第13話 モブ、破壊の計画を練る
(全てをぐちゃぐちゃにする……!まずはどこからぶっ壊してやろうか……)
跡形もなくストーリーを消し去る。
このままマジロマと同じ世界線を辿るなど許せない。
早々に手を打ちストーリーの大幅な変更を入れなくてはならない。
そのためにまずすべきことは……
「だ、大丈夫ですか!?」
俺が考え事をしていると声をかけられる。
走って駆け寄ってきたのはアリシアだった。
息を切らして肩を上下させている。
それだけでも急いで来てくれたというのがわかった。
「ハミルトン様……なぜここに?」
「はぁ……はぁ……貴方が突然倒れたので……王子殿下と何かありましたか?」
そういえば確かに攻略対象たちとの話し中に膝をついたことがあった。
別に暴力を振るわれたわけではないのだがアリシアからは遠くて細かく見えなかったのだろう。
こうして心配して走ってくるのは想定外だった。
「いえ、何もございませんよ。心配していただきありがとうございます」
俺は今、心の底から笑えている。
激しい怒りもこの世界を壊すと決めたその瞬間から晴れやかな気持ちに変わっていった。
心配させまいと無理に笑顔を作るより百倍良い。
むしろ自分という存在がこの世界に誕生してしまった時点でマジロマは完成体とは言えなくなってしまったのだ。
最初からこうすると決めていればよかった。
「ですが……」
「本当に大丈夫ですよ。それよりもご友人のジェシカさんはどうしたのですか?」
「え?ジェシカは王子殿下たちのところに行くって言ってましたけど……」
(ふむ、なるほど……)
俺はアリシアの言葉から推測を始める。
ゲーム上でのジェシカはアリシア以上に貴族主義が許せないタイプだった。
アリシアが来てジェシカが来ないということはジェシカ自身にも何らかの異変、もしくはゲーム時代との錯誤が発生している可能性がある。
攻略対象たちの本性があんなに屑だと判明した以上何があっても驚かないし決意も揺らがない。
まだそうだと決めつけるのは早計だが仮にもマジロマに出演していたキャラとたまたま同姓同名でたまたま顔が似ている奴がクズなのはギルティなのでもしそうなら潰すだけだ。
「そうでしたか。変なことを聞いてしまってすみません」
「い、いえ……それは別にいいのですけど……」
「俺はこのへんで失礼させていただきますね。それでは」
俺は一つ頭を下げて歩き出す。
まだアリシアは何か言いたそうな顔をしていたが俺は足早にその場を去ったのだった──
◇◆◇
部屋に戻ると先に帰っていたハンクに本気で謝られた。
ガチの土下座までされたんだから普通に許すしそもそもハンクのおかげでこんな早い段階で攻略対象たちの異常さに気づけたんだから感謝こそすれど責めるはずがない。
まあそんなことは口に出すことはできないので取り敢えずハンクを許し、俺は自分の寝室に戻った。
俺を気遣ってくれたアリシアでさえも俺の知っているアリシアとどれだけ違うかはわからない。
ストーリーを破壊すると決めた以上はじっくりと計画を練って最高にぐちゃぐちゃにしてやりたかった。
(何をすればあいつらは苦しむ……?何をすればストーリーが壊れる?あぁ……アイデアが止まらない……!)
これは復讐ではなく制裁だ。
だからこそ攻略対象たちを殺したいわけではないし、拷問のように自ら手を下して苦しめたいわけではない。
俺の手でこの世界を引っ掻き回し、あいつらにとってのハッピーエンドを全て阻止してやるだけだ。
(情けなんて絶対にかけないからな……!マジロマを穢した罪は重いぞ……)
俺は再びゲームのストーリーと現状を整理していく。
おそらくまだストーリーからはそこまで逸脱していないはず。
俺というモブはアイツらにとって雑草であり眼中にないと自分自身で言っていた。
だから俺と話したことはストーリーに影響は与えないはずだ。
攻略対象たちがお気入りのジェシカにさえ近づかなければ後は自由に動き回っても問題はない。
(まずは学園であいつらの上に立つことから始めようか。俺はまずはハラルアをなんとかして学園を卒業してから本気出す、なんて消極的なことを言うつもりはないからな……!)
学園在学中、それも1年生の間に動き出す。
ゲームでハラルア襲撃があったのは2年生前半のこと。
まだ細かい解決策は無いが、案は既にいくつかある。
ハラルアの方はそのときそのときの状況に合わせて臨機応変に変更し今はストーリー破壊の方を優先させる。
「となれば、仕掛けるタイミングはある程度絞られてくるよな……!」
この学園には生徒同士における実力のパワーバランスが明確に動き出すタイミングがある。
正直、俺にとっても不確定要素だし《《それ》》によって攻略対象たちと比べて強くなれる気もしない。
だが物は使いようなのだ。
手駒が増えればその分、戦略の幅が何倍、何十倍と広がっていく。
その全域を知るのはこの世界においてマジロマをやりまくった俺だけだ。
マジロマの自由度と戦略性の高さを最高効率で利用し、俺がこの学園のトップに立つ。
俺は一番下のDクラスだし、攻略対象たちがいる上のクラスとテストも違うらしいのでそこで勝負することはできないが白黒付ける方法は確かに存在する。
「そのためにまずはゲットしないといけないよな!霊剣を!」
このフリージア学園では入学してから一定期間が立つと全員に霊剣と契約するための特殊な鉱石が配られる。
これは平民も同様であり高い入学金はこの特殊な鉱石を用意するため、と言うのが定説である。
霊剣は文字通り精霊が剣と成り契約者に圧倒的力と魔をもたらしてくれる特殊な剣だ。
これさえあれば何の種類かは知らんが俺でも魔法を使えるようになる。
後はそのときになってからのお楽しみで今の俺にできることは少しでも霊剣の力を引き出して戦えるように自身の戦闘センスを磨き続けることだけだ。
「ふふふ……!待ってろよ……!俺の野望のため、悲願のため。最初に犠牲になってもらうのはお前からだ……!」
俺の脳裏には1人のフリージア学生の姿が浮かぶ。
ゲームにも名前付きで登場するどころか普通に物語の根幹に関わる超重要人物。
だがそれくらいやってのけないとストーリーは永遠に変わらない。
俺は完全に八つ当たりであることは理解しつつも、その瞬間へのあまりの待ち遠しさのあまり笑みをこぼすのであった──