新しい訓練2
炎天下の30日間演習を終えて帰ってきたとき、訓練隊の隊長は言った。
『この地獄を潜り抜けてきた貴様らを誇りに思う。この先、どのような任務でも命令でも、これよりつらいことはない。そのような過酷な演習を無事修了したという自信を持て』
カミナリハゲ、今度会ったら後ろから忍び寄ってケツを蹴り飛ばしてやる。
ミミに魔術師を乗せるくらいなら、あの演習にもう1回行ったほうがマシだ。あれはただ自分の体力を削るだけでいいんだから。
心の中で訓練隊長を恨みつつ、私は第四王子に言った。
「我々飛獣騎士はグリフを訓練して戦うことが仕事ですが、グリフに無理をさせることはできません。グリフが乗せようと思った相手じゃないと、その背に乗ることはできません。グリフが認めない相手は、一生涯、グリフに触れることすらできないのです」
中央訓練部隊飛獣教育隊の卒業生が毎年20人を超えないのは、カミナリハゲの訓練が厳しすぎるという理由だけではない。
入隊試験として、自分を乗せるグリフを見つけなければいけないからだ。
グリフは気高い生き物で、普段は高い山や切り立った崖の近くに住んでいる。温和なので無闇に人を襲うことはないけれど、賢いのでおいそれと人を近付かせることもない。時間をかけてグリフと距離を詰め、そのグリフのことを知り、グリフに自分のことを知ってもらい、その上で信頼を得なければ、グリフは自らに触れることすら許さないのだ。
私は家にいた頃からミミと仲が良かったので試験は免除だったけれど、王都に近い山の頂上付近には、グリフとの信頼を勝ち取ろうと何年も暮らしている人もいるそうだ。
「で! す! の! で!」
「五月蝿い、声を荒げるな」
「……。殿下がミミに気に入られなければ! どんな訓練をしても無理!! であります!」
思い付き程度でグリフに乗れるなら、我が国の飛獣騎士は旅団を組んで隣国を制圧できるはずだ。王子だか魔術師だか何だか知らないけれど、何でも自分の思い通りになると思ってもらっては困る。
絶対に無理、天地がひっくり返っても無理、と繰り返すと、少しは第四王子に伝わったらしい。
「では、私がそのグリフに触れられれば貴様は乗るよう仕込むのだな」
「もし、もし、私のミミが殿下に心を許したんだったら、乗せてあげるように訓練するであります」
「そうか」
無表情の第四王子は短く頷くと、おもむろにミミに手を伸ばした。
ミミの目が険しくなり、くわっとクチバシを開けてピャーッ!!! と威嚇をする。
「……」
「ミミは誇り高くて可愛いグリフですから、無理ですね」
茶色い羽を逆立てて怒るミミに、私はほくそ笑んだ。
この調子でいれば、殿下も飛獣に乗るのを諦めるだろう。そうしたら私はお役御免、晴れて前線に行けるわけだ。
頑張れミミ。さっさとここからおさらばして、早く一緒に戦おうね。
励ますように肩を叩くと、怒っているミミがそのまま私の方を向いてカパッと頭を咥えた。
「……おい、生きてるか。それは嫌われてるんじゃないのか」
「これはミミの愛情の裏返しですからっっ!!」
第四王子はその後、私に洗顔してくるように命令した。