狩人
「狩り?じいちゃんやったことあるの?」
「当たり前じゃ!男はあばれうしどりの1匹や2匹狩ってこそじゃ!」
「え!あんなでっかいのを?どうやって?」
「弓じゃ。パパパ!と打てばパタリじゃよ!」
「いきなりそんなの無理だよ!やったことないし」
「そりゃそうじゃ。じゃからルイたちはこれじゃ」
そう言って、じいちゃんは釣竿を取り出した。
「ルイたちには魚を釣ってもらう。渓流釣りというやつじゃな。餌もあるでの、頑張るのじゃぞ!ほいじゃな!」
そのまま、じいちゃんは森の中へ消えていった。
「おい、ルイ。じいちゃん一人で森の中に入っちまったよ。大丈夫なのか?」
アサは心配して言った。老人が山菜採りに行って、獣に襲われるなんてニュースをたまに耳にするからだ。
「た、たぶん。」
「まあ、あんだけ張り切ってたし、大丈夫か」
「同じく。ルイのじいちゃんはただのじいちゃんじゃない」
案外、二人は心配していないようだ。ルイのじいちゃんに謎の信頼感を持っている。
「で、釣りってどうやんの?」
「アサやったことないの?意外だわ」
「じゃあイブニアはやったことあんの?」
「ない。」
「サトは?」
「同じく」
「ルイは?」
「ない。」
「まずくね?」
しばしの沈黙の中、ルイたちは自然から乖離している現代っ子ゆえの現状に呆然とした。
「ま、とりあえずやってみるか。案外釣れちゃうかもしんないし」
「そうだな」
「同じく」
「あの川でいいんだよね?」
「「「多分」」」
「ハハハ、、、」
数時間後
〈がっくり、、、〉
「まさか、1匹も釣れないとは、、、」
「まあ、初めてだったしな、仕方ない」
「同じく」
「ビギナーズラックで案外いけるとかいう考えは甘かったね」
体は身軽なはずなのに、足取りが重い。
「おう!おかえり!どうじゃった?釣れたかの?」
「それが、、、」
「なんじゃと!?1匹も釣れておらんのか!?これじゃから若いもんは、、、」
「だって、釣りしたことないし」
「したことないじゃと!?誰もか!誰一人としてかの!?」
「うん」
「ほほほ、、、みくびっておったわい。現代っ子というやつをの、、、」
「で、でも、じいちゃんこそ何も採れてないじゃん!」
「バカモン!もう下処理まで済ましておるわい!!!ほれ、そこ見てみぃ!」
そこには、あばれうしどりの皮、骨が転がっていた。
「うわ、グロっ!」
「バカモン!お主らが毎日食べとる肉は全部こうやって解体されとるのじゃ!だからこそ、感謝の気持ちで美味しく戴かなくてならん。では、朝食にするかの。あんまり遅いからほとんど出来上がってしまったわい。」
(確かに、いい匂いがする。もしかして、、、)
「「「「カレーだ!」」」」
「キャンプ飯と言えばカレーじゃろ?朝食は焼き魚と白米、それに少しカレーを添えようかと思っとったんじゃ。本当は朝から煮込んカレーを夜に最高の状態で頂こうと思っとったのに。逆に都合がいいか」
「え、都合がいい?」
「ん?そんなこと言ったかの?最近忘れっぽくての!ハッハッハー!そんなことより、飯じゃ、飯!お主らも釣りごっこしてお腹ぺこぺこじゃろ!」
「釣りごっこって!でも、確かに早く食べたい」
「結構腹減ったし、疲れたよな。でも、まだまだ時間あるんだから、これ食ったらリベンジしようぜ」
「一回くらい釣りたいよな」
「同じく」
「そうじゃ!その意気じゃ!今度はわしもついていくでの。ほい、お待ちどう!じいちゃん特製ゴルキンスライムカレーじゃ!」
「「「ゴルキンスライムカレー?」」」
「は、はは。じいちゃんが張り切ると大体こういう感じになっちゃうんだ。でも、味は美味しいから、大丈夫」
「色はグリーンカレーだな」
「目と口みたいなのが気になるな」
「同じく」
「冷めないうちにの!」
「「「「いただきます!」」」」
パクッ!
