人間非失格⑥
遅くなって申し訳ございません
人間非失格はここで終わりです
神は俺のことをちゃんと見ながら話を再開する。
―――――――――――...........我が其方と話している理由を説明しよう。だが、それを説明するためには我が忌々しき運命について説明しなければならない。実はな、我にはある社を破壊されると”とある者に弑される其方”という運命にあるのだ。だが不運なことにこの運命は神である我の全力をもってしても破ることができないものなのだ。だから我はその社の破壊を防いでいるのだ。しかし、ここで不運な偶然が発生する。それは―――――――――其方の存在の発生だ。いや正確に言えば其方に宿っている運命が不運な偶然の発生だな。其方は自覚していないと思うが、実は其方には”今日ここで死ぬ”以外にもう一つ運命があるのだ。そしてその運命は内容だが”其方がとある社を破壊する”というのものなのだ。社を破壊する運命をもつ生命は数は少ないが全く存在しないわけではない。そのため、別に特別な運命をもった生命というわけではないのだ。しかし、其方の場合は別だ。少なくとも我にとってはな。全く最悪なことに今、其方が破壊しようとしているその社は我が弑される原因となる社なのだ。つまり其方は自身の命を代償に我が死ぬ原因をつくる運命が与えられた存在だったのだよ。だから我は貴様と話をして、無力感を与えて絶望させることで貴様の我が社を破壊するという運命を捻じ曲げようとしたのだ。それが其方と話をした理由だ。だが、やはり運命だからなのか思いの外、其方の我が宮への攻撃を我は阻止することができなかった。
[ふーん。で、諦めるのか?]
あっそ。で、なんなの?俺はまだ神が”社”と呼んでいるボロボロの神棚を破壊するつもりだ。別に神が俺のことをちゃんと見始めたからって「光栄だ!」とか「ありがたい!」とかそういうことは一切感じていない。謝ったからって俺は許すつもりはない。対価を払え!対価を!それが誠意ってもんだろ?
え?神が謝っただろって?おいおいそれがなにになるんだよ?俺は死ぬんだぜ?俺は許さないぜ。神が謝ったからって俺が死ぬっていう事実は変わらないからね。だから破壊をやめるつもりはない。むしろ俄然ぶっ壊したいっていう気持ちが大きくなっている。
俺が神棚をぶっ壊したせいで目の前の”運命、運命”ってほざいていた神が後の運命で苦しむ顔を想像すると非常に清々しい気分になるからね。それに天国で神が俺に謝ったって自慢できる。うん!最高だ!別に諦めてもいいんだよ糞Godちゃん♡
―――――――――――いいや、趣向を変える。”鈴木凱人”よ、我と
取引
をしないか?実は其方が死ぬという運命は我の力をもってすれば変えることが出来るのだ。これをすれば連動して其方の我が社を破壊するという運命を破壊することが出来る。しかしそれはその場しのぎでしかない。其方は人間という生命であるため運命ではなく意志で我が社を破壊することが出来る。
だから、約束をしてくれないか?””我が社を破壊することを止める”と。
そうすれば――――――
その代わり我が其方を過去へ巻き戻してここで死ぬという運命を捻じ曲げてやる。だが運命を捻じ曲げるときに代償が必要になる。それがいかなるものになるのか、それは不明だ。いつまで巻き戻るのかも不明だ。しかし必ず、ここで死ぬという運命を捻じ曲げてやる。さて、どうだろうか?
ちゃんとした対価を示してきた。どうやらふざけているわけではないようだ。奴の音からは真剣さを感じる。奴は神だ。多分過去へ巻き戻すことも可能なのだろう。……死なない、しかしその代わり”代償”を支払う必要がある。しかもその代償がなんなのかもわからない。不確定要素が多いし、デメリットがデカい。..................でも...........................................それでも..............
まだ死にたくないよな。
そりゃあ生きたい。死ねばこの”清々しさという感情”をもう二度と感じられない気がする。生きていればきっとまたこの清々しさを感じられる。まだ生きているうちにやりたいことだってある。けれど..................................どうしても気になることがある。
[約束してどうする?神であるお前は知ってんじゃないのか?人間は約束をしても破ってしまう生命だって]
俺は知っている。別に俺に限った話じゃない。男でも女でも子供でも大人でも日本人でも外国人でも、そしていつの時代でも人間は約束を破る。例えば第二次世界大戦ではソ連は日本との相互の不侵略を約束した条約日ソ中立条約を結んだのにそれをいとも平然と破って第二次世界大戦に参戦したのだ。大人の都合とか理由があったのかもしてないが、それでも約束を破ったのは事実だ。
俺が言いたいのはきっかけさえあればどんな人間でも約束を破るということだ。
―――――――――――そうだな知っている。だが我は確信している。其方はこの約束を破らないと。
[なぜ?]
