わずかな変化1
固い土肌が見えている山に目掛けて、ミミが滑空する。
礼儀作法の訓練を終えてからまた少し飛んで満足したらしいミミは、開け放たれた区切りのひとつに入った。新しい藁の感触を確かめているミミの鞍を外してから私は廊下の方へ出る。桶に新しい水を汲み、新鮮な小麦と木の実が入った木箱を引きずってミミの前に置いてやる。いつもの夜の支度にミミはピャーッと嬉しそうに鳴いて早速木の実を食べ始めた。
「また明日ね」
跳ね上げ戸を閉め、羽毛の白いところを撫でてから出ると、ピャーッと声が聞こえる。ミミじゃない。鳴いたのは、ミミの隣に住んでいるグリフだ。薄暗い部屋の中で、仕切りの向こうから顔を出してこっちを見ている。
「オーフェン、戻ってたんだ」
声を掛けると、ピャーッとまたオーフェンが鳴いた。
オーフェンはギルのグリフだ。私には甘えてきたりはしないけれど、訓練隊でずっと一緒だったので顔を覚えてくれている。槍獣部隊は訓練が長いようで最近は姿を見ていなかったけれど、今日は飲み会だからかもう帰ってきたらしい。
ミミより少し黒っぽい茶色の頭が引っ込んだかと思うと、また私を見てピャーッと鳴く。近付いていってみると、黄色いクチバシが木箱を壁に当ててゴンゴン鳴らしながら引っ張ってきた。
「ありゃ、おやつ食べ切ったの? ギルは気が利かないねー」
ミミがおやつを食べ始めたので、自分も食べたくなったらしい。
木箱は大きいので、グリフが中のおやつを食べ切ることは少ない。ギルが入れ忘れたということはないので、オーフェンのお腹がよほど空いていたのかもしれない。
オーフェンから箱を受け取って麻袋から山盛り補充してやり、散らばった麦や木の実の皮を外に掃き出してから箱を戻す。ついでに水も半分以下になっていたので補充してやった。
大人しく見ていたオーフェンが、私に向かってピャッと鳴く。
「うん、お代はギルに請求しとくね」
私が手を上げると、オーフェンは頭を下げてちょっとだけ撫でさせてくれた。するとミミが首を伸ばして文句を言ったので、木の実を少しだけ追加してやる。手のひらに載せて食べさせると、ミミはピャーと鳴いて許してくれた。
「親父さんまた明日〜」
「おう、じゃあなアデル」
続々と帰ってくるグリフたちとその世話をする飛獣騎士の間をすり抜けて外へ出る。これから着替えて赤猫亭に行く頃には、もう2人は先に着いてそうだ。
もう星が光り始めている空の下、明かりの灯る街の方へと私は走って駆け降りた。




