様々な人々1
「あっ騎士アデルさん! よかった!」
「おはようございます、先輩方」
朝、上機嫌のミミを連れていつも訓練している庭に降りると、先輩たちが駆け寄ってきた。
「おはよう、騎士アデルさん。その、昨夜は大丈夫だった? 部屋に戻っていないみたいだったから心配で」
「昨日はミミと寝たんであります」
「え? どこで?」
「厩舎であります」
「え?!」
第四王子が戦争を止めるだの言い出した上にその方法は教えないだのほざきくださったおかげで、私はとても部屋で寝る気になれなかったのだ。
本当にそんな方法があるのか、どんな方法なのか、いつできるのか、誰が阻止しようとするのか、本当にできるのか……考えていたらむしゃくしゃしたので、私はミミの翼の下で寝ることにした。
厩舎に行くとなぜかミミが隣の馬のところで寝ていたせいで馬体と翼に挟まれながら寝ることになったけれど、温かくて寝やすかった。
第四王子は希代のバカなのか、それとも希代の賢君なのか。
結局考えても答えは出なかった。どっちにしろ、私は殿下がミミに気に入られるようになったら前線に飛んでいくだけなので関係ないし。
「それはその、殿下が罰を下されて……?」
「いえ、ミミと寝ると落ち着くんであります。羽根が気持ちいいし」
「えぇ……そ、そうか、よかった。昨夜、魔術師のことで騎士アデルさんが怒られたんじゃないかと思ってみんなで心配してたんだ」
「そうそう。騎士アデルさんの気持ちもわからなくはないけれどちょっと激しすぎたし、殿下は落ち着いた方だけど魔術師の代表といわれる方だし」
「あっ」
「ちょっと待ってよ『あっ』ってなんだい?! もしかして忘れていたのかい騎士アデルさん?!」
そういえば、魔術師に対して怒ってたんだった。
戦争を止められるかどうかで頭がいっぱいになって、魔術師が仕事をサボってる理由はなんか適当に誤魔化された気がする。
「まさか有耶無耶にするためにあんな話を……?」
「騎士アデルさん、騎士アデルさん。忘れてたんなら思い出さなくてもいいと思うな」
「そうそう。ほら、今日は果物があるよ騎士アデルさん。朝食のときに食べようよ」
「今日の朝食は牛肉の煮込みだって。うちの料理長が王宮の料理番と知り合いなんだけれど、アデルさんの食べっぷりは評判になっているらしいよ」
確かに、戦争がなくなったら魔術師が前線に来ようが来まいが関係ないし、というかむしろ森に怪しい人間が近寄らないほうがグリフにもいいだろうし、でも現時点ではまだ前線は日々争いが起こっているわけで、魔術師が来るなら来るに越したことはないだろうし、でも現状魔術師は態度だけがでかくて何もしてないやつだからそれはそれで邪魔だし……
「騎士アデルさん? ねえ聞いてる?」
「そんなに深刻そうな顔で思い出さなくてもいいんだよ! ね!」
「仲良くしようよ騎士アデルさん。少なくとも、彼らのことは気にしないで、何か楽しいことでもしようよ」
「騎士アデルさん、父が総夜会のことについて話したいと言っていた。魔術師の話よりは楽しいのではないだろうか」
殿下の言っている戦争阻止の方法が実在するにしても、まだ先の話のようだった。先ってどれくらいなんだろう。10日? 1ヶ月? 10ヶ月?
殿下は力も弱そうなので、手伝えることがあったら私も手伝って時期を早めたい。けれど、3回投げたのに口を割らなかった殿下が私に手伝いをさせるとも思えない。
「騎士アデルさーん。おーい」
具体的な方法や準備について教えてもらえない限り、やることは限られてくる。けれど、だからといって時間が余っているわけじゃない。戦争を止めるために何が必要なのか、誰をどれだけ動かすのか。よくわからないけれど、いざそのときが来たときに、私の準備不足で遅れることだけは絶対に避けるべきだ。
ミミはいつでも準備できている。私も負けないようにしないと。
「では先輩、今日から3倍の練習量にしましょう!!!」
「騎士アデルさんが乱心した!」
「私も3倍鍛えるんであります!!! 先輩も何があってもいいように鍛えてください!!!」
「何が起こるっていうんだい?! 反乱はダメだよ騎士アデルさん!」
「朝は走るだけじゃなくて格闘もやるんであります!!」
「誰か助けてぇ!」
よくわかんないけど、先輩たちも鍛えとこう。
そう思ってメニューを追加すると、ローナン先輩たちはグリフのヒナみたいな声を出したのだった。




