様々な人々11
「騎士アデルさん、お花はどう? 胸元に飾ると美しさが輝くよ」
「騎士アデルさん、小さいミートパイ食べない? お肉たっぷりだよ」
「騎士アデルさん、心が安らかになる曲でも弾こうか?」
先輩たちがいつも以上に気遣いを見せている。
ありがたいけど、私の気持ちはあまり晴れなかった。
「今日は1回も誘われなかったんであります……」
「手合わせできなかったことで騎士アデルさんがこんなに落ち込むなんて」
「俺だったら頼み込んで回避したいくらいの強そうな相手と戦うのがそんなに好きなんて」
「まあ、騎士アデルさんならそうだろうね」
手合わせ1回につき貰える金額が減ったので、その分たくさん手合わせすることにした。最初は声を掛けてくる騎士が増えたけど、そのうちだんだん数が減ってきて、とうとう今日は手合わせ希望の声が掛からなくなってしまった。
何度でも戦いたいと言っていた人だって、毎日3回投げ飛ばしていたら5日で姿を見せなくなった。戦い方を教えてくれと言われたので惜しみなく見せていたら、医官が出てきてやめろと言われた。
どうやら私は、王宮にいる私と手合わせしたい騎士と手合わせし尽くしてしまったようだ。
「騎士アデルさん、お休みだと思えばそう悪くないんじゃないかな。今日はずっとミミさんと過ごせたわけだし」
「そうそう。ミミさん、なんだか嬉しそうに見えたよ」
「相変わらず騎士アデルさんの頭を食べようとしてたけどね」
確かに、手合わせ中はかまってあげられなかったミミと今日はいっぱい遊べた。森で飛ぶ訓練を長時間できたのもよかった。だけど、稼ぐ手段がなくなったのは悲しい。
「そんなにしょんぼりしないで騎士アデルさん!」
「そうだよ! あのムキムキの騎士の方々、きっとしばらくしたらまた挑んでくるよ!」
「今日はほら、実力ある方々も体力を消耗したくなかったんじゃないかな?」
「あ、確かに。顔にアザを作って総夜会に出るなんてできないからねえ」
頷いた先輩たちも私も、正装姿。今日は月に一度開催される総夜会の日である。
身嗜みについてはかなり厳しく言われるし、ご婦人方もいるので怪我や傷跡は隠せとも指導される。そのせいで手合わせ希望者がいなかったのだと先輩たちは口々に言った。
「騎士アデルさんと戦った騎士は、見たらわかるものねえ」
「顔に傷がなくても、背中や肩をさすってるからね」
「騎士アデルさんも体力温存できてよかったよ。我々だって一応は護衛の騎士なわけだからね」
「パルダシス侯爵みたいな相手ならまだしも、すぐ勝てる手合わせ程度で疲れるわけがないんであります」
「ああ、自分の体力では全く想像できない領域なのに騎士アデルさんが言うなら納得してしまうよ……」
会場に反乱軍が入り込んできて乱闘になるとかならまだしも、不審者のひとりやふたり飛び出てきたところで疲れるわけがない。むしろ飛び出てきてほしいくらいだと愚痴ると、先輩たちは4人がかりで否定してきた。本気じゃないのに。
「僕は今から緊張で疲れそうなのになあ。今日も魔術師の方々と一緒でしょう?」
「確かに。フィリア嬢とは訓練で顔を合わせるけど、相変わらずほとんど会話がないしねえ」
「騎士アデルさん、くれぐれもフィリア嬢と会場で揉めないようにお願いするよ。せめて外まで我慢してくれると信じているからね」
「最悪、彼女を外まで運ぼう」
「うん、練習した通りに対処しようね」
先輩たちは前回の経験を活かして、今回も不測の事態に対処できるように軍議を重ねてきたらしい。たまに私も意見を聞かれたけど、「こういう場合はどうするつもりか」「どうやって倒すつもりか」と私が面倒を起こす前提な質問が多かった。
「今回は平和に終わるといいなあ」
「騎士アデルさん、総夜会では普段お知り合いになれない方々もいるし、もしかしたら会場で手合わせ希望の騎士が見つかるかもしれないよ」
「そうでありますか?」
「うんうん、王宮に勤めるだけじゃなく、貴族には専属の騎士もいるしね。会話していくうちに紹介してもらえるかも」
希望が見えてきた。
貴族を護衛している騎士たちは、許可がなければ離れられない契約をしている人たちもいるらしい。そしてそういう契約をしているのはかなり強い騎士だし、守られている貴族もさらに腕を磨くことを望んでいる。だから強い相手と手合わせできるとなれば許可してくれるかもしれないそうだ。
「騎士アデルさん、気高く、かつ強さの余裕で微笑むくらいの優雅さを見せつけるようにするんだよ。きっと噂を聞いて気になっている貴族はたくさんいるからさ」
「気高く……強さ……」
貴族は見た目を重視する。優雅かつ、いかにも実力がある相手と思われるように、見た目からそれらしくする必要があるとローナン先輩は力説した。
気高く強く。つまり、ミミみたいにすればいいのだろうか。
「………………うん騎士アデルさん、ちょっと雰囲気変えようか?」
「今、俺、殺気というものを肌で感じた気がする」
「笑顔なのに誰も近寄れないねえ……」
なぜか不評だった。
それから私は、殿下を迎えにいくまで優雅な笑顔というものの練習をした。




