様々な人々18
「ええ? 第四王子だけでなく第三王子とも謁見したの?」
「呼ばれただけだけど」
夕方、久しぶりに山の上の小屋へ顔を出すと、同期で1番の友達のリュネがいた。久々に遠出をしたのか、リュネのグリフであるネリルも満足そうな顔をしている。医官になったリュネは忙しいらしくしばらく顔を合わせてなかったので、お喋りをしながら帰り道を歩く。
「あんたよく不敬罪にならなかったわね」
「いきなり呼び付けといて騎士に飛び掛からせるとか、あっちの方が不敬でしょ!」
「どうせ返り討ちにしたんでしょ? またグリフより大きい声で吠えて威嚇したんじゃないの?」
「威嚇はしてない!! たぶん」
「アデルは声でかいんだから、王族には囁くくらいの気持ちで話さないとダメよ。……それにしても、アデルが王族とそんなに気軽に話すなんてねえ」
「別に気軽には話してないけど」
「なんだか遠くなったみたいに感じるわ。あれだけ泥まみれになって蛇食べながら演習した仲なのにね」
リュネはそう言って肩を竦めたけど、私からするとリュネの方が遠くなったように感じる。会わなかった期間だって数ヶ月なのに、リュネは随分と大人びた気がした。髪を編み込んで、化粧をしているからだろうか? それだけじゃなく、仕草も表情も、随分と変わったようだ。前に会ったときは教育隊にいた頃と変わってなかったのに、もう今は教官に近い雰囲気な気がした。
「リュネ、仕事に慣れた?」
「まあね。グリフに乗る医官って珍しいからか、最近はネリルに乗ってあちこち行ってるの。本当は病気の患者さんをじっくり診たいんだけど、もっぱら怪我ばっかり」
「そうなの?」
「バルドって知ってる? 西にある大きい街なんだけど。あそこに前線から怪我人が運ばれてくるの」
教育隊に入るために王都へ向かっていたとき、バルドという街にも泊まった。今思うと王都よりは規模が小さい街だけど、あのときは人生で見た中で一番大きくて賑やかな街だと思ったものだ。活気に溢れていて明るい街だったけれど、そこに治療の拠点を置いているそうだ。
「あんなとこまで運ぶの?」
「怪我が原因で熱を出した人たちは、前線の救護所では見きれないでしょ。っていっても、バルドまで移動できる人たちはまだ体力が残ってるんでしょうね。私はまだ症状の軽い人しか診てないけど、いつも王都から持っていく薬や包帯はみんなその日のうちに前線の方に運ばれるみたい」
リュネが飛獣教育隊に入ったのは「急患にすぐ駆けつけられるように」というものすごく珍しい理由からだった。父親も医官だったというリュネは、父と同じく病の研究をする医官になりたいと言っていたのだ。
新人だから言われたことをこなしていくのが仕事だろうけど、自ら希望した配属先に入ったリュネも、望み通りの生活というわけではないらしかった。
「怪我人、多いの?」
「そこそこね。竜に負けることはないだろうけど、それでも余裕はないみたい。足を怪我したり、熱で体力が落ちた人がすぐにグリフに乗って槍を振り回すなんてできないから」
「そう……リュネ、ローチャが槍獣第一に入ったって知ってた?」
「前に会ったわ。あのおっとりしたローチャが前線に行きたがるなんてびっくりした」
「私も。まさかローチャの方が先に第一に入るなんて想像しなかった」
前は自分が真っ先に配属されて、同期の誰よりも先に前線に行くと信じて疑わなかった。
「前線は流石にいないでしょうけど、後方部隊にはすでに行ってる子もいるみたいよ」
「そうなの?!」
「ライエン、ニナ、デレナにはバルドで会ったわ。荷運びとか、街に近い森の見回りとかだけだって言ってたけど」
「そうなんだ……」
2年間毎日一緒にいた仲間たちが行ってると思うと、前線がより危険なもののように思えた。ずっと過ごしていて、みんなの得意なことも苦手なことも知っている。もし竜乗りに会うことがあったら、と思うと心配せずにはいられなかった。今すぐに槍を持って西に向かって発ちたい気持ちに駆られる。
「アデル、歯痒い気持ちもあるかもしれないけれど、前線に行くだけが騎士の仕事じゃないわよ。あんたには興味がないかもしれないけど、王宮だって国のために必要な場所だから、あんたが今やってることだって放り出していいわけじゃないからね」
「うん……」
近衛の仕事については、私が放り出しても何の問題もないかもしれないけど。
けど、第四王子がやろうとしていることは、確かに何よりも大事なことだ。前線に行くかわりに戦争を止められるなら、私は王都に残ってその手伝いをする方がいい。
「わかってる。ちゃんと自分の仕事をする」
「あら、急に物分かりが良くなって。第四王子っていい人なのね」
「はああ?」
どこをどう聞いたらそう思うのか。全然いい人じゃないし、ヒョロヒョロだと私はリュネに説明してあげた。リュネに「王族を投げ飛ばさないの」と言いながら締め上げられた。




