様々な人々14
この正装用騎士服はすごい。
生地が頑丈で、掴まれても千切れない。それでいて内側の生地がやたらつるつるしてるのは、掴まれたときに脱ぎやすくためだったのだ。
頭突きで怯んだ隙に上着を脱いで逃げ出し、相手が構える前に顎を蹴り上げる。起き上がると相手も戦意を失っていなかったので、次は回し蹴りからの後ろ蹴り。それでも向かってくるところは流石だ。降参しないようだったので拳を避けて胴体を何回か突く。なんか着てるな。パルダシス侯爵と戦ったおかげで、普通の騎士の動きが随分遅く見えるようになった。また手合わせしたい。
そういえば、王子の前だし王族のいる区画だから、やっぱり静かにしていないといけないんだろうか。
脇の下を突いて脚を掬う。そこでもうひとりが飛びかかってきたので転がって避けるついでに最初の男の剣を抜いて放り投げる。
第三王子が邪魔だ。投げたい場所にぼーっと突っ立つのはやめてほしい。
叫びながら突進してくる相手に腰を屈めてその勢いで投げ飛ばす。扉にぶち当てたのは私のせいじゃなく、王子が邪魔だったせいだ。呻いている一瞬を狙って剣を抜いてまた遠くに投げ、起きないように気絶させる。昏倒した瞬間に後ろから掴まれたので腹筋を使って脚を持ち上げ、背後を取って締める。
第三王子が慌てて「止めよ!」と声をかけたときには、私はもう攻撃体勢を解いていた。
棚の影にあった扉からわらわらと弓兵が出てきたのを、脚を肩幅に開き、両手を上げて待つ。
やってから気付いたけど、もしかして本気で倒さないほうがよかったんだろうか。噂の真偽を確かめたかっただけなら、こんな面倒な招待はしない気がする。近衛の上の方に引き抜くためとかだったら、やられたフリをした方がいいかもしれない。でもまあ倒しちゃったしな。それにしても弓があんなに細いのでいいんだろうか。いくら室内だからって、矢もか細い。囲んで打てばいいにしても、天井が高くて上は空いてるし。王子が逃げるまでの時間稼ぎだからいいんだろうか。
「やめなさい。騒がせたね。2人だけ残って、あとは外してくれたまえ」
第三王子が片手を上げてそう言うと、弓を持った騎士たちは揃って構えを解いた。弓を預け剣に手を置いた2人だけが残り、あとの騎士は倒れた2人を担いでまた影の扉からわらわらと帰っていく。あと何人待機してるのかちょっと覗いてみたい気がした。残った騎士2人が今にも剣を抜きそうな顔でこっちを見ているので、動かずに静かにしておく。
「なるほど、流石は中央教育隊で首位を争う位置にいた騎士。見事な動きだった」
「恐縮であります!」
「飛獣騎士が近衛に、しかも我が弟の部隊へ入ったと聞いて何かの間違いだろうと思ったが……そうではなかったようだね」
第三王子の様子は、すでに落ち着いたものへと変わっていた。両側の騎士に負けないような視線は、私のことを値踏みしているようだ。
「まったく素晴らしい。その強さに敵う者は、この王宮にもそう多くはないだろうね。……なぜその実力で近衛に入ったのか、教えてほしい」
「任命されたからであります!」
返事するたびに、騎士が私を睨んでくる。もしかして、殿下と同じような小さい声で話さないとダメなんだろうか。王宮に来てから、カミナリハゲに習った「上司に対しては腹と喉が破裂するくらいデカい返事をしろ」という教えが一度も活かされたことがない。今度文句を言いにいってやろう。
「確かに、我々には成績優秀者を自部隊へ任命する権利がある。けれど我が弟は一度たりとてその権利を行使したことがない。それどころか、近衛隊についても極力減らすようにと言っていた。そこへ近衛第一でもすぐに側仕えとなれるような実力者を入れる。それはどうしてなのかな?」
「騎士は命令に従うのみであります!」
「そう。その命令が問題だ」
ゆっくりと歩いてイスへと戻った第三王子は、ゆったりと足を組みながら私に言う。
「場合によっては君と弟には死んでもらうことになるんだよ」
めんどくせーな、そんなん本人に言えや兄弟なんだから。
私はつい口に出そうになった言葉を飲み込んだ。




