする

そして2日後。

俺たちは決闘用に作られた訓練場に来ていた。

俺は決闘を取り付けたらその日にでもやって良かったのだが、申請が通るまで時間がかかるし契約書の内容も先生に前もって伝えておく可能性がある。

そのため2日後に行われることになったのだ。


「ふん、逃げなかったのね。泣いて許しを請うたら一生私の家畜として生きていくだけで許してあげたのに意外と勇気はあるのね」


「わざわざ負けに来るバカはいないでしょう?勝ちに来たんですよ」


「訂正、どうやら脳みそが詰まってなかったみたい。勇猛と蛮勇を履き違えたバカね」


シャーロットは嘲笑いながら俺を見下してくる。

女性にしてはシャーロットの身長も高いとは言え、俺のほうが大きいのに見下すなんて器用なことをするなと思いつつ俺は微笑んだ。


「それは俺のセリフですよ。よくあの条件で逃げ出しませんでしたね」


「条件?私が勝つに決まってるんだからなんだっていいじゃない。見る必要すら無いわ」


俺はシャーロットの言葉にニヤリと笑う。

やはり俺が勝った後の条件は確認していなかったらしい。

仮にも男に対して何をしたっていいというのは危険な気がするけどな。

ましてや最後まで何が起こるかわからない勝負の世界なのだ。


(まあ俺に失うものは何もないからな……仮に死んだところでこの世界をのうのうと生きていくより千倍マシだ)


『嫌だよぅ……のうのうと生きていきたいよぅ……』


(文句を言うな。すぐに始まるぞ)


『うぅ……はいぃ……』


ラナは心の中でブツブツと文句を言う。

周りには既に何十、何百もの観衆が集まりざわめきが続いているがラナは心の中に語りかけてくるので普通に聞こえる。

だがそれもここまでのようで審判を務める先生が審判席の前に立った。


「これより1‐A、シャーロット=マクスウェルと1‐D、エドワードの決闘を始める。ルールは特に制限なしの一対一。試合終了後は両者が契約書に記載した条件を《《必ず履行》》すること。これが行われなかった場合決闘魔法がお前たちを縛り無理やりでも履行させることとする」


「ええ、それで問題ないわ」


「俺も問題ありません」


俺が負けたとしても大丈夫なように条件を書き換える、なんてセコい真似はしない。

そんなことをしてしまえば彼女の心を本当の意味でへし折ることなんてできない。

正々堂々の誰も文句のつけようのない勝負の勝利の末に俺が求めるものはあるのだ。


「それでは両者位置に付け」


「ラナ、頼む」


『りょーかい!』


ラナは武器化し剣となって俺の手に収まる。

そして向かい合うシャーロットも同じように霊剣を出した。

彼女の剣は禍々しいほど魔力を纏いその漆黒の剣身は光すらも飲み込んでしまいそうなほど暗い。

ジェシカが扱う光の霊剣を除けばゲームで登場した中で最高の能力を持った最強の霊剣ギルバードをこの目で見られるなんて思ってなかった。

まあ今日はそれが俺にとって史上最高難易度の壁として立ちはだかってくるわけだが。


「……始めっ!」


先生の合図が出たその瞬間、シャーロットの姿が消えた。

背筋にゾクッと嫌な予感が走り勘で横に飛ぶと俺がいた場所にシャーロットの剣が振り下ろされ、黒い稲妻が落ちて地面が黒く焦げる。


(あ、あっぶねぇ……あんなの食らったら一撃で終了じゃねえか!)


『速すぎない!?私今目で追えなかったんだけど!?』


(だが想定通り……シャーロットが強いなんて最初から知っていたことだ……!)


実はマジロマのチュートリアルでシャーロットが一度だけ参戦したことがある。

その時にシャーロットは圧倒的ステータスの暴力と強力な特技のオンパレードで敵を蹂躙していった。

おそらく種ドーピングをしてほとんどのステータスが3桁、もしくは4桁まで到達している俺でも勝てないほどシャーロットはステータスが高い。


「へぇ……平民のくせに今のを避けるのね。少しはホコリから羽虫くらいにはグレードアップしてあげるわ」


「それはどうも!決闘が終わったときに評価がどうなっているか楽しみですよ!」


そんなことを話している間に再び黒い雷が飛んでくる。

しかし一度見切ってしまえばこちらのもの。

いくらチュートリアルの一度とボス戦でしか出てこないとはいえ、ゲームを何周もした俺は使ってくる特技のモーションは全て頭に入っている。

雷も魔力によって人工的に生み出したものだからか速すぎることには変わりないものの自然界の速さには遠くおよばない。

だからこそ攻撃の速ささえ頭に入れてしまえば初動でどんな大技を放ってくるか見抜き対処することができる。


(ラナ!細かいところは任せたぞ!)


