様々な人々9
「ほーれほーれ、どうする? 謝る?」
「いやぁっ! あっ、謝るわけないでしょ放しなさいバカッ!!」
「じゃあもう一回。ほーらあと10段で最上階だよーほーれ」
「ひゃああっ!!」
目を回しても謝らず、それどころか昇降機の使い方を教えてと頼んでも無視をしてくれやがったので、小さい魔術師には私と一緒に階段を上ってもらった。
ここの最上階は7階らしい。もちろん、貧弱な体ではそれだけ階段を上るのはつらかろうということで、私が運んであげたのである。一段一段上るたびに、持ち上げた魔術師を上へと投げては受け止めながら。
後ろを向いてから投げるので、魔術師の足はどう頑張っても床に付かない。その状態で投げるたびに魔術師は悲鳴を上げていたけれど、それでも謝らなかった。この頑なさはなかなかすごい。
「謝らないと今度は逆さに持って下りるよーほーれほーれ」
「たすけてえええっ!」
「いや謝らんか。投げとばすぞ」
「あんたなんかにいぃっ!」
1階1階通り過ぎるたびに、魔術師が顔を出していた。憎々しげにこっちを睨むものもいたけれど、ほどんどの魔術師が困惑や苦笑していただけだったのが印象的だった。
「……何をしているんだ」
「殿下っ!」
「あ、殿下」
魔術師の抵抗が激しくなったので、私は魔術師を持ち上げたまま階段を上りきる。殿下の前まで来ると、抵抗は途端になくなった。魔術師は赤い顔をしながら涙目で私を睨んでいる。
「お前は騒ぎに来たのか」
「いえ普通に来るつもりでありましたが、こいつが入り口で」
「あああああっ!」
小さい足が私を蹴ってきたので、脇を持ち上げる方式から体制を変えて丸太を運ぶように横に抱えてやった。
「……案内を申し出てくれたので、その親切に感謝しここの案内をしてもらっていたんであります。ですよね?」
「……!!」
「私は折々たしなめていたんでありますが、彼女は私がこの魔術師だらけのとこに来たのがよっっっぽど嬉しかったらしく、我を忘れてはしゃいでしまったみたいであります。ですよね?」
自分が嫌っている相手を大歓迎したことにされるか、本当のことをバラされるか。
小さい魔術師は私を呪い殺さんばかりに睨みつけながらも、歯を食いしばったまま黙って頷いた。殿下の前で意地汚いところは見せたくないようだ。ご結構なことである。
「親切にどうもありがとうございました。お礼に空を飛ぶ気持ちを味わわせてやります」
左手で足、右手で胴体を抱え込んだままぐるぐる回る。殿下の手前やめろと叫ぶこともできず、かといって自力で逃げ出すこともできず、魔術師はせめてもの抵抗でムー! と鳴いている。
「……その辺にしておいてやれ」
流石に殿下が止めに入ったので、私は魔術師を床に置いた。目を回している魔術師は、ローブの裾を直すフリをして私を蹴ろうと足を伸ばす。こいつ、身体鍛えたらいい騎士になるだろうになあ。
蹴りを避けてにやーっと笑って見せると、魔術師は私をキッと睨んでから殿下の方へと縋るような目線を向けた。
「殿下! なぜこのような人間をここへ呼んだのですか」
「話をするためだ」
「ここは魔術師の聖域です。こんな、こんな者を入れて……この者は、魔術師のことを暴いて世間へ広めるに違いありません!」
「下がっていろ。用があればまた呼ぶ」
「殿下……!」
言うだけ言って部屋に戻っていった殿下に、魔術師はまだ何か言いたげだった。だけど結局、黙って立ち上がる。その顔が少し寂しそうだったので、私は声をかけてあげることにした。
「腕力、まったく鍛えられてないでありますよ」
「うるさいっ!」
蹴り上げた足も筋力不足でまた空振りし、魔術師はそのまま階段を降りていった。私はドアを軽くノックして中に入る。
「失礼します!! 近衛第四部隊騎士アデル、参上いたしました!!!」
「声が大きい」
ドアを閉めろと言われて、入ってきたドアを閉める。
部屋の中は、調度品こそ高級そうだったものの、本だらけなところは最初に入った部屋とそう変わらなかった。窓が大きくて窓枠もしっかりしている。出入りするのに便利そうだけれど、王族の設備としては防犯面がやや心配な気がする。
大きな机には、巻紙が広げられている。何かの図面と共に読めない字が書かれたそれを見ていると、遮るように伸ばされた手がそれをさっと丸めてしまった。
紙を全て巻き脇の棚へと入れた第四王子が、豪華な椅子に座って口を開く。
「用があるのだろう。私は忙しい。手短に話せ」




