昔話
昔々あるところに、一人の魔王がおりました。それも、ただの魔王ではありません。
今までの魔王とはかけ離れた強さ、賢さを持ち、今までの魔王のように驕ることはなく、鍛錬を怠ったことなどない、勤勉な魔王なのです。
人間たちは困りました。今まではたくさん努力して、経験を重ね、仲間と共に勇者が立ち向かい、打ち倒してきました。
しかし、いくら勇者と言えど、人間の一生より遥かに長い時を生きる魔王が、人間ですら見上げるような努力を重ねてきたのです。敵うはずがありません。
人間たちはいつものように勇者を魔王の元へ送りました。しかし、勝負にもなりません。軽くあしらわれてしまいました。
それでも何度も、数えられないほど立ち向かいました。何度倒れようと必ず立ち上がり、魔王の元へ向かいます。
そして遂に、魔王に攻撃を当てることに成功したのです!しかし、魔王には傷一つ付かず、またもや倒されました。
それから長い時が流れ、勇者は何代も変わり、最後の勇者が生まれました。もうその頃には人間たちは諦めていました。
何十年、いや、何百年経とうと魔王には傷一つ付かず、魔物は増えるばかりです。人間たちが辛うじて生きているのは、魔王が何もしないからに過ぎません。
それが、とても不気味でした。まるで、何かを待っているかのようで。何かとてつもないことが起きるようで。
それでも、最後の勇者は諦めませんでした。みんなを守るため、世界を救うため、必死に努力しました。
もうその頃には、若者とはとても呼べない歳になっていました。
しかし、やっと完成したのです!魔王を討ち倒す最強の技が!
人々はギガエンドやら、ギガホープやら、ギガブラストやら勝手に名付けました。
でも、勇者には興味のないことです。魔王が倒せればどれでも良かったのです。例え、仲間が名付けでたびたび言い争っていても、全く関係ありませんでした。
この技は、簡単には発動できません。正確には発動しても、魔王を打ち倒す威力にするにはとても時間がかかります。
なんと、この技は武器を犠牲にして威力を増すのです。武器が強ければ強いほど、多ければ多いほど威力が増します。魔王を倒すためにたくさん魔物を倒し、経験を積んでもたかが知れています。魔王がたくさんの時間鍛錬してきたならば、人間の軌跡全てをぶつけよう。そうしてこの技は生まれたのです。
そのため、勇者は武器を集める旅に出ました。とても険しい旅です。
ある時は洞窟の奥地へ、ある時は魔物ばかりの地下牢へ、ある時は時を超え、遥か遠いところまで、、、
そうして長い時間をかけ、世界の隅から隅まで旅をしました。全てのありとあらゆる武器、いや、一つを残して、勇者たちは魔王の元へと向かいました。
魔王は言いました。
「待っていた」
魔王が待っていたのは最後の勇者たちでした。でも、本当は勇者が来るたびに言っていたのかもしれません。
勇者はすぐに技の準備を始めます。武器と、仲間の命を犠牲に。
長い時間。勇者にとって、長年の打倒魔王の旅よりも長く感じられました。
勇者と魔王の一騎打ち。
勇者は自分が歩んできた全て、人間が歩んできた全て、人々の祈りを魔王に放ちます。
魔王は世界で一番努力をし、勇者を倒すためだけに用意してきた力全てを放ちます。
2人を、世界を飲み込んでしまいそうな光が包みました。その後には何も残りません。
魔王は勇者の手によって倒されました。勇者は、魔王の手によって倒されました。
そうして、世界は平和に戻りました。
魔王もいない、魔物もいない、そして勇者もいない世界になりました。
人々は泣きました。世界樹にも祈りました。それでも、勇者たちが目覚めることはありません。
だから、忘れないように大きな像を立てて、勇者たちを弔いました。
それでも、いつかは忘れ去られてしまうでしょう。
それでも、勇者はきっと幸せです。守りたいものがあったから。
めでたし、めでたし。




