第9話 世界が変われど腹は減る
誤字報告ありがとうございました。
前話の8話は深夜に書いたため、誤字が大量にあったようです。誤字報告してくれた人には感謝です。
登録を終え冒険者ギルドを後にしたイヅナ達は、受付嬢に紹介してもらったギルドの宿に向かう事に。
宿の場所はギルド近くということもあり徒歩数分といったところの場所にあった。
紹介されて着いた宿は二階建ての大きめの建物。
外見は石と木で出来ており古い宿だが、実家のような安心感と綺麗に掃除されているのか周りの宿にも劣らない清潔感を感じる。
きっと長年大事に使われてきたのだろう、イヅナは優しい温もりを感じる気がした。
両開きの扉を開けて中に入ると正面には受付のカウンター、左右には木の長椅子とテーブルが置かれており、左奥には2階に上がる階段がある。それほど汚れておらず中も綺麗に掃除が行き届いている。
イヅナたちが入ってきたのに気付いたのか、カウンターから1人の女の人が話しかけてくる。
話しかけてきたお姉さん?は髪は短く、笑顔が似合いそうな活発系美少女。歳はまだ10代半ばくらいで若そうだ。
「いらっしゃい、未来ある冒険者さんたち。今日は泊まりですか、お食事ですか、それとも、差・し・入・れ」
なんとも濃いキャラのお姉さんじゃ……異世界に来てからというもの、キャラの濃い人物にしか会ってないような気がするが気のせいかのぅ。
濃いキャラのお姉さんに気圧されながらも、宿に来た要件をカウンターに立つお姉さんに話す。
「えっと、妾たち泊まりを希望したいのじゃが……」
「うんうん、泊まりね。狐耳の可愛い君と黒髪ロングの綺麗な君、二人でいい? あっ! そうだ! もしかして二人は誰かの紹介できたのかな?」
「えー、泊まるのは妾たち二人でいい。紹介はギルドの受付をしておる、お姉さんに紹介してもらった。優しい雰囲気のお姉さんじゃった」
うんうんと唸るように考えた後、イヅナの言っている人物が思い浮かんだのかパッと顔が明るくなる。
優しい雰囲気のお姉さんで伝わったようじゃ。
「あぁ、マリーさんね。あの人は君たちみたいなギルドに登録してくる幼い子をよく紹介してくるんだよ。どうも心配性でね、よく構って来るから気をつけた方がいいよ」
そう言えば聞くのを忘れてたがあのギルド受付のお姉さんはマリーさんと言うらしい。優しい雰囲気のお姉さんに合ったいい名前じゃ。
「それでね、ウチの宿は一泊銅貨5枚、食事付きなら銀貨1枚だよ。あっ! ツケは無しだよ。昔は良かったんだけど、ちょっとトラブルが起きちゃってね」
ど、銅貨5枚!? 安すぎるじゃろ! 元の世界なら500円じゃぞ500円、しかも食事付きで1,000円! 逆にこの宿の運営が心配になって来るレベルじゃ。
二人がその安さに驚いているとお姉さん?がニヤニヤとしながらこっちを見ていた。イヅナたちが何を思っているのか分かっている顔だ。
「あっ! その顔は驚いてるね、ここに初めて来た人はよく驚くんだよ。すぐに分かっちゃったよ。この宿はね、聞いてると思うけどギルド直営でね支援金でやってるんだ」
驚きが顔に出ておったか、それにしても支援金だけで宿をやっていけるのだろうか心配じゃ。確かに値段は安いが大勢の人が来ては赤字になってしまうじゃろうし……
「それにこの宿を出て行った子がね、よく差し入れを持ってきてくれるんだよ。お父さんが言うには、その子は何と今ではAランク冒険者なんだって。私は会ったことないけどきっと筋肉ムキムキですごっくデカイ人なんだと思うんだ…」
説明を聞いて納得した。
Aランク冒険者とは実質冒険者のトップ、Sランクもいるが未だ10人しかいないという。Aランクともなればお金は持っているのだろうが、世話になった宿に差し入れしてくれるとはなんとも心優しい事だ。
「長々と話してごめんね。それで何泊する?」
二人は事前に5泊すると話し合っており、二人分の銀貨1
0枚分を渡す。このお金はルーカスの店で売った、布団とパジャマから出している。
今着ている新しい服を買ったが、まだ大金貨4枚も残っている。心配は無用だ。
「えーっと、銀貨10枚だから………素泊まりの10泊と食事付きの5泊だけど、どっちにする?」
「もちろん食事付きで頼むぞ」
「おっけー、5泊ね。食事は朝と夜の時間に出すから遅れないでよ。遅れちゃったら冷めたご飯が待ってるから忘れないでね」
そう言うと銀貨10枚を受け取り、宿帳に何か書き込みペンを渡して来る。どうやら名前を書いて欲しいらしい。
言われた通りイヅナとツバキは書き込み終え宿帳を返す。
「うんうん、イヅナちゃんにツバキちゃんね。じゃあ、これが部屋の鍵ね。部屋は2階に登ったら左の突き当たりね、トイレと井戸は共同だから気をつけて使ってね。鍵は出かける時にカウンターに返してくれたらいいから」
軽く注意事項を聞いて鍵を受け取り、部屋に行こうとする二人は後ろから呼び止められる。
「言い忘れてたけど、あたしはこの宿の看板娘ミーナだから覚えておいてね〜」
ミーナさんか、元気な彼女に似合う良い名前じゃ。
言われた通りの左の突き当たりの部屋に入った二人は、置かれたベッドの上に倒れ込む。
「あぁ〜、疲れたのじゃ〜」
「だらしないですよイヅナ様。……でも今日は大変だったのでいいですよ」
普段しっかり者のツバキも流石に疲れたのか怒る気力も無い。ベッドの寝心地を確かめる為、ごろごろとしていると…
ーーぐぅ〜〜
お腹が鳴った、どこかで覚えのある展開。
そのお腹が鳴ったと思わしき犯人は変わらずベッドにごろころしている。ツバキしかここにはいない為、恥ずかしさなどなく呑気に笑っていた。
「目新しい事がいっぱいで腹が減っていた事を忘れておったわ、わはははッ!!」
「ちょっとイヅナ様、静かにしてくだ………」
ーーぐぅ〜〜
今度は別の所から音が聞こえる、イヅナ以外となるともう一人しかいない。
「あははははっ! ツバキお主も鳴っておるではないか!」
からかうようにイヅナがツバキのお腹の音について指摘した。これは流石のツバキも恥ずかしかったのか、座っている体勢からベッドに備え付けられている枕に顔を埋めた。
「「…………」」
それからしばらく静寂に包まれたから部屋にクスクスとイヅナの笑いが漏れ出る。イヅナの笑いに吊られてツバキも笑い始めた。
次第に笑いが大きくなり、二人して楽しげに笑い出す。これまでの不安など吹き飛ばすような明るい雰囲気に部屋は包まれる。
ーーあははははっ……
世界が変わっても腹は減る、楽しければ不安も吹き飛ぶ。
ツバキと一緒なら、これからの異世界生活もなんとかなりそうだと互いに思う二人であった。
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