王宮の夜6
「大変だよ騎士アデルさん!」
「どうしたんでありますか」
優雅にお茶を飲んでいたはずの先輩が、慌てて寄ってきた。手には手紙を持っている。
「パルダシス侯爵にお伺いの手紙を出したらその、公務が終わり次第家に来いって」
「話の早い、いい貴族でありますね」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ〜! 騎士アデルさん、ウダンのご家族のお顔覚えてないでしょ? ご当主と次期侯爵、奥様くらいは覚えておかないと! あと礼儀の確認と手土産と……」
大変だーと慌てているローナン先輩は、見てる分には全く大変じゃなさそうに思えるのはなぜだろう。貴族は慌てていてものんびりしている雰囲気を出している気がする。
「貴族の家では、お邪魔した家で家族の顔と名前を当てるゲームをするんでありますか?」
「いやしないよそんなこと!」
「なら、そんなに躍起になって覚える必要もないと思うんであります」
「でも名前を覚えてないと、ご挨拶できないよ」
「ウダン先輩の父君母君兄君でいいんでは」
「いやそれは……絶対ダメってわけじゃないけど……でも覚えたほうがいいんじゃないかな……!」
頭を抱えているローナン先輩の肩を、ルーサー先輩が止めた。
「まあまあ、晩餐会に招待されたというわけでもないんだ。あまり畏まりすぎるのもよくないかもしれない。それにパルダシス侯爵はすぐにご招待されたんだ。形式に目を瞑られているのだから、礼儀より本題を重要視されるんじゃないかな。ワイズはどう思う?」
「確かに。次期侯爵だって、第一部隊の隊長だ。あそこの上部は実務最優先で無駄を好まないと聞くし、素直に要件だけ伝えたら案外許してくれるかもしれない」
ウダン先輩を見上げると軽く頷いた。
「礼儀については厳しくはないと思う。ただ、うちの一族は弱い者にはよい態度は取らない。そういった意味で父や兄が失礼なことを言うかもしれない」
「ウダン先輩のご家族は、どれくらい強いんでありますか?」
「近衛の中では一、二を争う実力の持ち主だよ。実力で入った方々だ」
強いのだろうが、近衛隊に弱い騎士が溢れているのを知っている分あまり想像が湧かなかった。一般の騎士と比べてどれほどの差があるのだろうか。
「では、準備が必要でありますね」
「そうだよ。まず、服装はできうる限り気を付けて、侯爵がお好みの手土産を誰かから探らないと」
「それぞれの得意な武器も知りたいであります。槍なら得意なのであるものでいいけど、剣は馴染んだものをいくつかほしいし、縄棒は教育隊から借りてこないと」
「騎士アデルさんその準備なんだか普通と違うね!?」
やんわりと止めてくる3人に、私は拳を握ってみせた。
「戦うことを生業とし、強さを重視してる人に対しては、こっちもてめえに勝つ気と実力があるんだと教えてやるのが一番であります」
「聞いたことないお作法すぎるよぉ」
「ウダン先輩のことをただ弱いだけで見下すなら、こっちが一発ぶちかますくらいのつもりで行った方がいいんであります」
「騎士アデルさんお願い、ものを壊したり侯爵を投げ飛ばしたりするのはやめようね。個人の邸宅での面倒は本当に大変だから。本当の本当に大変だからね」
「大丈夫であります。相手も戦いを知ってるなら、投げ飛ばすほどに弱くはないんであります」
「ウダン、やっぱり訪問は見合わせた方がいいんじゃないかい? 僕らの立場が吹き飛ぶかもしれないよ?」
3人の心配に反して、ウダン先輩はさほど心配していないようだった。私をじっと見ると頷く。
「騎士アデルさんなら大丈夫だ」
「ウダン、正気に戻るんだ!」
「とりあえず傷薬も持っていこう」
「騎士アデルさん、お茶飲んで落ち着こうか。汚れを落とすついでにゆっくりとお風呂に入るのもいいかもしれない」
こうして心配性3人組もついてくることになったのだった。