「「「「う、うまい!」」」」
「見た目の色に反してとても優しい味わいだ」
「それでいて、甘すぎるわけでもなく、野菜の旨味が詰まっている」
「同じく。この目と口はチーズだったのか」
「ハッハッハー!どうじゃ?力がみなぎるじゃろ!疲れも吹き飛ぶはずじゃ!」
「た、たしかに!なんか元気になってきた!」
「なんか、ここに来る前より元気じゃね?」
「同じく」
(どういうカラクリなんだ、、、)
「腹ごしらえも済んだことじゃし、お主らの仇取りといくかの!」
「「「「おー!!!」」」」
ザッザッザッザッ
「ほい、釣り竿と餌じゃ。」
ルイたちに渡されたのはさっきと全く同じ釣具だ。
「釣ってみぃ。ほれ、あそこらへんにポイっと」
「いやいや、そんなんで釣れるわけ」
「釣れたー!!!」
「俺も!」
「同じく」
「え、え、え?なんで?遅れてビギナーズラック来ることなんてあんの?」
「渓流釣りのコツは、レディに触れるように優しく、丁寧にじゃ!」
「また釣れたー!!!」
「入れ食い!」
「同じく」
(全然聞いてない、、、)
「じいちゃん!どうなってんのこれ!」
「昼の方が釣りやすいんじゃろな〜。なんじゃ、やればできるじゃないか。ほれ、ルイも頑張るんじゃぞ!」
(そういうもんか?)
「ルイ!ガンガン釣れるぞ!やってみろよ!」
「う、うん!」
(ま、とりあえずやってみるか)
ポイっ!
「ん?やばい!でかい!」
「合わせるんじゃ!穂先を上へ跳ね上げるんじゃ!」
「これでいいの!?」
「その調子じゃ!頑張れ!」
「ルイ頑張れ!」
「いけるぞ!」
「同じく!」
「うおおおおおおりゃああああああ!!!」
ベタン!
「つ、つれた!」
「お!立派な鮎じゃの!36、いや、7はあるんじゃないかの!」
「でけえ!ほんとにこれ鮎かよ!」
「コイじゃないのかこれ?デカすぎだろ」
「同じく」
「いやいや、これは鮎じゃよ!それもキングサイズじゃ!ようやった!じゃが」
ポイっ!
ザッバーン!!!
「ちょ、じいちゃん!何すんだよ!」
「・・・不味いのじゃ!あまりに大きすぎて身がボサボサなのじゃ!キャンプが盛り下がるわい!鮎は20センチくらいが1番なんじゃ!どうじゃ?不味い不味い言われながら食われる鮎の気持ちは?かわいそうじゃろ!じゃから」
ポイっ!
チャポン!
「じゃ!あ」
「じいちゃんそれはオレが釣ったやつ!!!」
「すまんすまん。つい、、、」
「ついって、、。まあ、いっぱい釣れたからいいけどさ」
「ありえないくらい釣れたな」
「同じく」
「いっぱいじゃのー!よかったのー!よし!そいじゃ少し早いが、昼ごはんにするかの!」
「「「よっしゃー!」」」
(あ、あれ?まだあのでっかい鮎しか釣ってないんだけど?ま、いっか)
その後、じいちゃんが握ってくれたおにぎりと、釣った鮎とニジマスを塩焼きにして食べた。鮎は20センチがベスト。これは正しかった。
「じいちゃん、次は何するの?」
「もちろん、狩りじゃ!」
「最初狩りは無理だって」
「案ずるべからず。なんでも挑戦!無理だと思っても楽しむ!これが大事なのじゃ!さ、行くぞい!」
「「「「え〜〜〜」」」」
「え〜〜〜じゃない!釣りと一緒じゃ!コツを覚えれば簡単じゃよ!」
(もう結構疲れてきたのに)
「ルイ!あーあ。もう疲れたのになー。って顔しとるぞ!さっきはキングサイズのあゆ以外釣っておらんのだから、ここで頑張るんじゃぞ!」
「そうだぞ、ルイ。さっきは俺たちの魚分けてやったんだからな。俺の分まで頼んだ」
「え?」
「そうだな、ちょっと休むわ」
「おい!」
「同じく」
「サトまで!」
「そうじゃな。3人はゆっくりしとってくれ。カレーの具合でも見ながら火に当っとれ!行ってくるぞい!」
「「「行ってらっしゃい!!!」」」
「ちょっとー!!!」
そのまま、ルイは森の中へ引きづられていった。




