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グリフと王国の盾  作者: 夏野 夜子


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王宮の夜21

「ミミ、勝手に出たらダメだよ。明日になったら山の方に連れてってあげるから」


 ピャーッ!! と鳴いたミミはまだ不満そうだったものの、大人しく厩舎の大きい区画に収まった。首筋を撫でてやると、キューと鳴いて私の手首を軽く咥えてから敷き藁の上に大人しく伏せる。くわーと大きなあくびをしたので、やっぱり眠いようだ。

 クチバシが背中の羽根にしまわれるのを見てから私も戻る。同じ並びにいる馬たちは、怯えたように端に寄っていた。


「脅かしてごめんね。ミミはいい子だから怖がらなくて大丈夫だよ」


 ミミの隣にいる馬に手を伸ばして首筋を叩いてやると、ブルルと息を吐いていた。

 厩舎から王宮に戻ると、今度は先輩たちがプルプルしていた。


「お待たせしました。ミミも眠かったみたいで、おとなしくなったんであります」

「それはなによりだよ……流石に人間の頭を咥えて振り回すのは危険すぎるからね……あのときはさすがに騎士アデルさんが食べられると思ったよ」

「怪我すらしていないんであります。ミミはああ見えてちゃんと手加減してるので」

「いやいや騎士アデルさん、手加減してようが何だろうがあれは見てるだけで怖いからね。しかも王宮のあんな真ん中でやるっていうだけで俺たちも死ぬかと思ったからね」


 不審者を締め魔術師を揺さぶっていたところ、騒ぎを聞きつけて見張りの騎士がやってきてしまった。第四王子が適当に説明してくれたおかげでお咎めなしだったものの、私たちは場所を移せと殿下に言われていつもの区画へと戻ってきたのである。


 広い休憩室にいるのは6人。私とローナン先輩、ワイズ先輩、ウダン先輩に、魔術師が2人だ。つっかかってくるうるさい魔術師は私がミミに振り回された勢いで噴水に投げてしまいびしょ濡れに、殿下は水しぶきがかかったのでそれぞれ着替えに行ったのだ。


「ルーサー先輩はどこに行ったんでありますか?」

「ああ、伝言を頼んだからそろそろ来るんじゃないかなあ」


 ローナン先輩の言葉通り、間も無くドアがノックされた。やってきたのはルーサー先輩である。髪を結び上着を脇に抱えて腕まくりをしていた。ワイズ先輩が手を挙げると、その隣に座る。


「やあ。みんな無事だったかい?」

「どうにか。会場はどう?」

「なんとか誤魔化せたかな。演奏してても声が聞こえてたけどね」

「ルーサー先輩、楽器弾いてたんでありますか?」


 そうさ、と頷いたルーサー先輩やローナン先輩の話によると。

 不審者を確保した後、ルーサー先輩は楽団の方へと近付いていった。そこで知り合いの奏者から楽器を借り、大きな音量で演奏を始めたのだそうだ。


「ルーサーは音楽の才能があってね。どんな楽器でも弾きこなすのさ」

「それは流石に言い過ぎだよ、ローナン。確かに不得意な楽器にはまだ出会ったことがないけれど」

「弾き続けると聴衆は踊りだし、そして他の奏者は自らの楽器を奏で始める。そうやって集中していれば、少しの騒ぎくらいは気にしないで貰えただろう」

「咄嗟の判断ですごいでありますね」

「そうでもない。実はみんなで話し合ってたんだ。万が一のことがあるといけないから」


 騒ぎが起こってしまったときの対処法を、先輩たちは考えていたらしい。怪しい人がいたら自分たちが先に話し合って穏便に済ませるだとか、さりげなく殿下を誘導して退場させるだとか、物騒なことになったらルーサー先輩の演奏で誤魔化したり、顔見知りである位の高い親戚に助けを求めたりだとか。

 どれも私が想定していた対処とは全く違ったものだったけれど、実際に役に立ったのだからすごい。


「僕らもルーサーの演奏を聞きたかったなあ」

「そんなに上手なんでありますか? ルーサー先輩は王立楽団に入ってるんでありますか?」


 私が訊くと、ルーサー先輩がまさかと肩をすくめた。


「入りたいのは山々だけど、貴族だからね。音楽を嗜むのは褒められることなのに、演奏にのめり込むのは止められてしまうんだよ。楽団に入るなんてもってのほか」

「王立楽団は腕がよければどんな人間でも入れるって聞いたことがあります。でも貴族が入ったらダメなんでありますか?」


 ルーサー先輩が無言で肩をすくめ、ワイズ先輩が頷いて口を開く。


「それはさ騎士アデルさん、どれだけ貧しくても国外の人間でも上手ければ入れるって意味なんだよ。でも、昔は楽団って流浪の民が街々を回ってやっていたものだろう? その、物乞いのようなものだっていう意識をまだ持っている貴族はまだ少なくないからね」

「王立楽団は、いい暮らしができるって有名であります」

「実際、没落した貴族よりはいい暮らしができると思うよ。それでも貴族が楽団に入りたいなんて、とても言えるものじゃないんだ。変だろ?」

「変でありますね。本当に誰でもじゃなかったら、王立楽団は国で最も美しい音楽を奏でるというのが本当かわからないんであります」


 私が頷くと、ワイズ先輩が笑顔になった。


「そうなんだ。ルーサーが入れば間違いなく国、いやこの世界で一番の楽団になるのにね」

「よしてくれよワイズ。今だって随分好き勝手させてもらってるからそれで充分。それに、僕はこの生活だってあながち嫌いじゃないからね」

「そんなこと言って、毎朝走っているときに『僕はもうやめる、やめるんだ』って呟いてるじゃないか」

「ワイズだって『助けて母上さま』って言ってるだろう」

「言ってないって!」


 2人のやりとりをあははと笑っていたローナン先輩も、つらくて半泣きになっているとバラされてムキになる。ウダン先輩は終わった後に動かなくなると暴露され眉尻を下げていた。

 先輩たちが戦場に行ったら、もしかしたら戦争が終わるかもしれない。戦いに勝つからではなく、ほのぼのした雰囲気に戦意が失せるからという意味で。

 平和ボケといっても、ここまでくるとすごい。

 何しろ、私たちの隣のテーブルには、黒いローブを被った男2人組がじっとこっちを睨んでいるからだ。いや、こっちというよりは私か。



 



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