様々な人々6
「ご指導ありがとうございました!!! 失礼します!!!」
あんまり得意じゃない剣だったので多少手こずったけれど、私は予定通り、昼前には第一部隊第三班の連中を全員片付けることができた。
ワシリス班長たちの戦いはパルダシス侯爵のそれにちょっと似ていたけれど、あの人ほど問答無用で倒す気持ちが感じられないし、型を守り過ぎている。戦う相手も型を守る人だったらいい線いきそうだ。
ああいう戦い方はギルの方が正攻法で勝ちそうだな。でも、私も勝ったから別にいい。倒れ込んだ全員からの臨時収入も確定したし、有意義な時間だった。
上機嫌で食堂に行くと、先輩たちがソワソワしながら待っていた。
「騎士アデルさん! 第一部隊の方に連れていかれたって聞いたけど大丈夫だった?!」
「知ってたんでありますか」
「王宮の話は春風より速いからね」
ローナン先輩たちは貴族で知り合いが多いので、村よりも情報をすぐに集められる。
私が強そうな騎士に連れていかれたのを誰かが目撃していたらしく、それを聞いた先輩たちは心配しながら待っていたそうだ。
「騎士アデルさんは、何もなければ目上の方には従ってるでしょう。だから、第一の方々に無理を言われても断れないんじゃないかと思って。何か言われたの?」
「手合わせしろと言われたので、してきただけであります」
「えっ?! あの人たち本物の近衛騎士だよ! 大丈夫なの騎士アデルさん!」
「そうだよ! 本当の騎士だよ!」
「先輩方だって本物でありますよ。弱いけど」
私は手合わせを申し込まれてから今までの流れを軽く説明した。配膳された器にも手をつけずにそれを聞いていた先輩たちは、最後の1人を倒した話のところで同時に息を吐く。
「よかった。騎士アデルさん、まだ肋骨が治りきってないって言ってたから心配だったんだよ」
「騎士アデルさんが負けるわけないんだったね、そうだった」
「パルダシス侯爵とあれだけ激しく拳を交わらせてたのだものねえ」
「騎士アデルさんに勝てる人間はそういない」
うんうんと頷き合っている4人は、私が無敵か何かだと思ってる気がする。
ちょっと不満に思っていると、目が合った給仕が素早く肉を持ってきてくれた。なんか違うふうに勘違いされたけど肉は美味しい。
「教育隊でも上級になると対人格闘の時間は減るんで、久々に地面に立ってあれだけ手合わせできたのはよかったんであります」
「ああ、グリフに乗るのだものねえ」
「ねえ騎士アデルさん、グリフに乗る騎士は槍を使うんだってね。どうやるの?」
「振り回した槍が翼に当たらないのかい?」
先輩たちは、素振りだけど武器を持って訓練しているせいか、飛獣格闘にも興味が湧いたらしい。私が一番好きで得意なことなので嬉しい。
「グリフは突進が得意なので、主に突いたり薙ぎ払ったりする動きが多いんでありますね。でもやっぱり空中で間合いを詰めるのは難しいんで、獣槍は普通の槍よりもうんと長いんであります」
「そうなんだ! 剣でも重くて振り回されるけど、そんなに長いと大変だね」
「獣槍はかなり軽く作られてるんで、慣れれば普通の槍と同じように扱えるんであります。でも慣れるまでは難しくて、私もミミから落ちたり翼に当てて怒られたりしたものであります」
「騎士アデルさんも落ちるんだ……」
「そして落ちても無事なんだね……知ってた……」
槍を振り回すと重心が揺れやすいので、騎士を乗せているグリフたちは最初は嫌がる。けれど、獣槍を扱えるようになったグリフは強い。狩りの効率も上がるとわかると、グリフたちは槍の位置や騎士の重心を覚えて、より最適な姿勢で合わせてくれるようになるのだ。
獣槍の訓練中の、ある日を境にぐんぐん上達するあの感じ。ミミと過ごしてきた中でも一番楽しい思い出かもしれない。
私がそう話すと、先輩たちも目を輝かせた。
「羨ましいなあ! 動物とそうやって力を合わせて戦うなんて」
「俺もグリフに乗れるくらい強くなりたいなあ」
「夢のまた夢だねえ」
「馬なら練習すれば先輩方でも乗れるんであります。馬に乗って戦うのも難しいけど、地面の硬さを感じる動きの中で槍を振り回すのも気持ちいいんでありますよ」
「やってみたいなあ〜」
先輩たちは「動物と共に戦えるなら何を相棒にするか」で盛り上がり始めた。私は断然グリフ一択だけれど、先輩たちは「非現実的すぎる」と却下してしまう。動物の特性の話から、最終的にウサギやら猫やらの可愛さについて語り始めたあたりで、私たちのテーブルに近付いてくる人間がいた。
第四部隊ではないけれど、体格からしてコネ枠の騎士だ。
「お話中に失礼。第四部隊の騎士アデルさん、我々の先輩があなたに会いたがっている。午後に第七区画で待っていると。いいかな?」
私と先輩たちは顔を見合わせた。




