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2/23

2/曇り後晴れ

俺と安西さんがその後どうしたかといえば、まあ取り敢えずの友好関係を結んだ後俺から帰りますか。と提案。


親睦を深める意味でも何処かへ寄り道してもいい。


彼女にそう持ち掛けるとあっさり承諾してきた。


ガードが固そうに見えて実はそうでもないのかも。


第一印象とのギャップを見付けていくのが面白い。安西奏という人間がベールを脱いでいくように。


「君小説とか読んだりする人?」


とっさに聞かれた。俺の中身を安西さんも知りたがっている。


お互いに知り合おう。それでこそ知り合いになれる。そんな気がした。


「小説?生憎だけど、活字を長時間見続けられない人なんだ俺」

正直に告白。


ここで嘘ついて自分を良く見せても俺は気持ち良くない。


後腐れが残りそれ以外には何もない。安西さんとの人間関係を100%楽しめないと思う。


だからそのままに、有りのままを答えた。


意外そうな顔をされてしまった。


「へえ。君って電車に乗ってる時間にポケットから文庫本出して暇潰す人っぽかったから。・・・・・・それは意外」


そういわれましても・・・・・・。こちらとしてはどうしようもないのである。


趣味趣向は人それぞれでいい。人それぞれだからこそいろんな人間がいる。それが普通。


「俺ってそう見える?言われたことないけど」


言ってくれる友達とかもいないけど。


だからこそ安西さんとの関係には意味があると思う。新発見の連続だ。


意を決して話し掛けた甲斐があるというもの。


「見えるね。折角なんだから、ホントに読む人になればいいよ。私も友達に薦められてから気付いたけど読書は良いよ。自分が高尚な人間かのように錯覚できるからね。例えばさあ、図書館でオシトヤかに本読んでるとさ周りの大人達は思うんだよ。なんて勉強熱心な模範的な学生なんだろうってね。案外良い気分になれるよ。そんな優越に浸れるだけで。優越感を感じられるだけでその価値はあると私は思うね。どうかな?私を少しは見損なったかな?」


意外なのは君の方じゃないのか。


誰からも好かれて友達も多い、人気者になる為の努力を人一倍積み重ねている彼女からそんな言葉がでるなんて。


たまには気を許したくなるときもあるのかもしれない。俺の前でそれをしてくれたのには素直に嬉しい。


俺以外の人には見せたくない優越感。欲望に忠実な優越感。


なんて図々しいのだろう。俺はまた一つ自分を嫌いになってみた。


「うーん。何度か試してみたことはあるんだけど。途中で何もかもどうでもよくなって、続かないんだよ。文字の厚みが意識を揺さぶってくる感じ?とにかく耐えられない」


「まあ向き不向きはあるからね」


俺には向いていなくても彼女には合っているのだろう。彼女が持っていて俺にはないもの。


羨ましいわけじゃ別になく、割りきれているならそれは気にはならない。俺は平気で容赦なく割りきれる。


駅前の喫茶店に二人で入店し、些細な会話を交えている。


女子高生と一緒にこんな風にお喋りができるとは思っていなかった。


それもあの安西奏とだぜ。誇りに思っていい筈だ。


どんな形でさえ彼女と二人きり。邪魔者もいない。


二人だけで語り合っている。そのことを深く感じようとする。


「何よ。黙っちゃって。何か話題ふってよ。退屈するでしょ」

膨れっ面の彼女を見つめているのは俺だけなんだよな。すごくね?


「じゃあ定番・・・かどうか分かんないけど、恋人とかいるのか?」


真剣に全力でどうなんだ?


必死になっている俺。誰とでも親友のように接する彼女には特別な人がいるのか?

彼女にとっての唯一無二が。


「もう訊いちゃうんだ。そんなこと」


「・・・。」


不味かったのか?知り合って間もないのにあまりにも踏み込み過ぎたのか?


「まあ。いないんだけどね」


いないらしい。


それはつまり・・・今よりも歩み寄っても構わないということか。これ以上近付いてもいいってことか?


試されているような意思表示。始まったばかりの高校生活最後の一年をどんな思いで彼女と付き合っていけばいいんだ?


友人関係か。それとも・・・。


彼女の特別になれるのなら何だってする。


彼女にとっての唯一無二になれるのなら、彼女の全てを手に入れられるのなら、喜んで俺の全てを差し出そう。


大したものは持ってないけども。彼女に全てを委ねて、それから・・・。


彼女が、頼んだカフェオレをストローで吸うと、困惑しているような表情で言う。


「いないけれど・・・・・・、私は君がどんな人間性を持っているのか知りたいから、今はまだそれは待って欲しいな。私と君が出会ったのはついさっきのことなんだしさ。私達はお互いの外見だけをみてそんな軽はずみな決定を下しちゃダメだよ。そんなのきっと続かない。続かないよ」


今はまだやめようよ。そんな話。


俺は自分が恥ずかしくなった。


何も考えずに衝動的に一気に距離を縮めようとした俺に彼女は釘を刺したのだ。


そんなのダメだよと。二人の絆が薄くなると。分かった。


俺は考えを改めて、もう一度彼女に問い掛ける。


「悪い。俺は間違ってた。そこまで考えがいかなかった。安西さんがあまりにも眩しくて色んなこと忘れてた。許して欲しい。俺はそんな中身を自慢できるような人間ではないつもりだけど、そんな俺で良かったらこれからも一緒にいさせてくれないか?俺も安西さんの人間性が知りたいんだ。」

素直になって、気持ちを偽らずに有りのままをさらけ出した。


これが結構勇気のいる行為だって初めて知った。


俺はまたひとつ自分を好きになってみた。


「分かったよ。これからも宜しくね。こんな私でよければ、いくらでも教えてあげる。でも眩しいってのはちょっと照れるかな?」


「・・・・・・ごめん。なんか俺恥ずかしいこと言ってた?今のは全部忘れて・・・・・・。」


急に恥ずかしくなってきた。やべえ俺今何て言った。メチャクチャ痛くないか今の俺。最悪だ。


「そんなことないよ。カッコよかったよ。今のは私の心のノートに書き留めてお墓まで持っていくことにしよっと」


「やめてくれ。頼むからそれだけはやめろ。できれば忘れてくれないか。」


「もう遅いよ。この耳でちゃんと聞いちゃったもん。残念でした。」


からかわれている。けれどそんな馴れ馴れしいやり取りができる関係が始まったってことだろう。


「あとさ。安西さんってゆうのはやめない?なんかしっくりこないからさ。私のことは安西と呼び捨てにして欲しいな」


ああ名字ね。いきなり呼び捨てとか言われて動揺したけど名字を呼び捨てってさん付けとどっちが親しい感じなんだ?


近付いてるのか、離れているのか。


「じゃあ安西・・・・・・。明日また会ったら今日みたいに話し掛けていいか?」間を置かず彼女はこう返す。


「どうぞ。また教室で待ってます」


今日は良い日だ。天気も快晴。曇り後晴れ。見透しは良好。

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