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二月の旅  作者: 飴水
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第二話

私は所詮本の虫。検問所から意気揚々と歩き出したは良いものの運動不足、体力の皆無さから何度目か分からない休憩をしていた。足も痛む。

でも検問所からは数キロは歩いただろう。


それにしても喉が渇いて仕方がない。

お爺さんの話だと川があるはず。この際衛生面とか気にしてられるか。異世界に飛ばされて水分不足で死ぬなんて無様な死に方だけは避けたい。

という願いが通じたのか遠くに橋が見え、足の痛さも忘れ思わず走り出した。


「み、水っ!!」


と川を見てぎょっとした。

ブルーハワイのシロップのような鮮やかな青に川底の石は金色に輝く星型、泳ぐ魚は金色に素早く泳ぎ、まるで流れ星だ。

看板には水瓶座川と書いてある。星座の川ときたか。橋の右反対は魚座川になっていて、色が群青色になっていてあとは同じ金色の星型の石と泳ぐ流れ星だった。

はたしてこれは飲んでも良いものなのかと悩んでいると青年が釣りをしていることに気がついた。


「あの、それ釣っても大丈夫なんですか?」


「おやもしかしてあちらの世界から来たのかい?

僕は神様の仕事で釣ってるんだよ。」


「神様の仕事?」


「あちらの世界では流れ星に願いをすると願いが叶うって話があるだろう?

それを釣って神様に届けるのが僕の仕事さ。」


彼のバケツを見てみると流れ星の魚がたくさんすいすいと泳いでいた。


「神様って大変なんですね。こんな大量の願いを叶えてやるなんて。」


「あっはっは!叶えてやるとは少し違うんだよ。

まず神様は人に干渉しすぎてはならない、これが鉄則なんだ。神様が与えるのはチャンスだけ。

それを叶えるかはその人自身なんだよね。


例えば好きな人と結ばれますようにだったらその好きな人と二人きりでいる時間を作ってやるとか、

お金持ちになりたいっていう願いだったら臨時ボーナスのチャンスだったり宝くじ買えるくらいのお金が臨時収入で入れるようにしたりとか。

そのチャンスを自分で無駄にして願いが叶わなかった、神様なんていないって嘆いたりするんだよね。」


宝くじは流石に運だろと言いそうになり言葉を飲み込んだ。

穏やかな声と口調だが話す内容はドライだ。

しかし言い得て妙とはこのことだろうなと思った。なんでもかんでもそう簡単に叶ってしまったら生きるのにそう苦労しないもんだ。

納得したところで彼はちらりとこちらを見て


「でも先程ちゃんとチャンスを掴んで、想い人に何らかの影響与えたのを確認したんだよ。」


にこやかな笑顔を見るになんだかんだこの仕事が好きそうに思えた。


「良かったですね。」


「ところですごい勢いで走ってきて水!って言ってたけど飲まなくていいのかい?」


と言われハッとした。

そうだ、私は喉が渇いていたはずだ。しかしこの川の水を飲んでいいのかいまいち分からない。私の世界の夜空のようなものだろう。

恐る恐る川を指差し、


「これ、飲んでも平気ですか?」


「問題ないよ。ただの水だからね。」


こんな鮮やかな青色をしているのにただの水なのか。なんだか脳が不具合を起こしそうだ、と手で水をすくって口をつけた。


「…これ本当にただの水ですか?」


「"僕らの世界では"ただの水だね。」


ソーダ味の駄菓子の様な味だ。炭酸は無い。

甘さと爽やかさで少し面食らってしまった。

そっちも飲んでごらん、と魚座川の方を指差され恐る恐る手ですくい口をつけるとブルーベリーの味がした。

甘くて美味しいが喉の乾いた今の状態では逆に喉が渇くような気がして飲むのをやめた。

目の前は森だ。井戸かなにか普通の水があればそれでいい。でもこの世界の普通が私にとって普通じゃない以上水ではない可能性もあるが行ってみないことには変わらないと思い立ち上がった。


「お仕事頑張ってください。私はそろそろ行きますね。」


「どこに向かうんだい?」


「この森を抜けてヴァレンタイン王国まで。」


「そっか。大丈夫だとは思うけれどこの森には小鬼達が住み着いているから気をつけて。」


へっ!?と素っ頓狂な声が出たが青年はそれにクスクスと笑うだけで笑顔で送り出した。

小鬼が住み着く森を私は無事に通り抜けられるだろうか。

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