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王宮の夜7

「そろそろ出発しよう。あまり大袈裟にお邪魔してもよくないから、馬車は3台にしようか」

「なんで5人で行くのに馬車が3台もいるんでありますか」


 家に案内するウダン先輩の1台と、それから私が乗る1台。そして残り3人が乗る1台で計3台だと、ワイズ先輩は言った。


「アホなんでありますか!! あのクソデカい馬車なら全員乗れるでしょうが!! であります!!」

「いやあれは4人乗りだから5人は無理だし、そもそも騎士アデルさんはご婦人だから……ご家族の許可もなしに同乗なんてできないよ。こちらは男ばかりだし」

「なんじゃそりゃ!!!」

「騎士アデルさん、お勤めの人が帰る時間帯だから静かにね」


 何が楽しくてこんなゴテゴテした固い乗り物にひとり閉じ込められないといけないのか。これを気遣いだと思える貴族は、全く違う生き物だと言われても納得できるほど謎だ。


「私はミミで行くので、先輩方は全員同じ馬車に乗ったらいいんであります。こんなしょーもないことに付き合わされる馬が可哀想なんであります」


 お祭りでもないのに1台につき3頭立ての馬車なのだから、ひょろい先輩が4人乗ったところでどうにもならないはずだ。そもそも4人乗りなんだから同乗すればいいだけだ。私がそう言うと、先輩たちは顔を見合わせた。ローナン先輩が心配そうな顔になる。


「もう陽が傾いているし、西風にご婦人ひとりで晒すのも」

「たとえ吹雪だったとしても、私は先輩方以上に元気に過ごせる自信しかないんであります」

「た、確かに……いや、じゃあ、地図を用意させよう。グリフに乗って行くのなら場所がわからないと大変だろうし」

「王都の地形も見慣れてるので貴族邸のあるあたりもわかりますし、先輩の馬車を見ながら飛ぶので迷うことはないんであります」

「えっ空を飛びながらそんなことできるのかい? 騎士アデルさんって目がいいんだねえ」

「飛獣騎士は目がよくないとなれないんであります」


 ミミは暗い森を走るウサギを追えるのだから、街並みをのろのろ動く馬車を見失うはずはない。私もミミほどじゃないけど、視力には自信があった。市場の方は幌が出ていて見えにくいところもあるけれど、王宮に近いほどに道は整備されて空からは丸見えだ。貴族の家は高い塀が囲んでいることが多いけれど、ミミがいればどこだって侵入できるだろう。グリフの森から離れた地域は、どの街も上側がまったく無防備だ。


「飛ぶ方が早いんで、少し時間を潰して到着する頃に戻るであります。ミミが退屈してるし」

「そうだね。騎士アデルさんが午後の指導を受けてるとき、すごく鳴いていたし……」

「教育隊だと他のグリフと遊べたんでありますが、ここは退屈みたいであります」

「確かに。騎士アデルさんが来るまで、王宮でグリフなんて式典でしかみたことなかったもの」


 頷き合う先輩の話に、私は思わず顔を顰めた。


「あんな状態のグリフとミミを一緒にしないでほしいんであります……とにかく先輩方、また後で」

「うん。気を付けて」


 4人が馬車に乗るのを見送ってから口笛を吹くと、近くのバルコニーからこっちを覗いていたミミがピャッと鳴いて降りてきた。クチバシを大きく開けたので、両手でクチバシを掴んで押し返す。


「今はカパッてやっちゃダメ。訪問が終わってからね。ほら散歩行こう!」


 ミミは不満そうな顔をしたものの、黒い鱗の尻尾を振って私が乗るのを待った。軽く助走をつけてから空へと浮き上がる。ミミの背中に抱きつく形で下を見ると、白い屋根に金色の装飾をした馬車がゆっくりと進んでいた。

 家に帰る貴族が多い時間だからか、道に馬車が多い。時間がかかりそうなので、ミミのやりたいままに高度を上げた。いい風が吹いて、それにミミが体を乗せる。ぐっと高度が上がったところで南側にグリフの群れが見えた。ミミがそちらへ向かってピャーッと鳴くと、返事が聞こえる。


「中央訓練部隊の演習場はあっちだし、誰だろう……ギルかな?」


 ミミよりやや高い声で鳴いているのは、ギルのグリフであるオーフェンな気がする。つまりあれは前線へ行くための訓練部隊だろうか。

 街を見下ろして、それから群れとの距離を見る。挨拶くらいはできそうだ。手綱を引くと、ミミがピャッと鳴いて群れの方へと羽ばたいた。






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