―――――――――――貴様はそういう人間だからだ。
買いかぶり過ぎだ。
[人間はきっかけさえあれば約束を破るぞ。俺も破るかもしれないぜ]
―――――――――――大丈夫だ。我は確信している。なぜなら我は神だからだ。
理由になっていない。だが納得している自分がいる。
[あっそ。じゃあ約束してあげる。俺はまだ生きていたいからね。]
―――――――――――感謝する。
俺はまだ生きていたい。だがしかし........................................................................................
過去へ巻き戻るんだよな......................
ならば、聞かねばならないことがある。
[……なあ一つ聞きたいんだが、過去へ巻き戻す際に俺の願いを叶えてもらうことってできるのか?]
――――――願い事か、………可能だ。しかし叶えるには、巻き戻すときとは別の更なる代償を支払う必要がある。そしてその代償もなにになるかは不明だ。データが少ないため確証性が低いが恐らくその願いが大きければ大きいほど代償は大きくなると考えられる。それでもいいか?
質問してよかった。どうやら代償があるが願い事を叶えてもらうことは出来るようだ。俺には過去に巻き戻るのならどうしても叶えてほしいものがある。他人からはくだらないと思われ、ずっとそうなればいいと思っていたが現実はそうならなかった愚かな願い事だった。
そんなことが叶うのはアニメや小説のような創作物のなかでしかないと思っていた。だが叶えられる可能性が目の前にある。短くてもいい。1日だけでもいい。それが叶うのなら、それさえ叶うのなら俺はどんな代償だって受け入れる覚悟がある!だから――――――
[ああ、かまわない!取引を了承しようではないか。よって、これより俺、”鈴木凱人”は”神”と取引を行う。内容は「俺が神棚の破壊を中止及び我が幾ばくかの代償を払う。代わりに”神”が俺を過去に巻き戻し、我が”死”の運命を捻じ曲げる」だ!そして..............................”神”よ!!我が幾ばくかの代償を担保に我が願い叶え給え!我が”願い事”それは―――――だ!]
――――――ふむ、おもしろい願い事だな。いいだろう!取引成立だ。では、これより、君を過去へと巻き戻す。貴様の人生に幸あらんことを。
脳裏に映っている目と鼻の先にあったはずの尖った岩から身体が離れて遠くなっていくのがわかる。どうやら本当に過去へ巻き戻っているのだろう。俺の願い事は多分、人によっては”ちょっとした願い事”にも”大きな代償”にも成り得る願い事だ。
まあだが、代償を払っても多分、そこまで大きな代償を払うことはないだろう。生きてりゃ何とかなるはずだし、”過去へ巻き戻る”ってことは少なくとも老いることはないはずだ。1日巻き戻るだけだとしても十代ってことには変わりないし問題ないだろう。
待っていろよ俺の第二の人生!!
――――――ああ、そうだ……伝え忘れていたが、其方の四肢と胸を貫通している針、それには対象の記憶を吸い取りそれを蓄積する力があるため、過去へ巻き戻った時にお前は記憶がなくなった状態になる。もし記憶を取り戻したかったら針を見つけて針先を体のどこかにブッ刺してみろ。そうすれば、前世の記憶がなかったときの仮の記憶が消滅して、その代わりに前世の記憶を思い出すことができるだろう。記憶は針1本で思い出すことが出来るから、残りの4本は好きなように使ってくれればいい。ではな!
[..............................え……おい!待て!そんなこと聞いてないぞ!記憶がなくなったら針のことを思い出せないだろ!あ……あれ?お、俺って.............誰だ?や、やばい………き、記憶がーーーーー………]
であった。
俺は意識を失った。
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目が覚める。
意識が覚醒していく。
それと同時にひどい頭痛を感じる。
どうやら俺は気絶していたようだ。
そして俺は先ほどまでの神との会話とこれまでの記憶を思い出した。どうやら過去へ巻き戻ったようだ。
..............................、糞Godめ!!!そういうことは最初に伝えとけや!!
言いたいことはたくさんあるが取り敢えず現状を把握するために辺りを見回す。………しかし...................... え?
右手に痛みを感じた。見てみると右手には手首を削ったことで出来た深めのリストカットした傷跡ができている。血がたくさん出血している。そして左手には妖しい紋様が刻まれた針が握られていた。どうやらこの針で傷つけたようだ。これにより俺は記憶を取り戻したのだろう。だが、
「なんで俺はリストカットをしたんだ?...............................................................................え?なに?この声?」
妙に甲高く素っ頓狂で、しかし透き通った声がその場に鳴り響いのであった。