歌舞伎町の夜
鬱屈。情動。抑えきれずに家を出る。深夜の一番街。東京の真ん中にある、夜の住人たちが跋扈する歓楽街。
大久保公園。立ちんぼが並ぶ。値踏みする視線。お互いを鼻で嗤い合う。
「ブス」
心の声が漏れる。バケモノがいきり立つ。深夜のエリミネーター。夜の街を全力で駆ける。エミリーに追いつかれる前に去らなければ。危険な街。ここではいくら命があっても足りない。
そう、ここは歌舞伎町。ヤバい奴らが多過ぎる。
しばらく走り続け、イラン人の自転車に轢かれそうになって止まる。こみ上げる吐き気。知らぬ間に体力が限界になっていた。
夜道で息を切らせる。エミリーは撒いた。危うく殺されるところだった。早く酒が呑みたい。
夜の街。あちこちにヤバい奴らがたむろしている。俺はこれから奴らをかわしつつ、ひとときの快楽に溺れる。
ここは危険だ。だが、どこに行っても俺の居場所はない。仕事では年下の男に「本当につかえねえな」とため息をつかれ、本当はバケモノのくせに厚化粧で美人のフリをした女から害虫でも眺めるかのような視線を送られる。
何も心配事がなく生きていけるというのは幸せなことだ。俺のレベルまで来ると、息をしていることですらひどく大儀な仕事に思える。
そう、ここは行き先の無くなった者たちが辿り着く終着駅。俺も他の駅に留まれなかっただけの話だ。
「行こうか」
油断すればまたエミリーに追いつかれる。俺は夜の街へと足を踏み入れた。