おとぎ話
「─かくしてドラキュラと名乗るそのヴァンパイアは、一人の愛した女性のために一つの国を滅ぼしてしまいました…おしまい。」
パタンと本を閉じ、そのおとぎ話を読んでいた父親は娘にやさしく微笑みかける。
「リリィにはまだ早かったかな?ハハハ」
そう言いながら父親は、リリィと呼ばれる娘の頭をそっと撫でた。
「うん!!!!!よくわかんなかった!!!!!!」
「アッ…うん…リリィは正直でいいね…」
リリィは元気よく答えた。父親はすこし落ち込んだ。
「でも、そのどらきゅらさんは、すきなおんなのひとのために、おうさまをやっつけたんだよね?」
「そうだね、他の国の人達はこのおはなしをこわ〜いおはなしとしているんだよ。自分勝手な魔族の男の人がみんなの住んでる街とかいろんな物を壊しちゃうからね。」
まだ小さな娘にも伝わるように少し噛み砕いた表現で父親は語る。
すこし考えたような素振りを見せたあとリリィは、
「リリィ、どらきゅらさんすき!」
と目を輝かせながら答えた。
「ん?どうしてだい?」
「リリィはおうさまきらいだから、どらきゅらさんにやっつけてほしい!」
その言葉を聞いた父親は一瞬寂しそうな顔をしたあと、すぐにまたやさしく微笑んだ。
「…そうだね、おとうさんとリリィの所にもドラキュラさんがきてくれるといいね…」