様々な人々12
総夜会はつつがなく終了した。
たまに小さい魔術師がさりげなく靴を踏もうと無駄に努力していたくらいで、不審者が襲いかかってくることもなく、怪しい挙動をする人物もおらず、夜が更けてきたところで何事もなく第四皇子は退出した。
先輩たちの計画は杞憂で終わってしまったけれど、息の合った4人は別のところで活躍した。
「よし、これで10日間は手合わせの予定が埋まったね」
「騎士アデルさん、よく我慢できたよね」
「やんわり嫌味を言ってくることもあったのにねえ」
私が口を開くとややこしいことになりそうだからと言う理由で、私に話しかけてきた貴族との会話は先輩たちがほぼ請け負ってくれた。手合わせをしているという噂について肯定し、今まで負けたことがないと褒め称えて相手をその気にさせ、金を払うことについてもちゃんと了承させた上で日時を決める。その流れを、流行の話題や今年の音楽会についてなどの会話を交えてやっているのだから貴族はすごい。
先輩たちにやってもらってばかりなのはどうかと思うので自分で交渉すると言ったら「騎士アデルさんは強そうに立ってて」とだけ言われたのだった。
おかげで、殿下が会場を出るまでにたくさんの約束を取り付けることができたのである。
「はい、騎士アデルさん。どうぞ」
殿下を見送って魔術師たちとも別れた後、ローナン先輩が予定を紙に書いて渡してくれた。日付と時間順に書かれた相手、そして約束している場所。相手が仕えている貴族の家名までもがきちんと書かれていた。先輩たち、社交に関する記憶力は抜群だ。
「ありがとうございます、ローナン先輩。ワイズ先輩、ルーサー先輩、ウダン先輩も、助けてくれてありがとうございました」
「お役に立てて何よりさ」
「今日は何も起こらなくて本当によかったよ」
「厄介そうな方々が近寄ってこなかったのも幸運だったよ。殿下が噂を押さえつけてくれたおかげかな、感謝しないとね」
信じ難いけど、第四王子は私の手合わせの話から生じた変な噂について、誤りだから流布しないようにと指示を出したのだそうだ。確かに、最近は変な言葉を掛けてくるような騎士も見かけていない。私は気にしてないと言ったけど、殿下はそれでも対処してくれたらしい。
噂よりリブレを見逃してくれる方がありがたかったのに、と思っていると、ローナン先輩がにっこり笑いながら「騎士アデルさん、感謝しようね」と心を読んできた。手紙を出してくれた先輩たちの手前、文句を言うわけにもいかない。私は頷いた。
「お礼の手紙でも書いてみようか。明日の午前は空いているしね」
「あれ、騎士アデルさん部屋に帰らないの?」
「早く上がれたんで、ミミの様子を見に行ってくるであります。最近、馬の隣で寝てることが多いので」
「こんな時間なのに? 夜も遅いから気を付けてね。暴漢は投げ飛ばしていい相手だけど、騎士アデルさんが怪我しないようにね」
部屋に続く階段の前で先輩たちと別れ、厩舎の方へと向かう。
総夜会の方へ人手が割かれているからか、廊下はいつも以上に静かで耳が冴える。灯りが燃える音の他に足音を聞いて、私は後ろを振り向いた。
歩いてきたのは、小姓をしている小柄な男の子だ。年齢にしては表情が大人びている。
「騎士アデル様。我が主人が面会を申し出ております。どうぞこちらへ」
「主人とは誰でありますか?」
「ご案内いたします」
なんか怪しい。
けれど王宮で怪しい人物はそんなに珍しくないので、私はついていくことにした。




