キャッチ
渇き。渇きを消したい。
欲望が渦巻く。耽溺したいと思うのは人の性だ。防ぎようもない。
俺は社会から疎外されてきた。
新卒ですぐにクビとなり、しばらくは家に引きこもった。リハビリに二次元の恋人たちと愛に満ちた生活を送るも、親にハロワへと叩き出された。
生きていることに意味は感じない。だが、だからと言って死ぬ気にもならない。退屈な人生。それをすり減らせるために毎日を送っている。
歌舞伎町。夜の街。何人もの人間が欲望に溺れ、ホストが時々刺される場所。
職業、イケメンと書いた看板が目の前にある。
――職業、自宅警備員。
人は俺をニートと呼ぶ。知ったことか。解釈の違いに過ぎない。世間の目など気にしたことがない。どちらにせよ社会は俺を嫌っている。
それでも一夜の恋人となればほんの数時間でも俺を人間として扱ってくれる。その時だけ、ほんの少しだけ渇きが癒える。
夜の街。派手なネオンが、ガラの悪い蝶みたいに威嚇色を放っている。恐れはしない。俺は恐怖とは無縁の男。踏み出す。その先に楽園がある。俺はすべて知っている。
夜の街。あちこちに立つキャッチの男たち。
奴らは金ヅルを探している。だが違う。
――喰われるのはおまいらの方だ。
脳裡に響く名言は、決して音声となって届くことはない。
いずれにしても彼らにコンタクトをしないと話は進まない。ゲームと同じ。キーパーソンは変えられない。俺は彼らの一人に声をかけた。
「あ、お兄さん、どこかヌキのお店でもお探しですか」
「ああ、とびきりカワイイ娘のいる店をな」
「ああ、それならいくつも知ってますよ。ヘルスでいいですか?」
無言で頷く。男は半笑いのままスマホで店に連絡を取った。
「ちょうど空いているみたいです。付いてきて下さい」
沈黙を保ちつつ、キャッチの後をついていく。
――さあ、待っていろよ。
誰にも聞かれない独白。音声の粒子は世闇へと溶けていく。
これから俺のマグナムが大暴れする。