13/続き続けて奏で続けて
それからは、それからの毎日はまるで夢のような、夢を見ているように過ぎていった。
俺は朝起きて学校へ行く。一向に春の訪れを拒み続ける寒空の下を行く。
教室に入ると彼女達はいつもそこにいた。
例外無く、当たり前のように他愛もない話を二人して繰り広げているのだった。
そこに俺は混ぜられる。二人は三人になる。
二点は三点になり、線は三角になる。
たまに、極稀にあのツンデレ剣士がいたこともあった。
彼女の話では剣道部では日によって朝練があるらしい。
よって練習が早く終わると授業迄の時間が空くとゆうことらしく、
シカタナシに、俺達がいることが分かっていながら、シブシブ自らの教室に出向くとのことだった。
仕方なしに、渋々等のフレーズが変に強調されている気がしたのだが、
そこは彼女の性格を考えるなら意味を正反対にして受けとれば正解だろう。
時々四角になるわけだ。
一人は二人に。
二人は三人に。
三人は四人に。
三人時々四人で俺達は、毎朝をそうして過ごしていた。
楽しかった。なんて軽い、浅い、薄い表現の仕方だとは思う。
「楽しかった」では何がどう楽しかったのか分からない。
小学生の作文じゃないのだから。
幼稚園児が遊園地に行った後の感想じゃないのだから。
それでも俺は、きっとあの三人も、「楽しかった」のではないだろうか?
きっとそうだ。そうに決まっている。そうに違いない。
どこにでもありそうな、ありふれた関係。
人間関係、繋がり、友人、友達。
それでも俺達は、俺は、そんな自分達のことを特別だと感じている。
世界中に宇宙中に腐る程存在しているだろう他のどんな繋がりよりも、俺達の方が上等だろうと。
最高の仲間だと。最上級の人間関係だと。
異性の壁を越えて考え方の違いを越えて、お互いに相手を受け入れ合える存在同士。
一緒に同じ場所に存在していることが一瞬たりとも苦となりえない存在同士。
今迄の人生の間で誰かに拒絶されることに慣れ、誰かを拒絶することに慣れてしまった二人に、
今迄の人生の間で誰かと繋がることを覚え、誰かに自分を偽ることを覚えた彼女と。
今迄の人生の間で最初から何も慣れることもなく、覚える必要すらなく、自分の存在を自らに認めたそのときから負けることを知らない彼女が加わって奏で始めた四重奏。
それは最初とても心地好い音色を奏でていただろう。
一流の管楽器奏者の一流の弦楽器奏者の一流のオーケストラの音色に負けない位の素晴らしい音を、アンサンブルを。
でも俺達はまだ素人だった。
人と人との関わり合いについて何もかも分かっていたつもりになっていただけだった。
素人だから、まだ未熟だから一度崩れればもう手遅れだった。
もうもとに戻ることは不可能だった。
再び同じ音色を出すことはできなかった。
だってもう忘れてしまったから。覚えていないから。
音の出し方を忘れてしまったから。
もう帰る場所は無くなっていた。
どうしてだろう何処で間違った?
どこで道を間違えてしまったのだろう。
何処かで見落とした筈だ。何処かで誰かが気付かなきゃならなかった。
気付いてあげなければいけなかった。
だからこれは俺のせいでもあり、あの二人のせいでもあるのだ。
いや。彼女にも責任をとらせるのは間違っているか。
彼女は常に線を引いていた。
淡野観月は俺達と関わり合うことはしても、自分はそれ以上近づいてはいけないラインを自分でつくってそれを律儀に守っていた。
たからこれはきっと俺と彼女のせい。
俺が間違いを犯し、彼女が気付けなかったから起きた失敗。
もうどうしようもない失敗。
絶望的に救いようのない絶望。
いやもう二人間違っていた奴がいたのを忘れていた。
俺としたことが、二人も忘れて過ぎだろう。全くやれやれだ。
一人は言うまでもなく彼女。俺達に助けを求めようとしなかった彼女。彼女が二番目に悪い。
そして一番悪いのは、憎むべき悪党は、恨むべき敵は・・・、やはり・・・、それは・・・、あいつであり、あいつ意外には有り得ない。
簡単に間違いを犯し、簡単に間違いを犯したことを忘れられる人間に、俺は何度も会ってきたが、
あいつはその中でも特に特。異常も異常。
最悪の中の最悪だった。
絶対に関わってはいけない存在だった。
関わってしまった今としてはもうどうしようもないことだけれど。
起こってしまった今としては、どうしようもないことだけれど。
奏で始めた不協和音は、まだ終わらない。
絶望は常に続いている。
関わり合った俺達を巻き込んで色んなものを巻き込んで、続き続ける。
終わりの無いそれは輪廻のごとく。