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カントマクエスト 彼方からの祈り  作者: イヌカメン@発作活動家
2/8

始まり

 ・・・めでたし、めでたし。

「やっぱり、じいちゃんのお話大好き!」

「はっはっはっ。そうか、そうか。でも、このお話はじいちゃんとの秘密じゃぞ。」

「どうして?すごい面白いのに。」

「面白いからの〜、わしのお話は。じゃがな、絶対に誰にも教えてはならん。絶対じゃ。」

「うーん。面白いのになぁ」

「はっはっは。実はな、いつかこの話を本にしようと思っとるんじゃ!なのに、今話してしまっては台無しじゃろう。じゃから、それまでの辛抱じゃよ。」

「そうなの!?じゃあ仕方ないね!分かった!」



「じいちゃん!行ってきます!」

「気をつけてな〜」

ルイは、この春から医学部に通う大学生。3年間の血も滲むような努力が実ったのだ。

 (まだ5月なのに、もう暑いな。地球温暖化のせいか?)

そんなことを思いながら、自転車で大学まで向かう。もちろん、医者になる夢を叶えるためだ。小さい頃からルイの夢はずっと医者だった。

 ルイはじいちゃんの昔話が好きだ。だが、昔話と言っても全てじいちゃんの作り話。ルイも、もう大学生になった。だから、もう信じてはいない。それでも、今も一番好きな話は大賢者の話だ。

 

 ある村に生まれた普通の少女。その少女は不器用で、何をやらせてもダメだった。

 食器を洗えば、手を滑らせてバラバラに割り、森に薬草を摘みに行けば、いつのまにか迷い、村総出で探すことになったりと、何かと手のかかる少女だった。

 それでも、少女は愛されていた。とても明るく、優しい性格は、村中を元気にさせたのだ。

 しかし、ある時、村一番の強者の男が瀕死の状態で運ばれてきた。

 少女は必死に祈った。

 「どうか、治ります様に。助けて。」

 すると、男の傷はみるみる塞がっていき、まるで、何ごともなかったかのように男は起き上がったのだ!

 なんと、少女は女神に選ばれた。それも、話に聞く今までの賢者とは比べ物にならない力を持っていたのだ。謂わば、大賢者だ。

 その後、大賢者は勇者に出会う。後に「最後の勇者」と呼ばれる勇者だ。そこでも大賢者は大活躍する。

 遥かに強い魔物が襲来し、なす術もなく、仲間が次々と倒れ、ついに勇者までが倒れてしまう。大賢者はこれまでの鍛錬で培ってきた力で魔法を放つ。一生に一度の、最期の魔法。

「ザオカルパ!」

世界樹の力に匹敵する最強の蘇生魔法。

 仲間たちはみるみる復活していく。それも何倍もの力を宿して。

 勇者たちは力の限り魔物に襲いかかった。日が沈み、夜が明けた頃、勇者たちは遂に勝利を収めた。

 その後ろには朝の光に包まれた大賢者が倒れていた。口元に笑みを残して、、、


という話だ。初めて聞いたときは声をあげて泣いた。大賢者が可哀想だと。

 しかし、大賢者は死ななかった。正確には死んでいたが、教会でお金を払えば生き返させることが可能なんだと。

 それを聞いたときは、嬉しさ半分、よくわからないモヤモヤが半分になった。

 それでも、大賢者の優しさ、大賢者が自分を犠牲にして命を救う話をたくさん聞くたびに、ルイは大賢者みたいになりたいと思った。じいちゃんも「そりゃ、いいな」と喜んでくれた。そして今に至る。


 いつものように授業を終え、図書館で自習をする。医者になる夢を叶えるには、ちょっとの時間も惜しい。それに、例え医者になれたとしても、目指しているのは大賢者だ。ちょっとやそっとの勉強なんかじゃ足りるはずがないのだ。この図書館にある医学書全部読んでやる!くらいの気合いがないとダメなのだ。

 現代の医学では救えない命の方が多い。医者になったら、たくさんの死に触れることになるだろう。でも、大賢者はそんなことで悩むだろうか。ひたすら努力するんじゃないか。そう思うと、頑張れるのだ。

 そんなルイでも、たまに嫌になることがある。こんなに勉強しても、死人を生き返らせることなんてできないし、傷を瞬時に治すことだってできない。大賢者になんてなれやしないのだ。

 それでも、一人でも多くの命を救いたい。例え大賢者にはなれなくても、患者を救うたびに大賢者に近づける。そう言い聞かせながら、大学生になっても、大賢者の夢を見続けている。

 

 閉館の時間になり、家路に着く。

 外はもう大分暗い。じいちゃんに心配をかけないように、寄り道せずに帰る。じいちゃん思いなのだ。

 (今日のご飯は何だろな)

そんなことを考えながら、ペダルを漕いでいく。顔に冷たい空気が張り付いて、少し痛い。

 (疲れてるし、早く帰りたい。原付でも買った方がいいかな。でも、お金も時間もないしなあ)

そんなこんなで到着。 

「がうがう!」

「ただいまブチブチ。今日もいい子にしてたかー?よしよしよし〜」

「がう〜ん」

ブチブチはルイのペットのデスパンサーだ。小さい頃から一緒にいる。元はじいちゃんのペットで、ルイが生まれる前からここにいる。じいちゃんはそのままデスパンサーと呼んでいたが、ルイがブチブチしてるから「ブチブチ」と名付けた。ルイは、もうあまり覚えていない。

「じいちゃんただいまー」

「おう、おかえり。今日も丸一日勉強してきたようじゃの」

「うん。疲れた。ご飯食べて、風呂入ったら寝るね」

「それがいいの。早速準備するぞい」

 朝食と夕飯はいつも二人で食べる。逆に言えば、その時間くらいしか一緒に喋ることはなくなってしまった。だから、今日あったこと、思ったこと、考えていることを夕食を食べながら話す。夕食が冷めるくらい。

「最近さ、学校行くまでの時間がそこそこかかるから、原付でも乗ろうかなと思ったんだけど、よくよく考えたら、買うお金もないし、免許取る時間もなかった。仕方ないけどね。」

「そうじゃな。頑張っとるもんな。じゃが、春休みとかになら取れるんじゃないかね。その時はじいちゃん、原付買ってやるぞ」

「本当に?ありがとう。入学までに取っとけば良かったな。自転車でいっかって思っちゃってた。」

「そうじゃな。原付は便利そうじゃ。最近の技術はすごい。まるでダークマンモスの突進のような速さで走りおる。」

「またじいちゃんの作り話?(笑)その例えじゃ全然わかんないよ」

「すまんすまん。ついな。」

「ついって(笑)じゃあ、お風呂入って寝るね。ごちそうさま。」

「おう。おやすみ」

「おやすみなさーい」


(ルイは努力家だ。俺も負けちゃいられない。)

 じいちゃんはそんなことを独り言ちた。

 そうして、深夜、いつものように外に出ていくのだった。




 

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