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悪夢の配属7

 王宮内の騎士食堂は、利用時間が普通よりも長いらしい。骨付き肉を齧り終わるとスープが出てきて、それを飲み干すと魚料理が出てきた。


 自分で持ってこないのはいいとして、なんでいちいちひとつずつしか運ばれないのか。

 てかこの魚、小さい。私の拳の半分もない。こんなサイズでどうやって腹を満たすのだろうか。後から山盛りの何かが出てくるんだろうか。


 訓練隊に入隊してからの食事はさながら戦争で、短い時間でとにかく栄養を詰め込まねば疲れた体が動かなくなる。悠長にナイフでギコギコするような奴はおらず、骨を持って齧る、フォークで刺して噛み切る、または掻き込むといった原始的作法がまかり通っていた。皿もカップも大量に出るため、落としても投げても壊れない木製のものしかない。

 ここでは一点の曇りもない銀のカトラリーに、真っ白な陶器の皿。割れ物の皿なんて、家でも使ったことがない。スプーンが皿に当たると嫌な音が出るので、スープを飲むのにいつもの倍以上時間も神経も費やすことになった。


 なるほど。これが貴族の食事か。

 時間がいくらあっても足りないけれど、こんなにゆっくり飯を食っていつ働いてるんだろう。


 ちんまりした魚をふた口で食べてしまい、物足りない気分のまま周囲を見回す。

 このだだっ広い騎士食堂には、テーブルが合計で16あった。

 4卓の並びが4列あるのは、おそらく部隊ごとに分かれているからなのだろう。


 最も人数が多く華やかなのが、ここから一番遠い列の近衛第一部隊。昨日一緒に入隊した新人の騎士グルスが端のテーブルに座っていることからみても間違いない。なかなか友好的な人物だったようで、騎士グルスは先輩方と笑顔で会話を嗜んでいた。


 第三部隊も同じくテーブルを4つとも使っている。第二部隊は使っているテーブルが3つで、最後のテーブルには2人しかいないので10人だけが食事を摂っていた。第二王子は武人として名高く、遠征にも頻繁に行っている人なので少ないようだ。


 そして私が属する第四部隊のテーブルは、使われているものが2つ。そのうち1つは、私がひとりで座っている。つまり、5人しか朝食を食べに来ていない。

 夜勤や随行中の騎士を差し引いたとしても、最も集まりやすいはずの時間帯で5人というのは少なすぎやしないだろうか。次の皿を待ち侘びながら考えていると、隣のテーブルから声がかかった。


「よう、新入り。ひとりで食べるのも寂しいだろう。ここに来て一緒に食事しようじゃないか」

「はっ! お誘いありがとうございます!!」

「こ、声が大きいな……女の子なのに」


 話しかけてきたのは、同じ第四部隊のテーブルに座っている騎士のひとりだ。つまり最も近い先輩にあたる。先輩の言うことは可能な限り聞いておいたほうがいい。頷いて立ち上がると、話しかけてきた騎士が何故か尻込みをしていた。社交辞令だっただろうか。ちょっと迷ったけど、私はそのまま隣のテーブルへ移動することにした。


 転属したいのは山々だけれど、その見通しはまだまだ立っていない。ここは親交を深めて色々な情報を集め、有利に転属届を出すのがよさそうだ。特に一番上の上司である第四王子が魔術師という最も近寄りたくない存在でもある。先輩騎士に近付いて魔術師の弱みとか苦手なものとかも聞いておきたい。


 立ち上がって椅子を持つと、白い背広の2人が走ってきて取り上げられた。ならば皿をと振り向くと、そのまま行くようにとまた頭を下げられる。また居心地悪い思いをしながらテーブルを移ると、そこに座っていた4人もなぜか立ち上がる。

 なんだ、やるのか。いきなり先輩の親切な指導という名の組手でも始めるのか。

 思わず拳を構えると、4人ともが変な顔をした。それぞれに顔を見合わせて、それから最初に声をかけたひとりが口を開く。


「えーと、アデル嬢?」

「飛獣騎士アデルであります」

「そう、とりあえず席へどうぞ。女性に立たせたままでいるわけにはいかないから」

「…………あの、私は騎士ですが」

「騎士の前にご婦人だからね」

「はあ」


 女だろうが男だろうが、てめえら騎士になったならンなこと言い訳にするんじゃねえ、腕立て30回外周30周を3セットやってこいバカタレどもが!!!

 という、訓練中に教官からよくいただくお言葉を知らないのだろうか、この先輩騎士。

 実に奇妙な気持ちで座ると、他の先輩方も座り直した。


 近衛ここは何もかも勝手が違ってやりにくい。

 まるで文化も言葉も違う外国にひとり放り出されたような気分になってくる。

 けれど、騎士は騎士。通じ合えるところもあるはずだ。先輩には礼儀をもって敬い、これから真摯に会話すればきっと分かり合える部分も見つかるはず。


「先輩方、若輩ですが力一杯任務に励む所存であります。どうぞご指導ご鞭撻のほどを」

「あー、そういうのいらないから」


 見つかる……はず……。


「まあ、近衛っていっても第四だし? 流石に庶民は珍しいけど、落ちこぼれ同士、仲良くやろうね」


 先輩といえど、その言葉は看過できません。


「おい誰が落ちこぼれじゃボケェ!!」


 思わず心の声と声に出した言葉が逆転してしまった私に胸ぐらを掴まれた先輩は、盛大に引き攣った顔で私を見上げたのだった。

 人を勝手に落ちこぼれ呼ばわりとは、本当になんなんだ近衛騎士!!!






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