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なろうラジオ大賞5

帽子の力は二度発揮する

 野球は九回ツーアウトからなんて言うが、守備側からしたらたまったものでは無い。


 今まさに僕がそんな状況に置かれていた。


 夏の甲子園予選の県大会決勝、九回の裏ツーアウトランナー無し、3対1でリードしている。マウンド上の僕を含めベンチも応援席も勝ちを意識しただろう。

 それがいけなかった。次のバッターに甘く入ったストレートを捉えられてしまう。フェンス直撃のスリーベースヒット。


「バッター勝負」

 キャッチャーが檄を飛ばしてくる。僕は帽子のつばを見た。大きく七転八倒と書いてある。


 これは、僕の彼女が書いてくれたものだ。七転び八起き的な気持ちで書いたのだろうが、意味的には逆だろう。

「ばか! 早く言ってよ」

 不満顔の僕が逆に怒られた。そしてすぐに彼女は小さく九勝と書き加える。曰く、七回八回と駄目でも九回で勝てば良い。


 そんな事を思い出して、少し噴いてしまう。お陰で無駄な力みが抜けた。


 次のバッターは、スライダーを引っ掛けさせてセカンドゴロに打ち取る。

「終わった」

 ほっとした。その僕の耳に左右から真逆の騒音が飛び込む。悲鳴と歓声だ。送球が逸れてファーストが何とか飛びついて捕球はしたものの、ベースからは離れてしまっていた。バッターはその隙に駆け抜け、一塁はセーフ。サードランナーもツーアウトなのでホームへ突っ込んでいるので1点返されて3対2となる。


 攻撃側は大盛り上がりだ。ツーアウトランナー一塁バッターは県大会で7ホーマーの4番打者である。ホームランで逆転サヨナラの場面である。


 タイムが掛かり、ベンチから伝令が来た。監督からは勝負か敬遠かは僕らで決めて良いとの事だ。迷う僕を他所に、みんなは迷い無く勝負を選びポジションへと笑顔で戻って行く。馬鹿ばっかりだ。


 勝負が延いては甲子園が僕の双肩にのしかかる。途端に腕が重くなった。確かに疲労もあるが、それだけではない。コントロールが定まらずに、ポンポンポンとボールが続く。会場は敬遠かとがっかりムード。だが、バッターは獲物を狙う目のままだ。このスリーボールがどれも勝負をする球だと感じ取っていたのかもしれない。


 僕は帽子を取ると、中を見つめる。腕の重さが無くなった。


 渾身のストレートをジャストミートされる。勢いよく飛んだボールは僕目掛けて向かって来きた。倒れ込んだ僕の帽子が空へと舞い上がる。


 グラブを高々と掲げる。白球が収まっていた。空に舞う帽子の中には『ばか』と書かれていたのだった。

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