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23企画参加作品

金魚のパスワード

作者: 御田文人

「困ったな」

 エヌ氏は腕組みをした。ちょうどそこに彼の妻が通りかかる。

「なぁ。金魚に餌をあげたいんだけどさ」

「あげればいいじゃない」

「パスワード忘れたんだ」

 そう言ってエヌ氏は餌の箱を差し出した。セキュリティが徹底された未来は、何をするにもパスワードがいる。

 つい先日も、暖炉をつけるパスワードを忘れて、凍える思いをした。

 昨日はたまごのパックのパスワードを忘れて、コクのないパンケーキを食べるはめになった。


「なんだっけ?だから書いて貼っておけとあれほど」

「それじゃパスワードの意味ないだろ」

「金魚の餌のセキュリティが脆弱で何が困るのよ」

「困るだろ!」

「だから何が?具体的に言ってよ!」

「例えば・・・」

「例えば?」

 エヌ氏は憮然として腕組みをした。


「例えばスパイがウチに来たとするだろ」

「いや、設定がおかしい」

「可能性はゼロじゃないだろ!」

「まぁ、いいわ。で、スパイが金魚に餌をあげるの?ありがたいじゃない」

「そんなことするか!スパイを舐めるな!」

「う、うん。。で?」

「金魚の餌の残量をチェックする。そして、その情報を闇ルートに売るんだ。そうしたら餌が無くなる頃に闇ルートから広告がじゃんじゃん入るだろ」

「便利じゃない。その闇ルート。そのまま通販もしてくれそうだし」

「闇ルートを舐めるな!」

「何よ?」

「通販する場合は送料が別途かかる!しかも、そのことは、すっごく小さい文字でしか書いてないんだ!」

「・・・うん。もういいわ」

 そう言うと彼女は携帯を取り出した。


「どうするんだ?」

「新しいの買うわよ。もったいないけど、しょうがない。スパイに困る前に、今現在お腹を空かせた金魚が困ってるんだから」

「届くまでに時間かかるだろ」

 エヌ氏は不満顔だ。バスワードを貼らなかった為に発生した損失を認めたくないのだ。

「A社なら1時間で届きます」

「送料かかるだろ」

「A社は無料です」

「実はちっちゃい字で送料書いて・・」

「無い!うるさいな!」

 彼女が睨む。少し本気で怒り始めたようだ。


「通販のパスワードは覚えてるんだな」

 エヌ氏はシュンとしつつも不貞腐れた。

「おあいにく様、私が覚えなくてもアプリに記憶させてます。あっ!」

「どうした?」

「パスワード更新しろだって。旧パスワードと新パスワードを入れてくださいか・・・」

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― 新着の感想 ―
[良い点] エヌ氏と奥様、ボケとツッコミの関係が見事に成立してますね。 ここまで細かいタイプだと男性が捨てられるケースが多いのに(知り合いに実例が……)奥様が呆れつつもツッコんでくれる辺り、愛を感じ…
[良い点] 確かにセキュリティ対策は大切ですが、何をするにしてもパスワードが必要になってくるとは何とも厄介ですね。 それにしても、エヌ氏が想定する金魚のパスワードが流出した場合に起こり得るトラブルの事…
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