様々な人々13
髪を後ろでひとつに括った小姓の男の子は歩幅を変えずに歩き、曲がり角では直角に曲がる。随分訓練された動きだなと思いながらついていくと、大きな扉の前で小姓がこちらを向いた。
「こちらで武器をお預けください」
「……」
私は黙って腰に付けていた儀礼用の細い剣を外し、両手を差し出している小姓へ渡す。
「大変申し訳ありませんが、改めさせて頂きます」
「どうぞ」
脚を肩幅に開き、両腕を軽く浮かせると、小姓は深々と頭を下げてから片膝をついて暗器がないか調べ始める。
総夜会のあった広間のさらに向こう側へと進み、そして奥の方へと向かった時点でなんとなく予想はしていた。この大きな扉は初めて見たけれど、同じくらい豪華なものはまさに今日見てきたばかりだ。
「失礼いたしました。ご協力に感謝いたします。どうぞお入りください」
また深々と礼をした小姓が頭を上げると同時に、両開きの扉が向こう側から開く。小姓は剣を向こう側にいた騎士に預けると、また規則正しい歩き方で進み始めた。
天井が高く、長く続く廊下の両側には、紫髄石と青髄石が交互に嵌め込まれた壁が続いている。珍しい紫髄石は暗い赤みがかった色をしていて所々に発光している部分があるので、それだけでもかなり価値が高そうだ。キプカ鉱山から掘り出されたものだったら、随分大昔のものだろう。今ひっぺがして売り捌いたら屋敷が何十個も買えそうだ。
価値がわかったのは髄石だけだけど、他にも高級そうなものがたくさん並べられている。
さすが、王族が暮らす区画だけある。
「こちらへお入りください。あちらの扉が開きましたら、中へとお進みください」
薄緑色の宝石を嵌め込んだ扉の手前で、小姓は頭を下げて私を見送った。
豪華な部屋に入り扉が閉まると、向かいにあった扉が開く。
「中へ」
低いけれど、若くて張りのある声が聞こえた。両開きで開いた扉の真正面にミミがくつろげそうな巨大な机があり、その向こうに人が座っている。
あの人が、小姓の言う「我が主人」のようだ。
私がそのまま中へと入ると、扉が静かに閉められる。そして急に後ろから腕を捻り上げられて床へと叩きつけられた。
「おや、思ったよりもあっさり捕まえられたね。噂は誇張されたものだったのかな」
少し意外そうな声と共に、椅子から立ち上がる音がする。ゆっくりと近付いてきた足音からして、中肉中背。重心が右にやや傾いているのは、左足に少し問題があるからのようだ。
「このような出迎えで申し訳ない。知らない人間は信頼していなくてね。特に、いきなり王宮に姿を見せはじめたような者は」
少し笑っているような声は、余裕をたっぷり含んでいる気がした。私を取り押さえている騎士も力が強く体重もある。自他ともに認める強い騎士なのだろう。その騎士がいるからか、声の主は私のすぐ近くにしゃがみ込む。首だけ捻って視線を上げると、高そうな服を着た男が長い金髪を片側に寄せながら首を傾げた。
「挨拶が遅れてしまったね。私の名はウィルザルム。ウィルザルム・アーサー・リリディア・フィンデナルド・ロンディバルだ」
やっぱりな。
なんかこういう長い名前は前にも聞いた。この豪華な区画に住んでるのとロンディバルの姓からして間違いなく王族。そして似たような名前からして第四王子の兄なのだろう。ウィルザルムという名前は先輩たちに教えてもらった気がするけれど、何番目かは忘れた。多分王太子じゃないので2番目か3番目。第二王子は猛将として名高いから、この人は3番目のはずだ。
「失礼なことをして申し訳ないね。あなたが随分腕の立つ騎士だと聞いたものだから。でも、見た限りだとそうでもないのかな?」
第四王子は黒髪黒目だけれど、この王子は金髪に琥珀色の目をしていた。顔も鼻筋が似ているくらいだろうか。ゆったりした服の上からでも、強くはないだろうけれど鍛えているのがわかる。第四王子もこうやって普段から鍛えといてくれたらよかったのに、とちょっと思った。
「ふむ……にしては、表情が余裕そうだ。もしかして、その状態からでも反撃できると思っているのかな」
「やってもいいんでありますか?」
私が口を開くと、細められていた琥珀色の目が瞬いた。じっと私と目を合わせ、そして笑顔になる。
「どうぞ」
言質が取れたので、私は上体を思いっきり反らして乗っている人間に頭突きをした。