『う、うん!任せて!』


俺は大きな一撃は自分で防ぎ雷の余波はラナに任せる。

剣身から氷が出てくることで上手く俺の体に攻撃が届かないように防いでくれている。


「っ……!うっとおしいわね!さっさと跪きなさいよ!」


(ま、まずい!この攻撃は!)


上を見ると小さな雲が無数にできている。

おそらく今のシャーロットが使える大技の中でも1、2を争う威力を持つ技、『黒雷雨』

雷が雨の如く無数に降り注ぎ一撃一撃が致命傷になりうる、しかも彼女自身はギルバートが雷を吸う避雷針的役割を果たしてくれるのでシャーロットは自由に動きたい放題だ。

つまり上から降ってくる雷と下から襲ってくる攻撃を同時に対処しなくてはならない。


『マスター!上は私ができるだけ防ぐからあの子を抑えて!』


(了解!)


防げるのかと聞き返している余裕はない。

シャーロットの剣を慌てて受け止めると、次の瞬間地面から繭のように氷が俺を包み雷から守ってくれる。

たまに防ぎきれなかった雷をなんとか決死の思いで躱しつつシャーロットの攻撃を防ぎ続けること約30秒。

無限にも感じられたその短い時間はようやく雷の終わりを告げた。


「なっ……!まさかこれで倒せないの……!?」


「こちとら雑草魂だけは一流なもんでね。簡単にはくたばってやらないさ」


(ラナ、まだ行けるか?)


結構力を使ってしまったから確認のためにラナに話しかけるが返事はかえってこない。

大丈夫かともう一度問い掛けようとすると次は頭の中で幼女の大きな笑い声が聞こえてきた。


『アハッ!アハハ!楽しい!楽しいねマスター!これが強者を引きずり下ろすって感覚なのかなぁ!すっごく強くて、力もたくさん使っちゃってすっごくピンチなはずなのに楽しくてしょうがないよ!』


それはまさに狂者の笑い。

俺が心折られ、この世界のストーリー(運命)を破壊せんと誓ったそのときの笑みを全く同じであった。

精霊は契約者の心を映す鏡とはよく言ったものだとこんな状況にも関わらず考えてしまう。


『マスター……全力であの子たちを倒すよ……!ここでしか味わえない快楽があるんだもの!最高に楽しまないと損だよね!』


(……ああ、そうだな。俺は俺のために)


『私は私のために』


『(あいつらを倒す!)よ!


その瞬間、剣から凄まじい冷気が漂い剣身が全て凍りつく。

空気は凍てつき凍えるほどの空間を生み出した。


「そんなバカな……!?平民風情がなぜこれほどの力を……!?」


「なあ公爵令嬢様よぉ!そろそろ王座交代の時間だなぁ!」


「ふ、ふざけるなぁ!私は誰にも……!誰にも負けたりしない!」


シャーロットの愛剣ギルバートも黒雷を纏い始める。

もう一つの最強の技、『黒雷斬』の構え。

お互いに最後の一滴まで振り絞ってこの一撃に賭ける。


「はぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


「私は……!私はぁぁぁ!!!!」


凄まじい音を立てて剣がぶつかり合う。

氷の刃と雷のぶつかり合いもお互い一歩も譲らない。

しかし決着の時は突然訪れた。


『マスターとならまだやれる!私達の全力は……こんなものじゃない!』


一本の氷の刃が地面から猛スピードで伸びシャーロットの右足を貫く。

その瞬間、一瞬だけ力が抜けたその隙を俺は見逃さなかった。


「いい勝負だったぜ。最強」


『冷剣一閃』

後にそう名付けられた一撃で決闘の勝負はついたのだった。


「くっ……!?かはっ……!」


ドサリとシャーロットが倒れ込む。

ギルバートは光となって消え、シャーロットの体の中に戻っていった。


「そこまで!勝者エドワード!」


観客席から見ていた観衆たちは静まり返る。

観衆のほとんどが貴族だったからこそシャーロットの恐ろしさを……その実力を知っている。

そんなシャーロットに俺が勝ってしまったのだから反応に困るのも無理はない。


シャーロットは意識はあるものの立ち上がれない様子だ。

決闘の魔法は死ぬことはないが致命傷を負うと回復まで数分かかるらしい。


「下等な平民に見下される気分はどうだ?お貴族さんよ」


シャーロットはだんまりを決め込み俺を睨みつけてくる。

その目は今までで一番怒りに血走っていた。


(これはまだ序の口なんだよなぁ……これ以上の屈辱でその高慢なプライドをボッキボキにへし折ってやるからな……!ストーリー改変はシャーロットが変わってこそ始まるんだ……!)


俺はシャーロットの屈辱に歪むその美しい顔を想像してニヤリと笑みをこぼすのだった──

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