悪夢の配属1
グリフは、空を飛ぶ最も美しい獣だ。
そのクチバシは黄色く、抱きしめても手が回らないほど大きい。焦げ茶の羽根に覆われた頭は鷲とほとんど同じで、黄色い目がいつも鋭く周囲を窺っている。首筋から胸にかけては白く柔らかな羽根に変わって間から前脚の鉤爪を覗かせ、やがてそれは薄い小麦色の毛皮へと変化して太く力強い獣の後脚へと続いている。短くてややごわごわした毛皮は尾の付け根で終わり、そこから先は黒く光る蛇の鱗が覆っているのだ。
大鷲と獅子を合わせた体に、黒蛇の尾。神が気まぐれに創りたもうたと言われるその獣の一頭が、いま私の傍で大人しく頭を下げて座っていた。腕に当たるクチバシを叩いてやり、それから軽く手綱を引いて立たせる。大きな獣を伴って壇上へと登ると、筋肉質で強面でガミガミ厳しいカミナリハゲ……じゃなくて、訓練隊長が堂々と立っていた。
「アデル」
「はい」
「今までよく訓練した」
2年前に訓練隊へ入隊してから、初めて聞いた褒め言葉だった。
よく訓練した。確かに、この2年というもの、ゆっくり休めた日は1日もなかった。雨の日も風の日も雪の日も日照りの日も、ただひたすら怒られ、走らされ、訓練させられた。こんなに大変だと最初に知っていたら入隊しなかっただろう。それでも歯を食いしばって耐え、眠気を殺して学び、そして戦いの術を身に付けた。
その努力の結晶が今ここにある。
「貴様の配属先を発表する」
「はいっ!!」
「教育隊第一班副班長アデル。貴様を近衛隊第四部隊配属とし、以後近衛飛獣騎士アデルとして王国に仕えることを命ずる」
「………………………………………………」
カミナリハゲはしかつめらしい顔で告げると、所属を表す金の徽章を私へと差し出した。
「受け取れアデル。今後は貴様の命が潰えるまで誠心誠意王族に仕えろ」
「ヤダーッ!!!!」
私の咆哮を聞いて、グリフのミミがピャーッ!! と大声を上げた。
「ヤダヤダヤダヤダヤダ!!! なんで近衛っ!! 私は槍獣第一部隊希望だと言いました!! 何かの間違いです!!」
「貴様ァッ決まったことに文句を言うなッ!! 騎士らしく命令に従えッ!!」
「ヤダヤダヤダ槍獣がいい槍獣じゃないとやだ絶対ヤダヤダヤダヤダーッ!!!」
ミミと一緒にヤダヤダヤダと抗議し、寝転がって四肢をばたつかせてまで異議を唱えたものの。教育隊の猛者たちに寄ってたかって取り押さえられ、バカか貴様はと夜を徹して説教をされたのち。
私の配属先は、近衛隊へと決定したのだった。