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18/愛と憎しみと殺意と

私は二人みたいに彼女に語りかけることはできなかった。


目の前で崩れ落ちていた彼女に手を差し伸べることは、できなかったのである。


私はその一部始終をただ、傍観者のように静観していた。


二人の言葉に段々と生気を取り戻していく彼女。


孤高の絶対最強は、実は人並みの感情を持った、何処にでもいる一人の少女だったのだ。


それにしても、やはりそれでも一つの疑問。わからないことが一つ、ある。


そんな彼女が、自分を制御できなくなるまでの理由とは何だろう。


感情に身を任せ、我を忘れて暴走してしまう程に彼女を揺さぶった理由とは一体なんだろうか。


衝動的に暴力を行使した彼女の中では、どんな思考が渦巻いていたのだろう。


彼女は強い。だからこそ誰よりも自らを制御する術を、感情をコントロールする方法を知っていた筈なのに、そんな彼女を狂わせた原因はなんだろう。


少しだけ興味がある。だって、あれ程迄に強かった彼女が、誰にも弱さを見せなかった彼女が、あそこ迄滅茶苦茶になってしまうなんて、少し面白いじゃないか。


何だろうなあ? その理由、その原因、その要因は何だろうなあ?


ああ、自分は何を考えているのだろう。最低だ。人が一人苦しんで、苦しんで潰れそうになっているのを、あろうことか楽しんでいるなんて。


最悪だ。劣悪だ。こんなことでは彼女の側にいることは許されない。


彼女の友達でいる資格等無い。


でもカナデなら許してくれるよね? こんな救いようのない私でも、見捨てないでくれるよね?


カナデだけは私の味方でいてくれるよね。


カナデ、だけは、私を信じてくれる、……よね。


それにしても、……それにしても××君はすごいなあ。いいなあ。


カナデと同じ世界で、同じやり方で淡野さんを救い出すなんて、救うことができるなんて本当に羨ましい。


カナデ自身が暴力の的になり、カナデに冷静な判断を失わせたことが確かにあるとはいえ、彼は凄いと思う。


今迄ずっと独りだったんだよ彼は。私と同じで、ずっと独りだった筈なのにどうしてあんなことができたのだろう。


他人を理解できなかったのにどうして他人を救うことはできるの?


いや、違う。彼はいつ迄も過去の彼じゃない。孤独に付きまとわれ、振り切れなかった彼ではもうないのだ。


彼は成長した。安西奏という人間に触れていく内に、彼の中の何かが少しずつ変わっていったんだ。


安西奏にはそういう力がある。誰かを繋ぎ止める力を持ちながら、誰かを変える力も持っているんだ。


もう彼は私と似た者同士ではないのだ。


私なんかよりずっと上等で、私なんかよりずっと誰かの痛みが分かる人間なんだ。


はは。羨ましいな。本当に羨ましい。今、彼はカナデと同じ場所に立っている。


そしてカナデも、彼のことを認めている。


嫌いな人とは仲良くなれても、好きにはならないのがカナデだ。


どんなに自分と相性が悪くても仲良くはなれる。なれるけれど、好きになることは絶対にないのが彼女。


安西奏という人間の正体だ。


彼女はきっと彼を選ぶ。一つしか選べないときは彼を選ぶだろう。


他の誰でもない、私でも淡野さんでもない、彼を選ぶんだろうな、きっと。


まあ、女性の本当の幸せは、想い人と添い遂げることだから、……最終的には彼の唯一無二になるべくしてなるのだろう。


きっと彼女も、彼もそれを望んでいる。


私もそうなることを願っている。いる筈なのに、……なのに。


嗚呼、何だこれは……苦しいよ。こんなに胸が苦しいのは何でだろ。こんなに嫌な気持ちなのは何故だろう。こんなにも、こんなにも……憎いのはどうしてなんだろう。


嗚呼、嫌だなあ。彼がカナデをどこか遠くに連れていってしまう。……そんなのは嫌だ。


そんなのは許さない。絶対に許さない。


私は許せない。カナデを取られてたまるか。彼女を私から盗む気?


