第六話
「はい、これお水ね。重いと思うけど砂漠を歩くから喉渇くと思うし二本入れておくね。あとこれはサンドウィッチ。お腹すいたら食べてね。今朝採れたトマトとレタスが入ってるから美味しいよ!」
「今日は風が弱いから大丈夫だと思うけど突然の強風に襲われたら大変だからこれ着て行って。鼻と口元守れるしフードで頭も守れるよ。」
と軽食や水を用意するクラとローブのようなものを着せてくれるクリに上京や親元離れる子はこんな感じなんだろうかと思った。
「何から何までありがとう。元の世界に帰る前にまた会えたら嬉しい。」
というとニコニコと笑って送り出してくれた。
フニはというと森の出口まで付き添ってくれるらしい。肩を並べながら歩くと他の小鬼達も木苺やブラックベリー、おにぎりなどをくれて手持ちのバッグはいっぱいになっていた。
「ここの小鬼達はみんな優しいね。」
「助け合って生きてるからな。それは人間も鬼も変わんねえだろ。
…なあ、お前変なことしようとしてねえだろうな?」
と言われ昨晩のことだろうと思い、知らぬふりをした。そんな私を見てフニは軽くため息をつくもののもうこの話題に触れることはしなかった。
山を降りながらフニに聞きたいことをいくつか聞いてみることにした。
「フニはヴァレンタイン王国のこと何か知ってる?」
「そりゃあこの世界で一番でかい国だからな。
チョコレートが特産で、まあなんだ、他の国より色ボケしてるというかなんというか。特にあそこの女王様は飛び抜けてる。最初はびっくりするだろうよ。」
ヴァレンタイン王国という国名から察してはいたがやはりバレンタインデーに関係あるらしい。あんなもの製菓会社の策略みたいなものだと思っていたのに。ふと、この世界に来るきっかけになった図書室の浮かれた雰囲気を思い出し、歩む足が重く感じた。
小鬼達の集落から森の出口は案外近く、目の前に茶色の砂漠が見えた。
「ここがココア砂漠だ。ここからでも見えるがポツポツと小さな街はいくつかあるけどヴァレンタイン王国は…」
言われなくても分かる。砂漠の真ん中に他の街とは比べ物にならないくらいでかい城壁。このくらいでかい方が分かりやすくていい。
「他の街に寄りながらでもいいしまっすぐヴァレンタイン王国に向かうのもいいだろ。俺はまっすぐ向かうのをおすすめする。今日は風が穏やかだけどいつ強風になってもおかしくない。」
「分かった。フニ、ここまで着いてきてくれてありがとう。お世話になりました。」
「おう、気をつけてな。」
と手をヒラヒラと振りながら来た道を戻ろうとして、あ、と振り向いた。
「俺らのこと、本当に気にするなよ。」
「気になって元の世界に帰るに帰れないからやるだけやってみるよ。駄目そうだったら諦める。危険なことは多分しない。」
「多分じゃなくてしないでくれ。俺がクリとクラに怒られる。」
恐らく納得してないだろう顔をしてじゃあなと今度こそ来た道を戻って行った。
それを確認して私もココア砂漠へと足を踏み出した。