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12/23

12/一人から二人になってまた一人

寒い時期特有の活気のようなもので賑わう街を、一人歩いていた。


駅前通りのデパートが列なる街並みは人、人、人だらけ。


駅前広場にはどうやらテレビの取材がきているらしく、


テレビレポーターがマイクに向かって話す様を多くの人々が一目見ようと集まってきていた。


寒いから皆一ヶ所に集まるのが好きなのかもしれない。


皆自分以外の誰かの温もりを求めているのかもしれなかった。


人の暖かさを忘れてしまわない為に。


今更になって俺は後悔しているのだった。


一人で来てしまったことを。あの二人を置いてきてしまったことを。


奴らが横にいたらどうゆう話題に今頃なっているだろうか?


ねえねえ××君××君。人がいっぱいだよ。


色んな人がいるね。


ここにいる全ての人達にそれぞれ全く違う人生があると思うとなんか不思議だね。


私が知ることのできる人生は自分のだけなのにね。


ああ私何言ってんだろ。


ていうか聞いてる?


私の声ちゃんと聞こうとしてくれてる?


いない人間をそこにいるものとして、脳内で二人分の会話をするのは本当に虚しいな。


ならば何故そんなことをするのかって?


どんなに強がった所で、俺も結局は誰かにそばにいて欲しいからだ。


孤独が好きで本当に孤独な人間等いないのだ。

孤独であればある程それが決してドラマや小説のように格好良いものなんかじゃないことに気付く。


孤独は所詮孤独なのだと。孤独は孤独でしかないのだと。

ただ心が冷たくなっていくだけだと。


心が冷たくなっていたことに、いつしか気付けなくなってしまい、最後には誰からも忘れられていく。


俺もそうなっていたかもしれないのだ。いや既にそうなっているのかもしれないし、これからそうなるのかもしれないが。


俺に自分自身の冷たさと、人の温度を思い出させてくれた少女。


体温が低い人が体温の高い人の手を握ると自身の体温の低さを初めて感じるように。


俺は彼女の温度に慣れてしまった。


彼女の全てを許す温もりと、全てを許さない冷たさに。


火傷しないように、凍りつかないように、その二つをうまく使い分けられる彼女だからこそ彼女の周りには人が絶えないのだ。


一緒にいることが誰に対しても苦とならない彼女は、


自らそうすることが得意な彼女は、


だからそれが例え孤独に好かれた人間でさえ、


孤独を愛した人間でさえ、


その閉ざした心の扉の鍵を彼女にだけは許してしまうのだ。


俺達がそうだったように。彼女の周囲の人間達がそうであるように。


本当に本当に今更ながら、何回も何回も思ってきたことを再び感じ直す。


彼女に出逢えて良かったと。自分が彼女を見つけられて良かった。


彼女がそれに答えてくれて本当に感謝しきれないぐらい救われていた。


その想いだけは変わらないように、迷わないように絶対に忘れないようにしたい。


それさえできれば俺は大丈夫な気がした。


多くは望まず期待はせずに、けれど希望は持って生きてみようか。


自分の首に巻いたマフラーを締めなおしていき、ブレザーのポケットから取り出した折り畳まれた携帯電話を鏡代わりにどう見えるか確認。


まだ冬のような晴れた空から日が傾き始める迄数時間あるだろうというところだが、雲一つない空の下は丸ごと冷蔵庫に閉じ込めたような寒さ。




咲く季節をまだ待っているように蕾のままの桜は学校の入学式のシーズンを通り越してもやっぱり蕾のままだった。


太陽がこの小さな島国の存在を忘れてしまったのではないか、


と思える程のこれはもはや異常気象ではないだろうか。


テレビのニュースで天気予報師が皆口を揃えて「今年は春を抜かして夏なんではないでしょうか」という始末。


異常気象は大震災の前触れだとかいうが、そろそろ地球も終わりなのか。


地球が終わったら俺も終わってしまうな。


それは普通に嫌だったが、それは普通に起きないことだとも思う。


平和に慣れてしまった俺達は自分が今いる所が平和でないと、


それに暗示をかけてしまい自分が安全なのだと思い込むことで、


自らの平穏を守ろうとしているつもりなのだろう。


でもそれは大きな間違いで、致命的な欠陥であることすら気付かない。


誰も気付かない。


いや。


誰も気付きたくないのか。


気付くことが恐ろしいから分からない振りをしているだけか。


そのこと事態を認識していようがいまいが、それは襲ってくるとゆうのに。


・・・また無駄な思考を独り歩きさせている自分だった。


独りになり、独りじゃないときに一緒にいる奴に対して費やす思考を停止しているときには、


また別の思考が目を覚ます。自分との会話とでも言うべきか。


ずっと独りだった俺は人一倍それが、いうなら自分との会話をたくさんしていた。


要は考え事だけど。


そういう奴程自分の考えに凝り固まってしまう、自己中心的な人間になりやすいと思う。


自らが思い、廻らせてきた考えが間違っている等と夢にも感じない連中だ。


いつもはしない自虐に走ってみた。


自分を自分で傷つけるなんて非生産的な行為を、


害しか生まない行為を、


まるで格好つけたかのようにしている自分を好きになれなかった。


自分を自分で好きになれないなら、それは最悪だぞ。


死ぬ迄離れられない存在同士なのだから。


自分とはうまく付き合っていく他ない。


好きになれない奴と一生一緒にいたくなければな。


そうゆう意味だったらナルシストも悪くないかもしれない。


どうしても好きになれない自分と共倒れになって何もかも駄目にしてしまうよりは・・・。


自慢できるくらい自分に自信を持てる人間の方がどれだけ良いか。


どれだけ素晴らしいか知れない。


自分にはとても当てはまらないことだから。


これはあくまで想像の範疇での予想だけれど。


「すいませーん。××テレビなんですけど。インタビューお願いできますか?今都会の若者を中心に・・・」


いつの間に俺の正面に現れていたテレビリポーターを鬱陶しく思った俺は、


その女性リポーターの横を抜けていく。


無視されたことにようやく気付いた彼女は、軽く凹んでいる様子。


見ればまだ若い新人レポーターらしかった。


俺って本当に、むかつく程、嫌になる程、甘い。


「お仕事ご苦労様です。俺は大したこと言えないんで、すいません。」


振り返ってそう言っていた。俺の口から勝手に出てきた言葉だった。


ぱあっと明るくなる彼女だった。


「こちらこそすいませんです。すいません。すいませんでした」


自分の中で罪悪感をいつまでも残しておかない為にしたことでしかない。


自分の感情をうまく整理できない自分のことを、


また一つ嫌いになってみた。


「じゃあ俺はこれで・・・」


カメラマンに映されでもしたらいい話の種だろう。


急いでその場を離れる俺。


一人で良かったと、今だけはさっき迄の自分に感謝。


あいつらの、特にショートカットの方が黙っていなかった筈だろうから。


相も変わらず歩き続けている俺だった。


歩きながらの方が考えがまとまるから。


こんなことはよくやることなのだ。


俺ってつまんないなあと改めてそう感じるのだった。


安西奏と会えない時間が続くだけでこんなにも、駄目になってしまうなんて。


下らない自分を見下す自分がまた下らない。


もうやめよう。


考え事をやめろ。思考を停止させてみろ。


その方がきっと楽。


自分は考えなくていい惰性の安楽に浸ることにした。


思考のスイッチをオフに。


一歩一歩をいくことだけ感じながら考えることを止めた。


・・・やっばりこの方が楽。


楽が一番良い。



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