彼女を私から取り上げるの?


そんなの、そんなの、駄目に決まっている。


嫌だ、嫌だ、認めない。ふざけるな。


ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな××。××××××××××××。

××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××。


そうだ、忘れるところだった。もう、忘れてはいけないことだったのに。


全くしっかりしなさいよ私。そんなことでは彼女を害虫から守れないでしょう?


彼女に付きまとう邪魔者を排除するのが友達である私の役目なのだから、忘れてはいけない。


彼女に呪いの文字達を送り付けた、彼女の敵に思い知らせてやらないと。


私のカナデを傷つけたらどうなるか、その身に刻んでやる。


カナデは私に関わらないようにと釘を刺したけれど、それは私のことを思ってのことなんだよね?


私の身を案じてくれているんだね。


ありがとう。カナデ。でも、でも……。


私の為にカナデが傷つく位なら、……私が壊れたって、カナデに笑っていて欲しいな。


私がもう二度と笑えなくなっても、カナデはそうなっては駄目。


カナデは、笑っていた方が可愛いから。彼女から笑顔を奪う奴から、私は全てを奪ってやる。


そいつの命を、そいつのプライドを、そいつの魂を、そいつの希望を、そいつの望みを、そいつの過去を、そいつの未来を、奪って踏みつけて見せしめて潰してやる。


彼女を私から奪う奴も同様。カナデと私の繋がりを絶とうとする奴も、同じ様に全て奪って引き裂いてやる。


ああ結局私は、カナデを失いたくないだけか、カナデを手放したくないだけか。彼女にだけは自分の味方でいて欲しいだけか。


そんなくだらない、自分勝手なエゴを他人に押し付けるなんて、なんて図々しくて醜いのだろう。


私は自分のことしか考えられない自己中だ。


彼女を想う気持ちだって、私は友達思いの善人なんてことはない。


その人と一緒にいたいという思いと、その人のことを思う気持ちは背中合わせだからだ。


裏と表程度の違いでしかない。


つまりは全て、自分の為。カナデを想う気持ちだって私のエゴ。


無償の愛みたいな、綺麗な物じゃない。


そもそも、何の理由もなく、何の見返りもなく、人が人を好きになるなんてことは、絶対にない。


綺麗事を並べて誤魔化しているだけじゃないか。


世の中には星の数位の男女がいるけれど、そのどれも自分に得があるから、利害が一致するからこそ、相手に恋をして一緒に居たい、そう思うんじゃないか。


自分の中の性欲と、本能を満たす為により遺伝子の優れた人間を探しているのだ。


そうなのだ、この世界には無償の愛なんて綺麗事は存在しない。


あるのは純粋な利害だけ。全ては現実的だ。


だから私は悪くない。これは皆やっていること。


人間は、生きていく内に嫌でも誰かを恨んで、憎んでいる。


そうしなければ、誰かのせいにしなければ、罪悪感に襲われてしまうから。


自分が傷つく位なら、他人を傷つけてやれ。


自分以外の誰が泣こうが喚こうが、傷つこうが、壊れようが、知ったことではない。


それが人間。人間の本来在るべき姿。


だから私は悪くない。だから私は許される。


そう、これは人間なら当たり前にすることなんだから、私がカナデを想う気持ちは、正当化され、誰にも邪魔できない。


それが××君、例え君でもだ。


嗚呼、堕ちていく自分が分かる。段々と濁っていく自分。汚れていく自分。


最悪だ。劣悪だ。こんなことでは彼女の友達でいる資格は……ない。


でも……カナデなら許してくれるよね。


カナデだけは私の味方だよね。


カナデだけは、……私を、信じてくれるよね。いつ迄も、どこ迄も。信じていて、くれるよね……。

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