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第12話 モブ、狂気の闇堕ちする

「断る」


それは俺を絶望させるのには十分な一言だった。

もはや勘違いのしようもないほどまっすぐすぎる拒絶。


「な、なぜですか……!?せめて一度確認に人員を派遣するだけでも……!」


「はぁ……どうやら何もわかっていないようだ。仕方ない、一度場所を変えて一度話をしようではないか。この俺がここまでの待遇をしてやるのだ。まさか断るわけはないよな?」


ここで俺はいいえ、とは言えない。

それだけの身分差があるしこうして話していることすら奇跡に等しい。

俺は常にイエスマンでなければならず、そうしなくては俺の家族にまで被害が及んでしまう可能性がある。


「わかり……ました」


「それでいい。校舎裏に行くぞ」


「ま、待ってください!王子殿下!」


そこに待ったをかけたのはまたしてもアリシアだった。

王子はゆっくりと振り返りアリシアを見つめる。


「なんだ?いくらハミルトン家長女と言えど何度も俺を呼び止められるほど偉くはないはずだが?」


「それに関しては謝罪いたします。ですが彼が貴方様に上奏したのは故郷を思う気持ちあってこそ。そしてこの場を設けた私にも責任があります。もし彼に対し叱責もしくは処罰をお考えならばどうか私にしてくださいませ」


先程王子との会話の場を設けてくれたのは最初に俺がジェシカをナンパしたと勘違いした申し訳無さや、単純に俺が困っているのではないかという親切心で言ってくれたのだろう。

こうして身を呈して平民を守るなんて考えられなかった。

俺は思わず目を丸くする。


「ハミルトン様……」


「すみません、エドワードさん。余計なお節介を焼いてしまいました」


「いえ、いつかは言わなければと考えていたところでした。ハミルトン様のせいではありません」


「ですが……」


「別に叱責するつもりはない、ハミルトン嬢。ただ少し()()()()だけだ。もし心配ならば校舎から見ているがいい」


どうやら暴力やらは無いらしい。

それだけでも少しホッとする。

俺はアリシアに向かって首を縦に振った。


「行くぞ、平民」


「はい」


俺は攻略対象たちの後ろを肩身の狭さを感じながら歩き出した──


◇◆◇


やってきたのは校舎裏。

遠目に見える窓からはアリシアとジェシカの二人の姿も見える。

俺は周りを攻略対象たちに囲まれ完全にいじめられてる構図になっていた。


「それで?ハラルアがなんだって?」


「ハラルア近郊で魔物が増えています。これでは近い将来ハラルアは魔物の大襲撃にあい壊滅の憂き目に遭ってしまいます」


俺は半分折れかけた心をなんとか叱責しながら絞り出す。

俺1人の力ではどれだけ強くなろうが魔物災害は防げない。

かといって自分の私兵を持てるだけの金もないのだ。

王国が管理する軍隊の力を借りなくてはどうにもならない。


「では逆に聞こう。俺がハラルアを助ける理由はなんだ?」


「え?」


思わず素のえ?が漏れてしまった。

正直に言うと助けない理由のほうが無いと思ってしまう。

別に他国の街を助けろと言っているわけではない。

自分の国の街を守るためになんらかの対価を求めることが間違っている。

だって王族が日々を暮らしているのも、軍隊の維持費用も全て税金で賄われているのだ。

地球で例えるならば凶器を持った犯人から市民を守る前に、助ける人から金をもらわなければ見殺しにすると言っているようなものだ。


(クソ……!ゲームでは民を想う心優しき王子って説明されてたのにこうもイカれた思考の持ち主だったとは……!かっこいい姿を見せればジェシカからの好感度も上がるし断られるとは思っていなかった……!)


別に王子に前線に立って戦ってほしいとお願いしているわけではない。

たった一言、軍の上層部に伝えてくれるだけで何千何万もの人の命が救われるかもしれないのだ。

キャラの性格がもし想定外だったとしてもジェシカに良いところをみせられるなら十分に食いついてくると思ったのにまさか攻略対象が四人もいて1人も食いついてこないとは。


「……これを未然に防げばまず間違いなく手柄になるでしょう。民もアレック殿下のことを讃え……」


「だからそれがどうした?」


「それがって……民心が上がればこの国ももっと……」


補足説明をする俺にアレック王子が目を細める。

そして切り出されたのは今までで一番残酷な言葉だった。


「平民風情が国を語るな。まず俺は手柄など必要としていない。俺は生まれながらに次期国王でありこれが揺らぐことはない。そして平民風情が何人死のうが俺の知ったことではないのだ」


あまりに残酷。

将来国のトップに立つ男の言葉だととても信じたくはなかった。

膝から崩れ落ちる俺にロリーが口を近づけてくる。


「まあ平民なんて僕達とはもはや人間と猿の雑種みたいなものだからねぇ。僕達の視界に入るだけで恐れ多いんだ。民草とはよく言ったものだよ。代えの聞かない僕達の尊い命と違っていくらでも代えの効く雑草みたいにいくらでも湧いてくるんだから」


まるで小学生のような幼い見た目の男子からこんな言葉が発せられる現実に俺は目を背けたくなった。

しかし追撃は止まらない。


「おい、平民。貴様王子殿下の眼前で視線をそらすなど万死に値する。今ここで俺がぶっ殺してやろうか」


「落ち着いてよ、ロブ。彼は平民だから頭に脳みそが詰まってないんだよ。こうして正しい道に優しく導いてあげるのもまた貴族の役目だよ」


地に手をつく俺の頭上でロブ=カウルズとケネス=ウォーレンが好き放題に言う。

一人だけじゃない。

全員が全員頭のネジが何本も飛んでいるとしか思えない。


「そういうことだ。二度と俺達とジェシカの前に現れるな。次現れれば……そのときはわかっているな?」


そう言ってアレックは背を向け歩き出す。

他の攻略対象たちも同じように背を向け不愉快な笑い声を上げ去っていった。


俺は1人この場に取り残される。

体が鉛のように重く持ち上がらない。


「ふふふ……」


乾いた笑みしか出てこない。

およそ10年もの年月を努力に費やしたにも関わらずあっさりとたった一週間で全てを打ち砕かれた……からではない。


「ふふふ……ふははは……」


湧いてくるのはただただ怒り。

無理にでも笑わなければ怒りの炎がその身を焼いてしまいそうなほど熱く燃えたぎる怒りの炎が心で燃え盛っていた。


(あんなクズどもがマジロマの世界にいた……だって……?)


あまつさえそれは悪役ではなく乙女ゲーにおいて一番大切とも言える攻略対象たちだ。

こんなことがあっていいはずがない。

マジロマは俺が敬愛し、生前ずっと追いかけ続けた最高のプロデューサーが主導となって作り出した伝説の名作だ。

それを……あいつらが!


「くくく……ふはははは!!!!あははははははははは!!!!!!!」


許せない。

最高のゲームを最悪な形で穢されたのだ。

こんなことが許せるはずがない。


「あー……そうだ……ぶっ壊してしまおう。全部、全部」


こんな悪しき者が中心人物となったゲーム世界はマジロマではない。

ただの駄作のパクリクソゲーだ。

()()()()()()()()

いや、()()()()()()()()()()()


「待ってろよ……この世界……今から俺がこの世界の全てを壊し俺の大切な人が笑顔で暮らせる理想の世界へと創り変える……!それまで精々首でも洗っておけ」


それは人知らず行われたこの世界に対する魔王以上の明確な悪意に包まれた宣戦布告。

この世界に断固として否を突きつける絶対悪が登場した瞬間だった──

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