盗人リリィ
「ハァッ、ハァッ、ハァッ…!」
街の裏路地を一人の少女が駆ける。
その懐には異国の模様が刻まれた槍の穂先があった。
「ッ…!これが…!」
歯を食いしばり、涙を浮かべながらその穂先を見つめる。
「見つけたぞ!!盗人リリィ!!」
「ッ!?」
リリィと呼ばれるその少女の周りにはいつの間にか剣を背負った複数人の男達に囲まれていた。
「義賊などと持て囃されているが所詮は盗人…」
「これまでに及んだ国への被害はもはや投獄ではすまないぞ…」
男達はリリィにジリジリと近づき、剣を抜く。
「その命をもって償えッ!」
そう叫び、男達が一斉に斬りかからんとするその瞬間─
「待ちなァ!」
男の声が裏路地に響く。
思わず動きを止めてしまった男達とその少女の間に声の主が割って入る。
その男は口元を隠すように長い布を首に巻き付け、頭には藁で編んだ被り物をしていた。身体は肌を隠すように白い布で覆われており、その腰には見慣れぬ細い剣のようなものが据えられていた。
さらにその剣にはリリィが盗み出した穂先と同じ模様が刻まれており、リリィは目を見張った。
「なんだ貴様は!」
男達の一人がその声の主に問いかける。
ニヤリと口元が歪み、口を開いた。
「事情は知らねーが…小娘一人に大の大人達が寄って集ってそんな物騒なモン向けてよォ…」
被り物と黒髪から覗く紅い瞳が睨みつける。
その男から発せられる異様な覇気に剣を構えていた男達は息を呑む。
「盛ってんなら俺が相手になるぜ?来いよ…」
ドスをきかせながら男は腰の細い剣に手を伸ばす。
─が、そこに剣は無かった。先程までしっかりと腰に据えられていた剣が。
「…アレ?」
困惑し後ろを振り返ると、自分がかばった少女が、自分の剣を抱え走り去る姿が見えた。
「あっ、あの!ホントごめんなさい!!助けてくれてありがとうございます!!さようなら!!!」
そう言い残しリリィは遠く、小さくなっていく。
「え゛え゛え゛え゛!?おかしくねェ!?何で?意味わかんない!!」
情けなく叫ぶその男はさっきまでの威勢を感じられない。
ゾクリ─
背後から鋭い複数の視線が男の背中を刺す。
微笑みにも似た引き攣った顔をしながら剣を構えていた男達の方を見る。
「…盗人の逃亡を手助けした罪だ、捕らえるぞ」
「ああ…」
男は成す術なく、身柄を拘束された。