《No.06 : epilogue》
季節は移りゆく。この工房に来て十一年が経ち、一人の悲しげな少年が明るい太陽のような青年に成長する過程を見てきた。そしてこれからも見ていくつもりだ。
それが私の使命、マスターを愛するということ。
「猫ノ手技水工房」の商品は動植物を模している。その品番も動植物の名前を意味しており、動物型はAシリーズ、植物型はPシリーズ、昆虫型はIシリーズ、さらにそれぞれに細かい区分がありAシリーズはその動物の食性によって三種類に分類される。肉食、草食、雑食それぞれC、H、Oとなる。昆虫型も同様に肉食、草食、雑食で分けることが出来、植物型のPシリーズは二種類に区別される。木を模したものがW、草花を模したものがGとなる。その後の文字列はその動植物の和名をローマ字読みし、モデルが「カナリア」であれば「Kanaria」そして品番は「k1n1r2a」となる。そんな事を何気なく考えていると入店のベルが鳴る。
私は今日もお客様を大切な私だけの声でお迎えする。
品番「AH-k1n1r2a」
通称「カナリア」
その擬似声帯が私の声、大切なマスターから貰った宝物だ。
「マスター、オ客様です」
今日も私は愛しきマスターを呼ぶ。